第17話:『選択されなかったものたち』
「星」ヒカリの希望の歌が、混沌の戦場に一時の静寂をもたらした。
しかし、その直後、タロット適合者たちは、各自が「選ばなかった選択肢」の世界と向き合うこととなる。
これは、それぞれの胸に秘めた後悔、葛藤、そして覚悟が描かれる、内なる旅の物語。
彼らは、もう一人の自分との出会いを通して、自らの信念を再確認していく。
星乃ヒカリの歌声が戦場に響き終え、希望の光が静かに広がったその直後——
《イベント更新:アルカナ戦争 特別分岐フェイズ突入》
《対象:全タロット適合者》
《内容:各自が“選ばなかった選択肢”と向き合う個別空間へ移動》
「え、今度は……内面イベント? 心理戦かよ……」
御神楽シンの視界がにじみ、光がきらめくと、22の道が空間に走った。タロット適合者たちはそれぞれ、己の“if”と向き合うため、異なる光の回廊へと導かれていく。
神代レイが足を踏み入れたのは、かつて“告白”という選択肢を選ばなかった未来。相手は今、別の誰かと手を繋ぎ、笑っていた。「……でも私は、選ばなかったから今ここにいる」
御影サキは、かつて交わした“契約”を断った世界線を見る。代償を払わなかった彼女は、誰かを救うことも、誰かを惑わすこともなかった。「ふふ……私、きっと退屈で死んでたわね」
月代ユウは、戦わず、癒しの魔法使いとして暮らす平和な自分と対面した。そこには微笑みがあった。でも、その瞳の奥に、何かが欠けていた。
ミツルは爆破ではなく“静かな再誕”の道を選んだ己と邂逅する。崩壊を拒み、平和な理論を築いたその姿はどこか物足りなさを感じていた。「俺って……破壊されることで、立ち上がるんだな」
ヒカリは、ステージに立つことを諦めたもう一人の自分を見る。静かな日常を送りながら、空に向かって何かを口ずさもうとするその姿に、胸が締め付けられた。
レンは、自らの裁きを一度も行使せず、ただ“観る者”に徹していた未来を見る。世界は壊れていた。誰も止める者がいなかった。「僕が下す“重さ”は、やはり必要だったんだな」
ミナトは、運命の輪を放棄し、“普通の少女”として生きる日々を覗いた。朝はパン、昼は読書、夜はお風呂。それはそれで悪くなかった。でも、退屈だった。「やっぱり、スロット引いて爆発する方が楽しいかも☆」
ユウトは、説教をせず、静かに見守る役を選んだ未来を覗く。言葉を使わない代わりに、誰も彼を頼っていなかった。「やっぱり、口うるさいくらいでいいのかもな……」
リツは、誰かを癒さず、自分のためだけに生きる人生を垣間見た。穏やかで平凡だったが、心に何かが空いていた。
そして——
中心に立つ愚者、御神楽シン。
彼だけは、どの“選択”もしてこなかった。だからこそ、この空間で浮かび上がる“if”は、選ばれていたかもしれない自分たち全員の可能性だった。
「これが……選ばなかったことの重さ……」
空間が反転し、各タロットがそれぞれの“未選択”と向き合う中で、それでも戻ってくる場所がある——今、戦っているこの世界だった。
幻想か、神託か、それともゲームの演出か。
だが確かに、彼らの胸に刻まれたのは——
“選ばれなかった”という選択にも、意味と力と、静かな誇りがある。
そして戦場に再び、全員が集結する光景がゆっくりと描かれていく。
登場キャラクター紹介(第17話時点)
◆ 御神楽シン(愚者)
唯一“選ばない”選択を続けてきた存在。選択の責任から逃れながらも、皆の“if”を見つめ、静かにその重さを受け止める。
◆ 神代レイ(恋人)
過去の選ばなかった恋の記憶に直面し、それでも今の選択を肯定した芯の強さが描かれる。
◆ 御影サキ(悪魔)
選ばなかった契約=退屈な未来を通して、自らの“混沌”の役割と本性を再確認する。
◆ 月代ユウ(月)
戦わずに平穏を選んだ自分との対比から、自らが選んだ“静かな混沌”の意味を見出す。
◆ 不破ミツル(塔)
破壊を選ばず、再誕のみに偏った自分を見て、やはり“壊すこと”こそが自分の生き方だと認める。
◆ 星乃ヒカリ(星)
ステージに立たなかったもう一人の自分と向き合い、自身の歌う意志をより強固にする。
◆ 真壁レン(審判)
裁かなかった結果、世界が崩れた未来を見て、やはり“責任を負う存在”であると再認識。
◆ 小野ミナト(運命の輪)
運命に身を任せなかった世界が“無難”すぎて退屈であることを体感し、改めて“運ゲー”の生き方を楽しむ決意をする。
◆ 花房ユウト(教皇)
説教しなかった未来に“頼られない孤独”を見て、自らのスタイルを肯定。
◆ 水島リツ(節制)
他者を癒さず自分を優先した日々の虚しさから、自らの癒しの本質が“誰かのため”であると気づく。
これまでギャグの中に隠されていた、各キャラクターたちの“心の奥底”が描かれる回となりました。
「選ばなかった選択」にこそ、その人の生き方が詰まっているのかもしれませんね。
そして次回、物語はさらに深部へ!
それぞれの“if”の世界で、タロット適合者たちが互いの想いを語り合う——
次回、『ifの彼方で——それぞれの対話』、お楽しみに!