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巨大ロボの一人操縦はキャンセルでお願いします!

今日はボランティアの日だ。こども食堂って言って、こどもを対象にごはんを無料で提供して、一日一食だけでもおなかいっぱい食べさせてあげて、同年代が集まれる機会も作るっていう話だ。ほかのボランティアといっしょに設営を頑張っている。とはいっても、念のため、僕はおためしで、いつ家業で呼び出されるか分からないので、カウントには入れないでとお願いしている。


会場を簡単に飾りつけて、掃除をする。


「この看板、表につけてきてくれない?」


ゴリラがカレーを食べている絵とこども食堂のロゴがついている看板を持って、僕は表に出た。ここは市街地のど真ん中で、そこそこ大きな通り。


大きなワゴン車が近くに停車して、こどもが数人、飛び出してきた。幼稚園か小学校くらいか。たぶんどこかの施設の人達だろう。


「ここがこども食堂ですか?」

「そうですよ。ここの階段を登ったところが玄関なので、そこで靴を脱いでくださいね」


腕時計を見ると、たしかにもうそろそろオープンの時間だ。子供が勢いよく登っていって、そのあとを連れてきた大人が追い掛ける。その大人と礼をしながら、僕は看板を表の電柱に、矢印と共に貼り付けて一息ついた。


カチリ


硬い金属が背中に押し付けられる。


「一緒に来てもらいましょうか」


耳元でドスのきいた女の声がした。僕は大きな溜息をついた。



黒塗りの車に乗せられ、僕はとある山の麓に連れてこられた。道中、いろいろ質問してみたが、すべて、


「質問には答えられないわ。でも分かって。人類の未来の為なの」


で終り、僕は飽き飽きしていた。


「ここからはロープウェイに乘ってもらうわ。基地は山頂にあるの」


僕とまだ銃を突き付けている女、そして、ほかの黒服3人が一緒に乗り込むと、ロープウェイが動きだす。高度が結構高く、眺めはいい。小さな住宅群が階段状にところ狭しと並んでいる。ひとつ変な建物があり、景観を著しく乱しているが。


「ここに住んでいる人達は私達の活動に否定的なの。特に、あの建物に住んでいる、宇宙数学教の人達は、私達のことを真っ向から否定してるわ。まったく、地球の危機に、人間同士で争っている暇はないっていうのに」


なるほど。宇宙数学教か。道理で、あの建物はクラインの壺みたいな形をしている訳だ。でもね、あなたたちの方が、よっぽど言ってることややってることはカルトっぽいよ。言っても無駄だから、言わんけど。


ロープウェイは山頂に到着すると、そこからまた別の黒い車に乗せられ、車はでかい建物の中に入っていった。やがて、大きな赤い扉の前で車は止まった。


「降りなさい。今から貴方を軍事裁判にかけるわ」

「何の罪ですか?」

「貴方が存在することの罪よ」


中に入ると、そこはなるほど大きな法廷であり、全ての席が埋まっていた。一番上の席には、能の爺の面を被り、ベルベットのマントを被った奴が座っている。


僕は証言台のところに立たされる。銃はまだ突き付けられたままだ。


能面が、木の槌を持って、机を叩く。


「静粛に」


僕達が入ってきてから、騒がしくなっていた室内が一気に静まりかえる。


「今から軍事裁判を開廷する。検事、罪状を読み上げろ」

「はい」


検事席に座っていた小太りの男が立ち上がる。


「この少年は、この世の生を受けたにも関わらず、人類の危機に備えるどころか、我々、人類未来隊に入ることすらなく、のうのうと暮らしてきておりました」


人類未来隊か、名前ダサっ。


能面の男は両手を上げて首を振った。


「重罪に値する。求刑を述べよ」

「我々の最終兵器のパイロットとして、人類に奉仕せよ。そのパイロットになるために、適正な人体改造を受けるものとする」


ワアアアアアアア!!


会場がなぜか盛り上がる。


「静粛に」


能面がまた木槌を叩く。


「被告人の少年、何か申し開きがあれば述べよ」


僕は、マイクに向かって言った。


「キャンセルでお願いします」


ザワザワザワザワ。周りが騒ぎだし、隣の女が銃を僕に押し付けてきた。どうでもいい。


「パイロットになれ? 改造人間になれ? あなた方がやっていることこそ、罪でしかない。いやです。ありえません」


「静粛に」


能面が木槌を叩く。


「この少年は、状況をよく分かっていないようだ。今や人類は滅亡の危機にさらされている。我々だけが人類の希望なのだ。敵は今日明日にでも地球に攻めてくる。我々が持てる対抗手段は一つ、最終兵器だけなのだ。しかし、その最終兵器をまともに動かすには、体内にコントローラーを埋め込む必要がある。だからお前の体を改造しなければならない。それでもお前がいやだというのなら仕方がない。私も本当のことを話そう」


能面は自分の能面に手をかけて、面を取り外した。


「俺はお前の父親だ」


髭面の頭が剥げかかった男が現われた。僕は思わず天井を見た。


「子供なら父親のいうことを聞け!」


これで自称父親は6人目だ。なんでこいつらは、自分が父親だといえば、僕がいうことを聞くと思っているのだろう。ちなみに僕の父親はちゃんと元気に今朝も働きに出掛けていった。


呆れてものが言えなくなった僕をほうっておいて、軍事裁判は閉廷。僕は、研究所へと運ばれていった。


数時間後、研究所から出てきた僕の額には金属板がひっついていて、その表面には青、赤、緑のランプが光っていた。一緒についてきた周りの研究員達は、まるで御祭りがあったときのように喜んでいる。彼等の人体改造後に生きていた人間自体、僕がはじめてだそうだ。


研究所に監禁されていたときは僕から離れていた女が、また戻ってきた。なんだか焦っているようにみえる。


「大変なの。とうとう、宇宙怪物が来るって。え!? 改造は成功したの!! まだまだ神は私達を見捨ててなかったわ! さあ、こっちに来なさい」


休む暇もなく、また銃を突き付けられた僕は何かの格納庫に連れていかれて、コクピットに乗せられる。ああこれは。


「最終兵器、人型巨大ロボット、アシモフ発進」


僕は巨大ロボットごと外に出ていた。山を割ってその中から出てきたのだろう。試しに手を動かして頭を掻くと、ロボットも頭を掻いた。


「操縦率100%!今まで、誰もピクリとさえ動かしたことはなかったのに」

「やはり私の息子なだけあるな。はっはっは」


コクピットのスピーカーから、銃女と髭男の声が聞こえてくる。とりあえず、あなたの息子ではないと激しく否定したい。


「しかしながら、あんまり自由に動かれるのも困りものだが、まあそれはどうにでもなる」


髭男の音声を聞きながら周りを見渡す。モニターの感度をいくら高くしても、何もひっかからない。


「宇宙怪物っていうのはどこです?」

「まだよ。あと数分後にそこに現れる計算よ」

「その前に一仕事やってもらう」


髭男の音声が介入する。


「そこら一体の住宅と宇宙数学教の本部を破壊せよ」

「は?何を言ってるんです?」


ロボットの体が勝手に宇宙数学教の本部の方に向く。


「ロープウェイの中でも説明したわよね。ここの住民と宇宙数学教は、私達の活動を妨害しているの。人類の敵よ」

「だから破壊するんですか? 人類の為といいながら、人類を殺戮するんです?」

「必要な犠牲よ」

「もういい。これは命令であり、お前に拒否する権限はない。やれ」


僕の額についている金属板がすべて赤色に点灯し、僕の体が勝手に動き出す。それと連動して、アシモフも山を降り、住宅の方へと一歩踏み出す。そう、こいつらが僕を改造した目的の大部分は、僕を操り人形にするためだった訳だ。でもね。


僕は精神レベルを上げた。金属板の色が全て金色に変わる。

このロボットはアシモフなんだよ。アシモフにロボット3原則の1に完全に反している行動をさせようなんて、SF好きの僕を舐めすぎでしょ。


「アシモフ停止。こちらの命令を受けつけません」

「なに!どういうことだ!」

「何ものかにこちらの掌握した権限を奪取されました。おそらくあの少年です」

「そんなバカな!あいつをもう一度支配しろ。最悪殺しても構わん」

「支配拒否。反対に此方の権限が侵略されていっています。基地の被支配率15%!」

「ありえない!エラーだ!コチラは最新のスパコンを15台も使っているんだぞ!あいつはパソコンすら持っていないではないか!」


僕は、スマホを取り出して、画面を出した。すでにあの人達が見ているモニタリングはダミー。基地は100%制御下においた。そんなことはどうでもよくて、今はもうすぐ来る、宇宙怪獣のことだ。ここで遭ったら、色々破壊してしまうし面倒だな。僕は、スマホを少し操作し、ロボットを移動させることにした。


「アシモフ両足部から爆発的噴射。いつのまにかロケットが搭載されています。しかし、アシモフが浮かぶほどの爆発でないのになぜ?」

「アシモフ、移動しています。到着予測、無人の海岸」

「空からアシモフの方向に落下物あり、宇宙怪獣です!」

「宇宙怪獣を誘導していった!? なぜ?」

「くそっ! クソガキが! 仕方ない。第一基地を放棄。最悪の場合に備えて、第二基地から小型核兵器と小型水爆、そして()()()最終兵器を発射準備。場合によっては、アシモフ諸共に宇宙怪獣を殲滅する」


僕はアシモフに乗り込んだまま、あの山から大分離れた無人の海岸に来ていた。しばらく待っていると、アシモフよりも一回り大きな紫色の物体が、近くに落下した。


ドゴォォォォ


大きな土煙があがり、それが晴れると、紫色の物体が四本の足で立ち上がっていた。体からは8本の首が生え、その一本ずつに能面をかけた顔をついている。


ピギャアアアアアアア!


8本の首は同時に僕に向かって吠えた。そして、アシモフに向かって襲いかかってくる!


『こんにちは。よく地球のことを勉強してきたんですね!』


僕が話しかけると、宇宙怪獣は、ガガッと音を立てて急に止まった。


『こんにちは。えっ、話が通じるのか!? 君達は第1種知的生命体?』

『ちょっと待って下さいね。今、チャネル繋げますから』


僕は、コクピットのスクリーンの一部を内部連絡用に変更した。


『おっ! なんて速い!もう同期したのか!?』


そこには、口を広げている、異世界人がいた。サルではなくて、イルカから進化したっぽい見た目をしていて、水の中に浮いている。


『地球にようこそ。今回はどうしていらっしゃったんですか?』


イルカ人さんは、表情をけわしくした。


『どうしてって、そりゃあ、あなたたちが話しもせず、何度も攻撃してきたんじゃあないか。 最初のうちは平和的に頑張って解決しようとしたけれど、全く話が通じないんで、他生命体との意思疎通の能力も意欲もない第2種知的生命体として暫定的に認定。攻撃があまりに酷すぎるんで、攻撃の発生元から排除しようと』

『まず、誰と交渉しようとしたんです? どんな攻撃をされたんです?』

『勿論、人類の王、最高決定機関である、人類未来隊と交渉しようとしたさ。でも無人外交官が須く虐殺されたし…』


外からのラインがもう一つ来る。無害そうなので繋いでみると、もう一つスクリーンが立ち上がった。


「息子よ。最後の警告だ。宇宙怪獣を殲滅せよ」

「いやです。ってか、あなた達が諸悪の根源じゃないですか」

「フン。違う。宇宙怪獣は絶対的な悪で、人類未来隊は絶対的な正義なのだ。世界は平和になった。それにより進歩が止まった。人種差別がなくなり、覇者の自由度が減少し、戦争が起きない。だから、我々は、外に戦争を作らねばならない。これは地球の人類の未来を作り出すための必要な犠牲なのだ。宇宙怪獣がいなければ、小型核や小型水爆、そして最新の最終兵器である新型融合爆など開発されなかった。それに付随するいく千もの科学技術をお前たちが享受できるのは誰のおかげだ?」

「そんな下らない自己欺瞞をしてるから、未だにほかの知的生命体が地球には寄りつかずに、まともな未来が来ないんですよ」

「息子よ、問答は無用だと知っていた。お前は死ぬ。宇宙怪獣と共に自分を犠牲にしてな。大事なアシモフが消滅するのは誤算だったが、お前を生かしておくほうが危険だ。大量に送り込んだから苦しまずに死ねるだろう」


周りをサーチすれば、無数のミサイルが此方に飛んでくるところ。おそらく小型核やら小型水爆、そして新型融合爆が乘っているのだろう。


『どうやら、わたし達は終りみたいですね。解析したところ、あの最終兵器とやらはわたしの乘っている新型ロボットをも消滅させる威力を持っています』


イルカ人さんは両ヒレを力なく降ろしている。


『元気を出してください! せっかく地球に来たのですから、手品を見せますよ』


突然、辺りが真っ暗になる。僕、イルカ人さん、アシモフ、宇宙怪獣の存在が希薄になっていく。そんな中、アシモフと宇宙怪獣の真ん中に、ブラックホールができていた。全方位からやってきたミサイルは、そのままブラックホールのなかに、ふいっと吸い込まれていく。音も聞こえず、光もなく、ただただミサイルは束になって、捨てられた。だんだん、辺りが明るくなっていき、僕たちの存在もはっきりしていく。ブラックホールはいつのまにか、消えていた。


『はあああああああ?! 今のは何なんです!? ありえない! あれは確かにブラックホールだった! けどわたし達は吸い込まれず、兵器は吸い込まれていった?? えええええええ???』


しばし、硬直していたイルカ人さんが復活した。手品、喜んでもらってよかったよかった。わざわざ地球に来させてしまったんだし。みやげ話くらいはね。それよりも。


『あなたは休んでいてください。わたしは地球の代表とやらに、ちょっとお話があるので』


僕は人類未来隊のすべての基地にラインを繋いだ。


その日、人類未来隊は解散した。そのかわりに各地にこども食堂ができたのだった。

別にどんどん長くしようという意図はなく、ただたまたま長くなってしまっただけなので、ご安心を?

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