魔法少女はキャンセルでお願いします!
朝活!すごくいい響き!僕の知り合いが朝活を始めて、僕も招待された。学生のうちに地域の人と色々コネクションを作っておこうって意図らしい。念の為、僕は行けたら行くわと返事しておいた。でも行く!今朝は行ける!
玄関を出て、無事に表通りに出る。車やバスが行列を作っている横を順調に歩く。次は、公園の横を通る。直線距離でいくなら、公園に沿って歩くより、公園を横切った方がはるかに早い。僕は公園の中に入った。
ヒューーーーン、ズドン。
公園の中で爆発が起きた。何かが落ちてきたのだ。たちまち巻き起こった粉塵がやっと晴れると、クレーターの真ん中に一本の光る棒が刺さっている。僕は大きな溜息をつくと、棒に近付いた。
近付くと抜いてみると、棒はゴテゴテと幾何学的な飾りのついたステッキというやつだった。だとすれば。僕は空を見上げた。
見れば、空一面に真っ白な幾何学模様が浮び上がっていて、それがゆっくりと地上に落ちてくる。その中央には、誰かが寝ている。その落下地点で、手を広げていたら、急にその幾何学模様が縮まり、どさっと中央に載っていた人が落ちてきたので受けとめる。中学生に上がったか上がらないかくらいの女の子で、ゴテゴテしたドレスを着ていた。気を失っている。外傷はなさそうだ。
近くに木のベンチがあったので女の子を運んで、そこに寝かせた。とりあえず、変身解除はと。
ステッキに命じると、女の子が光輝き、制服姿に変わっていた。この制服はけっこう近くの中学の制服だな。大学をよく通過してくの見るし。
キキーッ。時を同じくして空から、黒い塊が降ってきた。目玉がぎょろぎょろと体中に付きまくった異形。その目はあたりを見回すと、僕が持っているステッキに目を向け、こちらに向かってきた。
さてと。このステッキは何製かな。中天紫微北極太皇大帝のステッキのレプリカのレプリカっぽいな。もはや、レプリカといえないほど、性能は見る影もないけど。
ベンチの近くでステッキをチェックしていると、数メートルまで近づいた異形は、自分の塊から悪魔の鎌を何本か取り出し、その一本が僕の首を目掛けて横なぎにされる。
スパ
僕の首が勢いよくふっとぶ。
「う、ううーん」
ちょうどベンチに座っていた女の子が起き出す。
「あれ、わたしの変身が解けてる」
女の子はあたりを見回す。そしてまず異形をみつけた。
「わたしのステッキは、って!?こいつ!地上まで降りてきちゃった!!」
そして僕の首をみつける。
「 きゃああああああ!!一般人が!!一般人にはこいつらは直接干渉できないはずなのに。もしかしてわたしのせいで。わたしがステッキを落としちゃったから。わたしのせいだ」
スポッ!
僕は首から体を、体から首を出した。
「大丈夫だよ」
さっきから異形は僕の手からステッキを奪いとろうと何度か試していたが、体から首が飛び出た時点で大きく距離をとった。
「距離をとっても無駄だよ」
僕はステッキを背負っていたリュックに終い込むと、昨日出し忘れていた別のステッキを取り出して、呪文を唱えた。
ギャアアアアア
異形の周りに球状に幾何学模様が発生し、異形が動けなくなる。
「すごい!呪文一つであいつを封じ込めるなんて!でもこの人、おじさんだよね?なんで?」
失礼な女の子を無視して、首から生えた僕が、その異形から何か光るものを奪いとる。鏡だ。
「メデュサの鏡!砕いて!それを砕けば、不死身のやつらも死ぬ!!」
「えいみ、どうした!」
「えいみ、すごい音聞こえたけんど?」
「えいみ、だいじょぶ?」
公園に新たに3人色の違うゴテゴテドレスの少女たちも入ってくる。みんな、あのパチモンステッキを揃いもそろって持っている。面倒なことになる前に速攻でなんとかしないと。体から生えた僕は、首から生えた僕に瞬間的に近づくと、
「よろしく」
といって、鏡の中に飛び込んだ。
しばらくして、鏡の中から戻ってくると、首から生えた僕は、4人の少女達に追い掛けられていた。
「あのおっさんも、ヤクシャの仲間に決まってるじゃない!人間が二人に分かれるわけないでしょ。えいみはだまされてんだよ!」
「でもでも」
首から生えた僕は弁解しないで逃げ回ってたわけね。まあ僕でもそうするわ。
「お疲れ様」
首から生えた僕に体から生えた僕は手を合わすと、僕等はくっついて一人に戻った。もう、鏡を割っても割らなくてもいいんだけど。割らない方が説明は楽だから。
「あ、一人にもどった」
「やっぱ、あのおっさん、人間じゃない!ヤクシャだよ」
「んだんだ」
「でもでも。ねえ、おじさん。お願いだから、鏡を割って!」
「はい、静かに!注目!」
僕は立ち止まり、4人に声をかけた。
「さっき掴まえた化け物はどうなってるでしょうか?」
「えっ、おじさんが封じ込めてたけど、もしかして逃げ出した!?」
「ヤベエよ!」
4人は慌てて、公園の、先程異形がいた位置に戻っていったので、僕はその後に付いていく。
「まだいるじゃねえか!焦らせやがって!」
「んだけども、なんだかちげえんじゃねえか」
「色が、白い」
異形の色がどんどん薄くなり、透明になっていく。異形の持っていた鎌は刃が欠けていき、やがて鎌というより、釣り竿のようになった。
「僕が、そのヤクシャ?の大元を破壊してきた。これから、あれらが害を成すものとして生み出されることはない」
「ウソ。ガイドのポヌコは、この戦いは永遠に終らないんだって」
そのポヌコも一回見つけて絞めなきゃいかんな。ステッキの件も含めて。
「わたしは、このおじさんがいってることは本当だって思う。だって、ママが渡してくれたこの黒い指輪。いつか、皆が幸せになれるときが来たら白く輝くっていってくれた、指輪、いま、光ってる!」
「なんだポヌ!ナニが起こッテイルポヌ!?おれの下僕が全員いなくなっているポヌ!とりあえず、あいつらのステッキを壊しておくポヌ!」
バキン。
僕のリュックの中からにぶい音が聞こえる。同時に3人の手の内にある、ステッキが真っ二つに折れ、少女達が皆ドレス姿から学生服へと戻る。ってか、皆同じ学校なのかい。ちなみにポヌポヌいうのは声だけ聞こえてきて、どこにいるのか分からない。
「これで大丈夫ポヌ。あいつらの誰かを騙して殺して、清らかな黒い魂を手に入れれば、なんとかなるポヌ。また一からやり直しだけど仕方ないポヌ!さあいくぞポヌ」
ボフン。いかにも女の子受けしそうな可愛いタヌキのぬいぐるみが空中に現れた。
「えいみちゃん、どうしたの!ステッキの声がとぎれちゃったけどポポヌ?」
僕はすかさず、ぬいぐるみの首を掴んで、呪文を唱えた。
「ポヌ!誰だ、じゃなくて、誰なのポポヌ?って、何だこの聖言は!?」
白い目でぬいぐるみを眺めていた4人の内一人が、口を開いた。
「ポヌコ、口癖って、ポポヌじゃなくて、本当はポヌだったんだね」
「え!?えいみちゃん?何をいってるのポポヌ?」
このあと、5人でポヌコをしめた。朝活は結局行けず、僕をおっさん呼ばわりする中学生の知り合いが増えただけだった。