第10話:『説教ボーイVS冷静サポーター』
ギルド本部は、相変わらずのカオスな状況。
そこに現れたのは、説教スキルを持つ「教皇」ユウトと、癒やし系の「節制」リツ。
ユウトの真面目すぎる説教と、リツの穏やかなスキルが衝突し、シンは精神的な板挟み状態に陥ってしまう。
果たして、ギルドの日常に平穏は訪れるのか!?
ギルド本拠地・アストロラーベの会議室——
そこは、日頃から多くの混沌と愚者スキルによる事故報告が飛び交い、言い訳と苦笑いが日常的に交錯する空間だ。だがこの日は、いつもの喧噪とは異なる、張り詰めた空気が漂っていた。
「それはですね! あなたのその軽率な行動が、多くのNPCに困惑と混乱を与えているのですっ!!」
その言葉とともに、空間に響き渡る鋭い叱責。
まるで討滅戦の号令のような説教を展開していたのは、タロット“教皇”の適合者・花房ユウト。
年齢不詳の少年アバター。小柄で無垢な笑顔を浮かべながら、口から放たれる言葉は“説教”というより“精神的クリティカルヒット”。説得力とダメージを兼ね備えた“道徳爆弾”として、ギルド内では恐れられている存在だ。
その対面で、変わらぬ微笑みを湛えながら静かに座るのは、タロット“節制”の適合者・水島リツ。
中性的な顔立ち、落ち着いた雰囲気、そして全タロット適合者中でも随一とされる“状態異常の緩和技術”を誇る癒し系サポーター。その存在感はまるで心のサロンであり、言葉よりも“静けさ”で人を導くタイプだ。
「まずは深呼吸をしましょう。怒りや焦りは、言葉の力を削ぎます」
「ですが……! この前の愚者の行動は見逃せません!」
声を荒げるユウト。
「公衆エリアでNPCの猫に追いかけられ、結果として王宮の中庭に侵入したんですよ!? 猫に誘拐されたかって、許されると思っているんですか!」
「え、あれってやっぱり王宮だったんだ……」
と、会議室の隅でスライム型クッションに埋もれていたシンが、弱々しく応じる。
「あなたはもう少し、自覚を持ってください!!」
その瞬間、ユウトの“説教スキル”が発動。
《スキル発動:“叱咤の福音”》
《効果:対象のモラル値上昇/周囲に精神的プレッシャー》
重たい空気が会議室を満たし、椅子がきしみ、レイやミツル、カエデまで正座モードに入る。
しかし、そこにリツの柔らかい声が重なる。
「はい、少し目を閉じて。意識を整えましょう」
《スキル発動:“静穏の水面”》
《効果:精神干渉スキルを緩和/癒やし効果を周囲に拡散》
まるで、風が止まり水面が穏やかになるような雰囲気が広がる。正座していたカエデの筋肉が「ふぅ」と緩む音が聞こえ、ミツルの詠唱が止まる。
だが、ユウトは引かない。
「ですが、それでも“悪いことは悪い”と伝えるのが私の役目です!」
《スキル発動:“聖者の裁き”》
《効果:対象の行動ログを引用して説教文を生成》
「シンさん、あなたはログ14時12分、“迷子イベント”と称して非公式エリアへ侵入し——」
「ちょっ、それログ取ってたの!?」
「当然ですっ!」
《スキル発動:“静穏の水面・改”》
《効果:説教ログをぼかす/聴覚ストレスを低減》
「……ふぅ、これで少しは落ち着きましたね」
このようにして、
“怒り”で正す教皇と、“静けさ”で整える節制のサポート抗争は、エンドレスで繰り返される新たなギルドの風物詩と化していった。
その傍らで、クッションに完全に埋もれた愚者は、顔だけを出して呟く。
「……俺が悪いんだろうけど……地味に精神削れてるんだよなぁ……」
こうして、
言葉と沈黙、圧と癒し、少年の激情と中性的な静けさ——
相反する二人の“サポート哲学”が交錯する、静かなる戦場が今日も続く。
登場キャラクター紹介(第10話時点)
◆ 花房ユウト(教皇)
年齢不詳の少年アバター。真面目で正義感が強く、説教スキルにより仲間の行動ログまで管理・引用する“道徳爆弾”系サポーター。小柄な外見とは裏腹に精神ダメージは超特大。
◆ 水島リツ(節制)
中性的で落ち着いたヒーラー。状態異常解除と精神安定化スキルに特化しており、ギルドの空気を整える緩衝材的存在。言葉少なだが芯は強い。
◆ 御神楽シン(愚者)
ギルドの愚者。今回も“猫に誘拐された”結果、王宮に迷い込むという新たなトラブルを記録。説教されてもどこか他人事なリアクションが、さらに火に油を注ぐタイプ。
「教皇」ユウトの説教スキルと、「節制」リツの癒やしスキルによる静かな戦いが始まりました。
今後、シンはこの二人の間でどう立ち回っていくのでしょうか?
次回は、幻術を得意とする「月」のユウと、空気を読まない陽キャの「太陽」トモヤが登場!
二人の真逆なキャラクターが、新たなカオスを巻き起こす!?
次回、『幻惑の月と陽キャの太陽』、お楽しみに!