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山月記の二次創作

作者: 鈍色錆色

 只の凡夫として生きる位なら死んだ方がマシだ。そんな考えの下生きてきた李徴であったが、いざ自分が死の淵に立って見ると、その考えは改めざるを得なかった。死ぬよりは凡人でも生きている方がよい、と


 李徴は詩人であったが、生計が立たず、妻子の衣食すらままならぬ有様であった。それでも、大官の俗物の前に膝を祈る事は己の自尊心が許さず、ふらふらと幽鬼の様にあちこちに出向いては詩を描く生活が続いた


 そしてある時ふらりと寄った村で悍ましい病魔に襲われた。体の方々が少しずつ悪くなる病であり、李徴は病を恐れた村人達によって、小汚い納屋に押し込められてしまった。

李徴は己の死を身近に感じながら、とある妄想に取り憑かれていた。自らの体を病が少しずつ喰らっていく妄想である。それは残虐な猛虎の姿をしており、少しずつ、少しずつ、李徴の体を喰らってゆくのだ

 李徴が喉を痛めて声を出せなくなったその晩、李徴 は自分の喉骨が虎の毛で雁字めに縛られる悪夢を見た

視界が悪くなった事に気づいた日には自らの眼球を咀嚼される夢を、腹が酷く痛んだ日は爪 で腹を抉られ、臓腑をだぼだぼと垂れ流す夢を見るのだった


そして虎の影は目が醒めても尚、李徴につきまとった。ふとした時に自らに牙を剥く虎の幻を見る様になったのだ

いくら幻を消そうとしても、李徴の詩人としての想像力がそれを許さなかった。李徴は自らの想像力を呪った


「ああ、俺は、俺は病で死ぬのではない

俺自身の才能に殺されるのだ。磨く事を忘れたくすんだ玉が虎に姿を変えて俺を殺すのだ

ああ、嫌だ。こんな所で独りで死だなんて、誰でもいい、近くにいて欲しい

誰か誰かいないのか 」


李徴の嘆きは潰れた喉では声にならず、ヒューヒュー という音が喉から漏れるのみであった。


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