EPISODE9、強敵?
◇◇◆◆
「これで大丈夫ですよ」
わたしはアリハナちゃんから、回復魔法で傷口を全て塞いでもらった。
「マジで助かったぜぃ!」
ほんと、回復魔法使える子で良かったぁ。
「傷跡も綺麗に取れましたが、怠さは残るので無理しないで下さいね」
「おっけー」
くぅ〜。
美少女に介抱されるって最高!
「こんなんばっか相手にしてたら、きっついよね」
ちょっと転生者を侮っていたかも。
四天王の炭田は、相性的に良かったかもしれないけど元木は最悪の相手だった。
もし、転生者が一斉にかかって来たら、勝てる自信ないな。
「わたしも強くならないとな」
「ええ。強くしますよ」
「へ?」
「教えられる限りは教えます」
ほほん。
修行イベントか!?
◆◆◆◆
転生者の国、世界の統率者。
ここは、結莉達がいる東の辺境よりも遥か西に存在している。
転生者達のチート能力である【女神の加護】のせいか、国中が魔力で覆われていた。
外から見ても確認する事ができる膨大な魔力量は力の象徴といえる。
大国を凌ぐ軍事力に平伏す国も多く、潤沢な財政は国民に不自由のない生活を与えていた。
城内にある客室では、食器が触れ合うたびに、優雅な音色を奏でるのではなく、不協和音といえるくらい乱雑なものであった。
「あの、聞いておられます?」
そう話すのは、世界の統率者所属の大臣で現地の人間だった。
経済を回す役割を担う青年だが気弱そうな雰囲気が顔に出ている。
「聞いてる聞いてる」
料理を次々と頬張るのは、ボサボサの赤毛混じりの黒髪に黒を基調とした革製の装備に銀色の胸当て。
腰には二振りの短剣が納められている男。
頬張った料理を酒で流し込む。
世界屈指の名酒を安酒のように飲めるのは贅沢の極みだ。
「で、何の話だ?」
「聞いてないではありませんか」
説明をしていた大臣が溜め息を零す。
「悪い悪い。飯が美味くてよ」
男は、にっと笑う。
「まったく、せっかく良い話だって言うのに。ちゃんと聞けよな、相棒」
対面に座るのは、同じような装備をした白髪混じりの爽やかそうな青年だった。
「お前は聞いてたのかよ、兄弟」
「ふっ…」
「聞いてねぇじゃねぇか」
大臣は2人のやり取りに溜め息を零しながら、もう一度説明してくれる。
「貴方方をお呼びしたのは、その腕を買ってのこと。国の脅威になり兼ねない転生者を始末して欲しいのです」
結莉の事だ。
「同族殺しねぇ。俺は構わねぇが、兄弟も転生者だろ?やれるか?」
男が気にかける。
「気は引けるよ、流石にさ!」
兄弟は乗り気じゃなさそうだ。
「まっ。聞くだけ聞いとくぜ?強えのか、その転生者」
男が尋ねる。
「既に2人の転生者様が敗北、その内の1人は四天王のスミダ様です」
「へぇ。強えんだな」
男は興味をそそられる。
「能力は?」
「分かりません」
「人数は?」
「女2人」
男は質問を止め、笑い飛ばす。
「おいおい。四天王っていやぁ、最高戦力みたいなもんだろ?負けたってか?笑えるな」
男にとって、笑える冗談に聞こえていた。
「それか……その四天王が弱かったってことか?」
すると、剣幕な表情で現れた人物が居た。
「聞き捨てならないな」
四天王、炭田である。
空気が一瞬にして張り詰める。
青年は思わず背筋を伸ばしていた。
「スミダ様、お身体はよろしいので?」
大臣が気遣うが、炭田は男に敵意を向けていた。
その表情は険しく、内に秘めた怒りが伝わって来ていた。
「冒険者如きが舐めた口を叩きやがって、黙らせてやろうか?」
激しい怒りと侮蔑。
爆発寸前の火薬のようで、今すぐにでも【女神の加護】でこの場を吹き飛ばすつもりだ。
「不思議だな。その最高戦力様が勝てない相手に何で冒険者如きに依頼されるんだろうな?」
男は頭を掻きながら、口角を上げる。
炭田の気迫を意に介さず、腰掛けたソファで足を組み換えてくつろいでいた。
「貴様…!」
炭田が魔法を発動させようとしたが、手を止めてしまう。
「どうした?」
畏怖。
男に対して恐怖を抱いた。
「喧嘩なら買うぜ…?だがよ、そん時はてめぇの命を貰う」
おちゃらけた様子から一変。
男の瞳に狂気ともいえる殺意が宿る。
冷酷で残虐な瞳が有言実行するだけの実力がある事を物語っていた。
「相棒、金…貰えなくなってもいいのかよ」
「おっと、そいつぁ困る。悪ぃな四天王様」
青年が溜め息混じりで肩を落とすと、再び男の様子が変わり笑顔を向ける。
当然、何事もなかったでは済まされない状況。
この場にいる誰もが男の咎を責める事は出来ない。
殺すという明確な恐怖を植え付けられてしまった。
「そんじゃ、金のことよろしくな!」
軽い足取りで2人が客室を後にした。
おちゃらけた男の名をシセイ。
爽やかな青年の名を晃輝。
この二人は巷で噂の二人組。
魔王軍が根城としている拠点をたった2人で潰し、名のある賞金首を屠り、【渡鴉)】の異名を持つ実力者である。
◆◆◆◆
「なぁ相棒、本当にあの炭田ってやつ負けたんかな?」
「さぁな。ある意味感謝すべきかもしんないぜ?」
「なんでさ?」
「普通だったら殺すからよ」
シセイが同じ立場に置かれていたのなら、確実に息の根を止めるだろう。
「それと何となくだが、俺らが呼ばれた気が分からなくもねぇな」
シセイは要請を受けた意味を汲み取っていた。
「強いから?」
「まぁな。それもあるだろうが、兄弟のように転生者ってのは、【女神の加護】を授かるだろ?」
「おう」
「馬鹿みたいな能力を奮うだけで倒せるなら、他の技術なんて学ぶ必要がないんだろうな。スミダといいお粗末だ」
シセイは冷静に物事を分析していた。
「大体、いくら招かれた客つっても、あんな無造作に近付いて来たんじゃ、殺してくれって言ってるようなもんだぜ?」
「そういえばそうだな」
普段はおちゃらけていても、警戒を怠ることはない。
そればかりか、どういう手段で相手を仕留めるかまで講じている。
シセイの言葉は、いつもどこか核心を突く。
「あんな魔力剥き出しなら、底が分かるしな」
「だったら相棒が警戒するのは?」
「そりゃアレだろ。転生者で魔力操作ができるやつ」




