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第14話:『正義と隠者の影』

ついに始まるアルカナ戦争。

その開戦直前、シンは秩序を重んじる「正義」のタロット、ユダと二人きりで対峙する。


ユダの口から語られるのは、彼の隠されたタロット「隠者」の秘密と、妹を失った悲しい過去。

そして、「選択」を巡る二人の哲学は、静かながらも激しいぶつかり合いを見せる。

アルカナ戦争の開始を目前に控えたある日——


御神楽シンは、神託によって個別に転送された“原初の塔”の中層階で、静かにたたずむユダ・アークライトと向き合っていた。


吹き抜けの石造りの回廊。風の音すら吸い込まれるような沈黙。

ユダは、その中心で白いローブの裾をたなびかせながら、微かに息を吐いた。


「……君は知らなかっただろう。僕が“正義”の他に、もう一枚、“隠者”のタロットを持っていることを」


シンは目を見開く。


「隠者……って、観測とか情報操作のやつだよな?」


「そう。選択肢というものは、本質的に“知っている”ことが前提だ。だから、僕はすべてを知ろうとした」


塔の壁面が変化し、光の粒子が集まって一枚の映像を描き出す。そこに映ったのは、幼い少女の姿。


「……妹だ」


ユダの声はかすかに震えていた。


「僕は彼女を“選択ミス”で失った。救える選択肢は、確かに存在していた。でも、その瞬間、僕はそれを“知らなかった”」


彼の視線が、足元の大理石に落ちる。


「だから僕は、“選べる世界”を作ろうとした。誰もが間違えずにすむ、最適解だけを提示する世界。選ぶことが優しさではなく、選ばせないことこそが救いだと——」


《スキル発動:観測者の回廊》

《効果:過去・現在・可能性の選択肢を可視化/限定共有表示》


塔の天井が開き、空間中に無数の“選択肢ウィンドウ”が浮かび上がった。それは過去に誰かが選ばなかった、あるいは選べなかった無数の“if”。小さな決断から、人生を変える運命の一手まで——選択肢の海が静かに光っていた。


「俺は……」

と、シンが口を開く。


「……俺は“選ばない”って決めた。選ぶってことが、誰かの道を閉じる気がして、怖かったから」


ユダの目がわずかに細まる。


「その“選ばない”という選択が、また誰かを迷わせる。君の“自由”は、誰かの“不自由”になっているかもしれない。それでも、貫けるか?」


ユダの問いは、糾弾でも責めでもなく、ただそこに在る真実だった。


シンはしばらく沈黙した。ウィンドウの光が彼の顔を照らし、過去の自分の姿を映す。


「分かんねぇよ。だけどさ……“選ばない”で悩み続けてる俺を、誰かが見てくれてんなら、ちょっと救われる気がすんだ」


その言葉と共に、選択肢のウィンドウのひとつが、静かに消えた。それは“あるはずだった過去”が、今この瞬間に塗り替えられた証だった。


ユダは静かに頷く。

「……君の“選べない意志”も、確かにこの世界に痕を残した。その責任も、自由も、受け止められる存在になってくれ」


「……そっちこそ、“全部を制御しようとする優しさ”が、誰かの生きる自由を縛ってるってこと、忘れんなよ?」


二人の視線が交差する。

共に抱える傷と矛盾を見せ合いながらも、そのまま拳を交わすわけでもなく、ただ沈黙の中で認め合うような空気が流れた。


その塔の外では、22の運命がぶつかり合う戦争が、今まさに幕を開けようとしていた——。

登場キャラクター紹介(第14話時点)


◆ ユダ・アークライト(正義 × 隠者)

秩序を司る“正義”と、観測を操る“隠者”の二重適合者。かつて選択ミスで妹を喪った経験から、“間違えない世界”を目指す。冷静沈着だが、内には強い感情と後悔を抱えている。


◆ 御神楽シン(愚者)

“選ばない”ことを選んだ主人公。ユダとの対話を通じて、“自由”が他者に与える影響に直面しながらも、自分なりのあり方を模索し続けている。



「正義」ユダと「愚者」シンの、互いの信念をぶつけ合う対話はいかがでしたか?

ギャグ回とは一転、物語の核心に触れるようなシリアスな展開となりました。


そして次回、ついにアルカナ戦争が開戦!

それぞれの信念を胸に、タロット適合者たちの戦いが幕を開けます。


次回、『バトルロイヤル開幕!』、お楽しみに!

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