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#3

妙齢の女性はアームド·ホイールと対峙すると、ポケットから何かを抜き取った。


彼女の手にあったのはスマートフォンだった。


だが次の瞬間、その形状が一瞬で変わっていく。


「スマホが……バズーカに……?」


メロディは信じられなかった。


どこにでもあるようなスマートフォンが、女性が掲げた瞬間に4つの発射管を持つ携行式ロケットランチャーへと変化したのだ。


彼女はそのあり得ない出来事に死の恐怖すら忘れ、バズーカ砲を構える女性に見とれてしまっていた。


「脅威更新。コレヨリ主砲ヲ使用スル」


音声合成で声を発したアームド·ホイールもまた変化をしていた。


上部とサイドについていた機銃が大砲へと変わり、標準を女性へと合わせている。


そんな装甲車を見たホワイトメッシュの女性は、その口角を上げるとフンと鼻で笑った。


「懸賞金の額どおり……。遅いな、おまえ」


轟音が廃墟の町に響き渡り、それと同時にアームド·ホイールが爆発した。


女性がバズーカ砲を撃ったのだ。


「すごい……。あの化け物を、倒しちゃった、んだぁ……」


粉々になって吹き飛んだオートマティックと、爆発の煙が覆う光景に見ていたメロディは、そのまま意識を失った。


――目が覚めると、メロディは傷の手当てをされていることに気が付いた。


うつらうつらと起き上がった彼女の横には、先ほどアームド·ホイールを破壊したホワイトメッシュの入った黒髪の女性が腰を下ろしていた。


「起きたか。運のいい娘だ」


女性はそう言うと、水筒と携行食であるスナックブレッドをメロディへと放った。


受け取ったメロディが両目を広げて呆けていると、女性が顔をしかめながら言う。


「毒なんて入ってないぞ。さっさと食え」


「でも、本当にもらっちゃっていいの?」


崩壊後の世界で水や食料は貴重品だ。


多くの資源は生き残った政府のグループと、ネオリベラによって独占されているため、食える人間は彼ら彼女らかまたはその奴隷たちだけだった。


またはどこのコミュニティにも属さず、奴隷でもない者は、オートマティックを破壊したことで得られる賞金――この世界の共通通貨であるフリーを払わなければ入手できない。


そんな貴重な食料を簡単にくれた女性に、メロディは驚きを隠せなかった。


「いらないなら私が食うが」


「食べる! 食べるよ! いただきます! フガッ!?」


「慌てて食べなくても誰も取ったりしない。ちゃんと噛んで食べろよ」


口いっぱいにスナックブレッドを頬張ったメロディを見て、女性の顔から笑みがこぼれていた。


どうやら喋り方はおっかない感じではあるが、その笑顔や先の態度からして、この女性が優しい人物なのだとメロディは思った。


それとその佇まいからして、政府やネオリベラの人間ではなさそうだと考えていると、女性が訊ねる。


「おまえ、名前は?」


「メ、メロディ。こっちの子はケダマ」


「私はルイーザ。おまえはどこに住んでるんだ? なんでこんなところで賞金首と戦っていた?」


訊ねられたメロディは、自分の素性と事情を説明した。


自分がこの地域にあるネオリベラのコミュニティに人狩りでさらわれて働かされていること。


無謀にも鉄パイプや金属バットでアームド·ホイールと戦っていたのは、そのコミュニティのリーダーが自分たちを置いて逃げてしまったからだと。


話を聞き終えたルイーザと名乗った女性は、地面から立ち上がると、目の前にあった大型自動二輪車――ホンダ CRF1100L アフリカツインへとまたがった。


彼女の移動手段として使われているものだろう。


年季は入っていそうだったが、大事に乗られていそうなものだった。


「どこへ行くのルイーザ!? いや、そもそもあなたはなにをしている人なの!?」


「私は理由があってオートマティック·ハンターをしている。まあ、食うためだな」


「ルイーザって、ハンターだったの……」


メロディもオートマティック·ハンターの存在は知っていた。


だが、その多くが一攫千金を夢見て返り討ちに遭い、機械の化け物に殺されていることも。


「最後に教えてくれ。おまえぐらいの少女がネオリベラのコミュニティにはいるか?」


「ううん。子供はあたしと殺されちゃった子くらいで、他にはいなかったと思う」


「ここも当てが外れたか……。じゃあな、私はもう行く」


ルイーザはそう言うとバイクのエンジンをかけた。


高排気量のバイクらしい重低音が鳴り、彼女はその場から去ろうとしたが――。


「待って、待ってよ! ルイーザもあたしと一緒にコミュニティに!」


メロディが声を張り上げてルイーザを引き留めた。


彼女としては、オートマティックが暴れ回る外の世界よりも、ネオリベラのコミュニティ内のほうが安全だと言いたいのだ(たとえ奴隷とはいえ)。


ルイーザはメロディの気持ちに感謝しながらも、その誘いを断った。


その理由は、彼女はずっと探している人物がいるからだそうだ。


「そういうわけでおまえとは行けない」


「そっか……。なら、しょうがないよね……」


俯くメロディの肩で、ケダマもしょんぼりと鳴いている。


どうやらメロディが気を失っている間に、このチンチラもルイーザと仲良くなっていたようだ。


「メロディ」


「うん? うわぁッ!?」


ルイーザは突然メロディへと何かを放った。


それは、先ほど賞金首のオートマティック――アームド·ホイールを倒したときに使っていたスマートフォンと同じものだった。


「そいつは私がおまえぐらいのときに使っていたものだ。プログラミングして設定を変えてるから、普通の銃よりも扱いやすいぞ」


ルイーザはそう言うと、大型バイクに別のスマートフォンをセットした。


するとバイクは変化していき、タンク部分や後部にガトリング砲やキャノン砲が装着され、まさかの戦闘車両となった。


メロディはこれもアームド·ホイールを倒したスマートフォンの力なのかと驚いていると、ルイーザがエンジンを吹かしてから彼女に微笑む。


「もっとしゃんとしろ。アームド·ホイールに向かっていったときのおまえはカッコよかったぞ」


「ルイーザ、これもらっちゃっていいの? こんなすごいもの……あたしなんかに……」


「そう思うならいつか返しに来な。ネオリベラのところから出る気があればの話だが」


「ちょっと、待って!」


「それじゃなメロディ、ケダマ。縁があったらまた会おう」


ルイーザは、申し訳なさそうにしているメロディに捨て台詞を吐き、バイクを走らせてその場を去っていった。

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