第3話「リムジンの売却」
──夜の湾岸、静まり返った路地。
優雅はリムジンのエンジンを切り、静かに窓を開けた。
渡辺が助手席で眉をひそめる。
「若様、本当に……売るのですか?」
「当然だ。金がなきゃ自由は買えない」
優雅は車内の収納スペースを開け、車検証や鍵を取り出す。
わずかに笑みを浮かべ、スマホで“高級車買い取り業者”に連絡した。
数分後、黒いスーツの男が路地に現れた。
目つきの鋭い男。
“商売人”としての嗅覚が全開の雰囲気を放っている。
「西来路様、車の売却ですか……?」
「その通り。現金で、即金だ」
「このリムジン、普通じゃ考えられない価値ですが……」
優雅が現金の受け取り準備をしていると、業者の男が少し挑発的な笑みを浮かべた。
「ふむ……西来路様、現金で即金はありがたいですが、
この車、整備費や登録料を差し引かせてもらいますよ」
渡辺が眉をひそめる。
「若様……」
だが、優雅は微動だにせず、冷静に言い放つ。
「整備費や登録料? こちらは一度も依頼していない。契約書もなし。
法律上、追加請求は契約不成立だ」
業者は軽く笑って返す。
「しかし、価値の高い車です。手間賃として差し引かせてもらうのは当然では?」
優雅は体を少し傾け、鋭い目で男を見つめる。
論理の刃をひとつずつ突きつけるように話す。
「“価値の高さ”は当方の事情だ。お前の事情は関係ない。
契約とは双方の同意で成立するもので、勝手な差し引きは詐欺行為だ」
「さらに……」
優雅はスマホで関連する法令を即座に表示した。
「風営法、民法第95条“錯誤による契約取消”も適用可能。
違法請求は全額返還+損害賠償の対象になる」
業者の表情がみるみる変わる。
額に冷や汗が滲み、声が小さくなる。
「……ま、待ってくれ……そんなつもりは……」
「つもりは関係ない。現金は全額、こちらに渡す。
さもなくば警察に通報だ」
業者は押し黙り、無言で札束を優雅に差し出した。
渡辺が小さく息をつく。
「……若様、さすがです。まさに論理の勝利でございます」
「当たり前だ。論理さえあれば、世界は動かせる」




