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持ち主を選ぶ聖剣はキャンセルでお願いします!

今日のバイトはチラシ配りのバイトだ。ティッシュ付きだから助かる。最近はティッシュ付きが貴重だからわざわざ自分の目的地への道を外れて貰いに来る人も多い。しかし疲れた。


僕は近くの公園に入った。その公園は大きく、ところどころ花壇が作られており、パンジーやチューリップなど色とりどりの花が植えられている。 その奥には大きなレリーフがあり、 古代の伝説として、 偉大な王が存在したと信じられていることが書かれていた。それとは別に、この丘の上にある公園から下の道路を見下ろすように、一体の王の銅像が立っていて、その周りには芝生が植えられていた。王は剣を地面へと深く突き刺している。公園の縁には、桜の木が並んで植えられており、桜の季節には銅像の周りにも、ピクニックシートが敷かれる、そんな場所だ。ベンチなんて高級なものはなく、座れるとしたら、芝生のほかは、公園に上がってくる階段くらいなものだった。


僕は銅像に凭れて座った。天気がよく、高台なのでよい風も吹いていた。うとうとと眠たくなるような時間であったが、頭まで凭れると、後ろから、地響きが聞こえてきて一気に目が覚めた。見ると銅像はスライドして、その下から階段が現われる。おまけに深くささっていたはずの剣が台座から抜けおち、僕の前に落ちてきた。


階段のところに仲良く座っていた爺さん婆さんが立ちあがっていて一緒に叫ぶ。


「「何と伝説の聖剣が抜かれた!!勇者じゃ!勇者の誕生じゃあ!」」


僕は大きな溜息を付いた。


とりあえずここに剣が置いてあっては危ない。観光客が持っていってしまうかもしれない。この県は意外と修学旅行生のほか、外国からも観光客が来るところである。僕は剣を両手で持ち上げた。軽い。


すると僕の目の前の風景が一気に変わり、同じ土地らしいが、見渡す限り、森と川しかない場所に変わった。顔が細長いやさしそうなオオカミが出てくる。あれはニホンオオカミだろう。剣がとたんにしゃべりだす。


「あのイヌは気にすんな。こっちには近づいてこねえ」

「気にしてないけど」

「オレは聖剣の魂だ。この剣を抜いたお前には、いまから修行を受けさせてやる」

「キャンセルで」

「さあいくぞ」


まったく人の話をきいてない聖剣は、僕を引っぱって歩きだした。


剣は僕を少し開けた場所につれていった。そこには鬼が沢山いた。まるで鬼の有名なミュージシャンがコンサートを開いているかのごとく、鬼がそこらかしこにいる。


「修行はこの鬼達を全て倒すことだ。時間はいくらかかってもいい。さあいきな!」

「倒すって殺すことだよね。知的生命体を殺せって言ってる?」

「なんだ? 鬼なんだぞ? 見つかったらお前なんか食われちまうぞ!」

「いや、いくら野獣だとしても、そいつらを皆殺しとか有り得ないよね? 僕に被害が来てる訳でもなし、 明らかにここは彼等の居住区なんだから、配慮して近寄らないようにすれば?」

「なんだあ、こいつ? めんどくせえやつだな? まあいい。こいつらはただの映像、プログラムなんだぜ。だから、殺してもなんにも問題ねえんだ。現実じゃねえんだ。そうじゃなけりゃあ、お前が過去に来れる訳ねえだろ。仮想空間なんだから好きにやればいいんだぜ?」


この剣、マジ信用ならないな。今回は明らかにハズレだな。


「あのね。もし、これが仮想空間で、修行の為にここに来させられたのなら、即この鬼のいる場所ではじまるはずですよね。ニホンオオカミなんて修行に無駄な映像が入り込む訳がないんだから」

「たく!! もうめんどくせえ! せっかく、殺してもいい理由を呉れてやったっていうのに、このガキは余計な知恵を。もう仕方ねえ、ギュオオオオオ!!!!!!」


剣が叫び出す。その大声に、コンサート状態の鬼たちが一斉に振り向く。


「「「「「ガギャアアアア!!!!!」」」」」


そして、揃って此方へ走り出す。


「オラ、 生死がかかってるんだ! 生死の瀬戸際で、殺してはいけない、なんて小賢しい甘ったれたことなんて言えねえんだよ! 食うか食われるか! それでも殺してはいけないから、殺されて死ぬっていうなら、ソクラテスのようにお前の倫理が本物だって、認めてやらあ! まあ、お前はそのとき死んでるんだがな!!」

「嘘に嘘を重ね、今度は開き直り。ガキはあなたの方なんですが。ま、とりあえず、そこに立ってて」


僕は剣を地面に突き刺した。


「なんだ、お前! 本当に死ぬ気かよ!! ここには誰もいねえんだから、死んでもお前のことなんざ、誰も伝えねえぞ!」

「ちょっと、黙ってて」


僕は息を大きく吸うと、鬼達に向けてどなった。


「グギャルガルゴス!デギャアアアア!!!!デルギャルガン? デルギャルデアアア!!!!」


鬼達は突然立ち止まると、綺麗にならび、その場で体操座りをした。


「はああああ??? お前なにをやりやがった!?」

「え、さっき挑発してたから、知ってると思ったけど、ただ適当言ってただけだったのか」

「どういうことだよ?」

「どうでもいいです、今はあなたより彼等の事の方が大事なんで」


僕は鬼達の方に近寄ると、いくつか質問をし、満足の行く答えを得た。そして確信をした。あの剣の作り主は、老害だと。剣のところに戻ると、剣は再び喚き出した。


「まさかと思ったが、お前、鬼と話してやがったな!!」

「今更?」

「てめえ、鬼の末裔か!!」

「何で鬼の言語を話せれば、鬼の末裔になるんです? 錆付きすぎて、思考回路までいかれちゃったんです?」


ちなみにこの世界に飛ばされたのは、4回目かな? 別件で、ほかの地方に住んでいる『鬼』たちと何度か協力したこともある。


「どうでもいいんだ、そんなことはよお。てめえは、知っちゃいけねえことを知っちまった」

「侵略者はこの剣の持ち主のことで、鬼達はそれこそ生きるために必死でこっちに立ち向かってきたってことです?」

「もう、てめえ、もとの世界に返さねえぞ」


剣はうっすらと消えはじめる。


「それはこっちの台詞です」


僕は手を剣に翳す。すると剣はとたんに元のように実体化した。


「な、て、てめえ!? 転移できねえ」

「元々、許可なく勝手に、人を別の世界に誘拐してくる輩は、全く信用しないようにしてるんですよ」

「オレが転移できなきゃ、てめえもできねえんだぞ」

「いいえ? 僕はあなたがいなくても、どうとでもして帰れます。が、いくら僕でもあなたをほうって置くことはできない」


僕は剣に手を触れて、解析を始める。


「な、なにをする」

「あなたは、あなたの作り主のために動いている。はじめは僕もあなたがいうように、あなたの魂的なものがあり、それが今なお自律的に動いているのだと思った。でも違いますね。これは中継器だ。動かしている本体は…ここだ!」


僕は剣と一緒に転移する。そこは、ちょうど僕が転移させられたあの銅像の前だった。


「「老眼じゃと思うたが、やはり勇者じゃ、勇者じゃ!!」」


階段から例の爺さん婆さんが叫んでいるから、時間もちょうど転移元のようだ。銅像に目線を戻せば、銅像の土台は依然スライドしたままで、階段が下へと続いている。階段を下っていくと、そこには開けた明るい広間があった。広間には何もない。ただ上の銅像の台座に似た広い金属の台座があるが、それも穴が三つ空いているだけの、真っ平らな台座である。三つの穴は、誰かの靴の跡みたいなのが二つと、細く楕円型の、まるで剣を刺したらピッタリ合うような。


「なるほど。ここに剣を刺させるわけね」

「そんなに自信があるなら刺してみろよ!」

「いや、これ浦島太郎装置ですよね? 刺し込んだら、剣が奪った生命だけでなく、その持ち主からも生命力を吸いとって爺婆に換えるっていう」

「な?」

「いったい、何人の勇者を爺婆にしてきたんです?」


ホント、邪悪すぎるな。この老害。


「で、その生命力を使うのが」


僕は広間の壁際にいき、聖剣(笑)で壁を両断する。


「お前か!!!」


壁の穴の向こうには陣が広がっており、その真ん中には男が独り、目を瞑り、胡座をかいて座っていた。男はゆっくりと目を見開く。


「驚いたぜ、オレの居場所まで嗅ぎ付けるとは」

「あなたまでいくと、さすがの僕でもほうっておくのは良心の呵責が酷すぎるので」

「言っている意味がよく分からんな。オレはただお前ら子孫が正しい道を進めるように神として見守っているだけだ」

「神? アリジゴクの間違いでは? そこから一歩も動けないで誰か若い世代が転がり込むのを待ってるんだし」

「なんとでもいうがいい。てめえはすぐに話せなくなるんだからな」


彼は壁に立てかけてあった巨大な剣をとった。あれが本来のオリジナルの剣で、この勇者達に使わせている剣は能力を落としたレプリカに中継機能を入れ込んだもんなんだろう。まあ、それでも問題ない。


「そんな重そうな剣持って大丈夫ですか?」

「今頃怖けづいたか? もう遅いがな」

「いや、あなたの手、透けてきてますよ?」

「な!?」


古代王は自分の手を見る。両手が透けてきている。巨大な剣がその手を透過して、地面に落ちる。


「な、なにをしやがった!?」

「ただ、鬼さん達に、過去未来永劫にあなたの軍勢からは守られるように、プロテクトを施しただけです。簡単に言えば過去の書き換えですね」

「てめえ!? そんなことをして許されると思って」

「思ってますよ。 だって散々、あなたがしてきたことですよね? 何回勇者を送って何回書き換えたんです?」


古代王は崩れおちる。そして、僕の方を見て、ふっと消滅した。まあ、この方法を台なしにしただけで、こういう輩はなにかしら、ほかの不死になる方法を見つけるのかもしれないが一先ずは終ったと。しかし…。僕は古代王の残した巨大な剣を持ち上げる。なぜこの剣は消えなかったのか。僕は持って帰って、あとで解析することにした。これは見えないようにしまい込む。


銅像の持っていた剣を持って、地上に出ると、銅像がスライドしてきて元に戻る。同時にガラガラと地下で何かが崩れる音が聞こえる。もう二度と銅像がスライドすることもないだろう。剣も当然ながら、何の声も発しない。


そこに、スーツ姿の高齢の男と、若い男が駆け付けてきた。高齢の男が話しかけてくる。


「君が銅像の剣を引き抜いたという子だね」

「いや、引き抜いた訳では」

「謙遜せずともよろしい。でだね、聖剣を引き抜いた者は、その聖剣の持ち主になる。これはこの街の者だったら、だれだって知っている話だ。だから君はこの聖剣を相続する権利がある」


ん?


「そうするとだね、この銅像も今まで持ち主不明で、撤去できなかった訳だが、この銅像も君が相続することが自然な訳だ。でだね、この銅像は今まで、この土地を私的に所有していてだね、この市の法制によれば、君はこの土地の税金を昔まで遡及して払わねばならない。分かるね、税金は市民の義務だ」

「失礼ですが、あなた方は?」


若い方が答える。


「私達は、市役所の者だ」

「君は名誉を手に入れる。市は税金を手に入れる。まさにwin-winな訳だ。分かるね?」


僕は当然聖剣(笑)の所有権を放棄した。公園の階段の方を見ると、若い20から30代と思われる男女のカップルが手を繋いで、銅像の方を見ていた。僕を見て、笑って手を振ってきたので、僕も手を振り返した。

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