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EPISODE7、吠える獣

 ◆◆◇◇


 痛ってぇ…。

 血、止まるかなぁ。


 元木から受けた刺し傷は、微妙に深い感じだった。

 臓器は傷付いていないだろうけど、血が止まらない。


 回復魔法で傷口を塞いでみるものの、練度が低いのか完全には塞がらない状態だ。


 それよりも、アリハナちゃんは大丈夫かな?


 わたしは魔力を感じる上空へと目を向けると、地響きが広がる。

 花火でも打ち上がったみたいに衝突音が上空から鳴り響いていた。


 良いなぁ…。


 浮遊魔法って無重力状態みたいになるから、苦手なんだよね…。


 地形を無視して飛べるのが魅力的だけど、空中制動が難し過ぎて飛んだら最後、上空に放り出されてしまう。


 それを自在に操れるんだから、アリハナちゃんって凄いなぁ。


 でも、あの従者も中々だ。


 感じる魔力から判断する限り、わたしが倒した元木よりも強い気がする。


 ここは、アリハナちゃんに任せるしかないけど、万が一負ける事があったら、わたしで勝てるか不安でしかない。


 それでも今は信じるしかないよね。


 頑張れアリハナちゃん!


 ◆◆◆◆


「あたし相手に手加減してるわけ?」


 ラスは、唸りを上げる魔法を続々と発動させて、アリハナを追い込んでいく。


【咆哮魔法】、咆哮者達(ロア・リーチ)


 その唸りは、まるで巨大な獣の咆哮のようで。


 耳を劈く轟音は空気を震わせ、範囲は広大。


 範囲内にいるだけでも身体の内側から破壊されてほどの威力を秘めている。


 例え範囲が広くとも、アリハナは慎重かつ冷静、確実に避けている。

【咆哮魔法】の危険性を十分に理解しているからだ。


 擦り傷程度であっても致命傷になり得、殺傷能力が極めて高い。

 発動させるにしても、リスクが高いはずだが、ラスは自在に操っている。


「ちょこまかと、逃げるばかり…。所詮、アンタは不意討ちが得意ってことよね」


 ラスは細長く湾曲した杖を左手で構え、右手で杖を引くような動作を取る。


「喰らえ。咆哮(ロア)


 杖に魔力が集中すると、瞬間的に獣の姿を模した揺らめく魔力の束が放たれる。

 まるで猛獣の咆哮が空を裂き、雷鳴のように轟いた。


「加速しろ」


 魔力の中から獣の魔像が飛び出し、空中を翔けながら縦横無尽に動く。


 まるで野生の獣のようにしなやかに、そして素早く、その速度は先ほどよりも格段に増していた。


 アリハナは険しい表情を浮かべ、素早く空中から急降下で避ける。


 しかし、そこへ追い縋る【咆哮(ロア)】もまた、彼女を追い掛けるかのように急降下してきた。


「獲物を喰らうまで逃がさないのよ」


 アリハナは魔力を放出しながら、素早く急制動や方向転換を繰り返しながら振り切ろうとするも、

 ラスの追撃はまるで獰猛な獣の牙のように自分を飲み込もうと迫って来る。


【咆哮魔法】を、ここまで自分の手足のように扱えるのは従者の中でもラスだけだろう。


 それもそのはず、彼女の従者序列は6位。


 序列1桁の紛れもない強者である。


 そして、攻撃魔法の中でも扱いが難しいとされる魔法の1つ【咆哮魔法】の使い手だ。


 咆哮だけで相手を屠る魔物から着想を得て開発された魔法で、簡単に殺傷能力を高めるものと期待されていたが、使用者への代償が高いものとなった。


 従者協会は、誰でも簡単に扱える攻撃魔法を開発しているが、【咆哮魔法】は使い手を選ぶ。

 求められる魔力の操作技術が極めて高く、制御するのが至難の業。


 自身の保有する魔力を過剰に放出し、暴走状態になれば肉体への負荷が高く、下手をすれば内側から爆散する。


 ラスには、咆哮魔法扱う為に独自に編み出した技法があった。


 放出する魔力と暴走する魔力を2つに分ける方法である。


 左手で扱う弓を模倣した杖は、放出する魔力を収束させ、暴走する魔力を右手に収束。


 放出魔力と暴走魔力を衝突させて制御している。


 一歩間違えたら肉体が損傷するリスクを技量のみで補っているため、ラスの魔力操作技術は卓越したものであり、今日まで生き抜いて来た実力者だ。


「終わりね」


 ラスは再び【咆哮魔法】を穿つ。

 双方の獣は、獲物を喰らい尽くすだろう。


 決する勝敗。


 逃げ場なし。


 双方の獣がアリハナを捉え衝突する。


 魔力の奔流が空を満たし、眩い閃光と轟音を轟かせた。


 勝利を確信し構えを解く。


 ーーしかし、確信した瞬間、それは覆る。


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