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灰色の対極 ~魔法使いの幼馴染を交通事故から助けたら僕も魔法使いになったみたいなんですが~  作者:
第二章 天使時間の歯車

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2-25 歯車探し

 結局、それ以上の説明を求めて答えが返ってきても、その答えを理解することができなかった。


 無いから、無い。無いから無くても無いから無い。


 そんな話を何度も繰り返されたせいで、余計に頭がこんがらがる。存在についての哲学を目の前で話された様な気分だ。


 でも、彼女はいたってまじめな顔で、何度聞いても適切に教えてくれる。一瞬、ヤバい人だ、と思わずにはいられなかったけれど、それはさておき説明する気くらいはあったらしい。……まあ、その気に反して、僕は何一つとして理解をすることはできなかったけれど。


「ええとさ、とりあえず、立花先生に頼まれたことがあったんだ」


「……そうなの」


「うん。もし、次に世界が止まったりしたら、その世界を止めている原因を──」


 そこで、言葉が詰まる。


 思い出すのは、先生の命令。でも、あの命令を思い出せば、魔法に対する劣等感を拡大解釈して魔法使いを殺したいという殺人願望が蘇ろうとする。


「……だいじょうぶだよ。黒いたまきくんはしばらく出てこれないから」


「……え?」


「わたしが押しこんだから、だいじょうぶ」


「……よくわからないけれど、なんかありがとうね」


 ……彼女は、一体何なのだろうか。


 以前から僕の紋章についてをひたすらに見てきたり、魔法の反発についてを練習したり、そしてこの場で動くことができていたり、──僕のアレを知っていたり。


 でも、彼女に聞く勇気は、今のところはない。


 ……だって、説明、よくわかんないんだもん。





 天音さんに紆余曲折を説明する。


 立花先生は生徒に対して黒魔法のことは教えていない、そう言っていたので、それには直接触れずに話そうとしたけれど、僕が動いている理由とか、もろもろをはぐらかして説明するのは困難だったので、もう洗いざらいぶちまけてみた。


 彼女はその言葉に納得するように、頷いてくれたけれども、本当に言ってよかったのだろうか。未だにその不安感は拭えない。


 でも、彼女はどこかすべてを理解しているような素振りをする。……無表情だから、僕がそう捉えてしまっているだけかもしれないが。


「さっき止まったときも天音さんは動けてたの?」


 僕が葵の胸を触ったあたりの時間のことを彼女に聞いてみる。 


「……とまってたの?」


「あ、うん。止まってたよ。なんか一時間くらい」


「……そう、なんだ」


 少し吃りながら話すけれど、彼女でさえもさっきまでの天使の時間については認識していなかったのか。


 完全に黒魔法に対して適性があるわけではないのかもしれない。そう思うと、少しばかりの優越感が──。


「……ねてたから、わかんないや」


「……まあ、夜だったからね」


 ……少しくらい優越感を覚えるタイミングがあってもいいものじゃないか。


 



「それで、これからどうすればいいかの話なんだけれど」


 そうして、ようやく事態を解決するための話し合い。本来は僕だけが行うべきものなんだろうけれど、彼女もここにいるのだから仕方がない。ここに置いていくというわけにもいかないし。


「──べつに、なにもしなくても、動きだすとおもうよ」


「……え?」


「……だいじょうぶだと、思う。しばらくしてれば絶対に動くよ」


 なんの根拠をもって彼女がそう言っているのかはわからないけれど……。


「流石に動くことが絶対なんてことはないだろうし……。僕たちでやれることをしなきゃいけないと思うんだけど……」


「……じゃあ、たまきくんは殺したいんだ」


 ──一瞬、心臓に刺さるような言葉。


「──いや、違うよ。殺したいわけじゃないよ。ただ、天使の時間が終わることについては確証がないし、立花先生が言ってたから」


「……わかった」


 彼女は僕の言葉にうなずいたけれど、その後小声で呟く。誰にも聞こえないように喋るように。


「たまきくんは、そういう存在だもんね」


 僕は聞こえないふりをする。聞いてしまえば、劣等感を思い出しそうだったから。





 天使の時間が発動して、もう十数分ほど経っている。けれども。


「……どうすればいいんだろう」


 立花先生は、天使の時間の発動者を殺せ、とそう命令した。僕も命令されたことについてはいいけれども。


「……犯人、どこにいるかわからないしなあ」


 止まった世界。僕たちは例外として、あらゆるものが固着して静止を続けるこの世界で、犯人を捜すのはあまりにも難しい。犯人が止まっているとしても、僕が犯人について知っているのは、少年のような見た目と、老人のような喋り方のみ。そして世界が止まっているのならば、見た目についてはともかくとして、老人のような喋り方をする魔法使いを探すことを手がかりにすることはできない。


 そして止まっているだけならばまだしも、その少年の魔法使いが動いていたのならばどうだろう。誰も動かない世界で動く存在がいるとすれば目立つだろうが、それは視認できた場合に限るだろう。そして、さらに遠くの方へ移動されたら、手がかりなどなく、永劫にこの止まった世界を歩むしかないかもしれない。


「……それなら、まず世界を動かしたらいいと思う」


「……世界を?」


 彼女の言葉にオウム返しする。


 世界が止まっているから、まずは動かす。まあ、理解はできるんだけれども。


「立花先生、確か黒魔法は発動したら、発動者の命が消えるまで止まらないって」


「……確かにそう。でも、天使の時間なら、どこかに”歯車”があるはず」


「……歯車?」


「うん。天使の時間なら歯車が絶対に現れる。その歯車を止めれば、世界はまた動きだす、と思う」


「……」


 ──なんで、彼女は”天使の時間”についてここまで知っているのだろう。立花先生が知っているのならばともかく、どうして彼女はそれを知っていて、それでいて立花先生よりも詳しいのだろうか。


「……おねえちゃんに、教えてもらったから」


 僕の顔を見て、彼女はそう答える。


「もしかして、顔に出てた?」


「たまきくん、いつも表情豊かだから」


 ……まあ、いつも先生にも悟られるしな。


「……というか、天音さん、お姉さんとかいたんだ。その人も魔法使い?」


「いまはないしょ」


 どこか照れるようにそう答える彼女の姿。なんで照れるのかはわからないけれど、それだけその姉のことが好きなのかもしれない。


 いつも無表情な彼女ではあるけれど、今日に限ってはいろんな表情を見ることができる。


 ──少し楽しいかもしれない。劣等感を思い出すこともなく、劣等感が問いかけてくることもない。劣等感が僕を支配するわけでもない。


「それじゃあ、とりあえず、その歯車というやつを探してみようか」


「うん」


 彼女は僕の声にうなずいて、一緒に歩きだす。いつのまにか、彼女の吃る様子はなくなっていて、程よい距離感を彼女と紡げた、そんな実感を覚えていた。


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