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ユメツクリ《Remake》小説版  作者: 椎木一
ユメツクリ
42/50

監視という名の

 午前八時。


「……サボりてぇ」

 校門を通り、自然と思考が口から漏れる。

 朝からクソ暑い中の登校ですでにやる気がない俺。

 もうすぐ夏休みなのに、最近の出来事でワクワク感がまったくない。

 他の生徒に混じって玄関に入ると、見知った顔が近づいてきた。


「……先輩、おはようございます」

 沈んだ顔のアスハ。

 どうやら俺を待っていたようだ。


「おはよう……元気ないけど、どうした?」

「ちょっと、色々ありまして」

「昨日のことか?」

「……ええ、まあ。そんなところです」

 曖昧な返事。


「話があるなら場所変えるか? 屋上とか」

「いえ、そんな長くお話するようなことじゃないので。ただちょっと確かめたいことがありまして」

 朝から俺を待ってまで確かめたいこととはなんだろう?


「昨晩なんですが、帰ってから先輩とユメリちゃんずっと一緒にいました?」

「昨晩? んー、まあだいたい一緒にいたな」

「だいたい、とは?」

「飯食ってあいつを風呂に入れた後、部屋で本読んでたら十一時くらいまで寝ちまったんだよ」

 クーラーで体が冷えて目を覚ましたのを覚えている。


「ユメリちゃんも一緒だったんですか」

「いや、ユメリは動物の特番見てたから一緒じゃなかった」

「じゃあ九時頃ユメリちゃんの姿は見てないんですね?」

「……見てはないけど、起きたときにユメリも隣で寝てたから家にいたと思う。どうしてそんなことを?」

「……すいません、ちょっと気になったので」

「何かあったんだな?」

「なにもありません。すいません、それじゃ失礼します」

 ペコリと頭を下げて、アスハは足早に去っていった。

 どう見ても何かあったとしか思えない。


(頃合を見て訊いてみるか)

 いま教えてくれないなら後でも教えてくれないかもしれない。

 けど、ユメリのことを気にしてたからきっとあいつに関係あることなんだろう。


■ ■ ■ ■ ■


 何か変わったことが起こるでもなく、いつも通りに今日の授業が終わった。

 部活や生徒会に入ってる生徒は仕度をしてすぐに出て行き、放課後になっても教室に残って友達と話してるやつらもいる。

 俺は帰宅部なので教室に残るなんてことはしたくない。

 いつもなら直帰するところなのだが――


(ちょっとアスハのところに行ってくるか)

 今朝から気になって頭から離れなかった。

 敦の席を見るとその姿はなく、鞄が残ってるので校内にはいるんだろう。

 アスハのところに行こうにも一学年に十三クラスもあるのだ、敦に彼女のクラスを教えてもらいたかったんだけど。


「敦どこ行ったか知らない?」

 隣の席の佐藤に尋ねても首を振られただけ。


「授業終わってすぐ出てったけど? 鞄あるからそのうち戻ってくるんじゃない」

 とのこと。

 そりゃいずれは戻ってくるだろうけど、アスハのクラスを訊きたかっただけだからな。


 ……今日のところはいいか。

 もしかしたら敦もアスハのところに行ってるかもしれないしな。

 南雲はいつも一緒の友達と話が盛り上がってる様子。

 特にやることもなく、仲間に適当に挨拶をして教室を出た。


■ ■ ■ ■ ■


 仲間内でこんなに早く帰ってるのは俺だけじゃなかろうか?

 かといって誰か誘って遊びに行くにも、今はユメリがいるから遅くなれないしな。

 この歳で子供を気に掛ける生活をするとは思ってなかった。


「遅い!」

「うわああああ!!」

 マンションの階段を上ろうとしたら楼園が突然目の前に現れた。

 いつものシンプルな服装に、いつから待ってたのか額には汗が浮かんでいる。


「遅いっつーのよ! なにしてたわけ!?」

 楼園をかまう前に、あまりに驚いてバクバクしてる心臓を落ち着かせることを優先した。

 楼園はなぜか俺をめっちゃ睨んでいる。

 遅いと言うからにはずっと待ってたんだろうけど、会う約束もコイツが来るということも聞いてない。


「なんの用なんだよ?」

「水衛に会いに来たに決まってんでしょ? とぼけたこと言ってるとひっぱたくわよ?」

 こいつ、短気なうえに頭が悪そうだ。


「おい。今わたしにケンカ売ったわね?」

 勘はいいんだな。


「……で、どうしたんだ? なんの用だよ?」

「別に用事なんてないけど。ヴィオラに水衛のところ行けって言われたのよ」

「どうして?」

「水衛が『あいつ』をつれて逃げないように監視するため」

「はあ!? 意味わかんねえ!」

「監視の意味もわかんないの? 頭わるいのね」

「どうしてそんなことされなきゃいけないのかわかんねーってことだよ! どこに行っても見つかるんなら逃げる意味ないし、だいたいあいつは――」

「……?」

 危ない。

 ヴィオラが電話してきたことを言いそうになった。


「あいつは、なに?」

「ヴィオラなら遠くからでも俺たちの行動がわかるんじゃないのかよ」

「何処にいるかぐらいはわかるみたいだけどね。でもそれだけじゃ何を企んでるかとかわからないじゃない。だからあたしが監視しに来たわけ」

「それは楼園の考えなのか?」

「ヴィオラの意見よ」

「ならヴィオラが監視にくればいいじゃないか」

「他にやることがあるんだって。だからわたしがきたんだけど、なに? わたしじゃ不満?」

 監視されるとか、誰が来たって嫌に決まってる。


「一応訊いとくけど、嫌だって言ったら帰ってくれるのか?」

「水衛たちに拒否権はないの。大人しく捕まりなさい」

 監視から捕獲に変わってますけど?


「じゃあお前――」

「お前って言うな!」

「……楼園は、これからずっと俺たちと一緒にいるのかよ?」

「そんなわけないじゃない。夜になったら帰るよ」

「それって、あんまり意味なくないか?」

 もし逃げるんなら昼間より、暗闇に隠れられる夜だぞ。


「だって水衛たちと一緒に寝るなんて嫌だし。また次の朝来ればいいってヴィオラも言ってた」

「次の朝って毎日来るつもりかよ!?」

「当たり前じゃない! そうじゃなきゃ意味ないでしょ!?」

 いや、そもそも夜帰る時点で意味ないけどな。


「とりあえず家に入れてよ。ずっと待ってたから喉が渇いてるの」

 面倒なことになってきたな。

 ここで文句を言ったところで帰ってくれるわけないので、とりあえず家にあげることにした。


 部屋に入るなり、楼園はリビングで座っているユメリを見つけて険悪な雰囲気をつくる。

 こうなるのは予想してたし、気にせず冷蔵庫へ向かう。

 麦茶でいいか。

 今朝開けてやったユメリ用のリンゴジュースを見ると、意外と中身が残っていた。

 昨日の約束をちゃんと守っているみたいだ。


「いつまでも睨んでないで座れよ」

 三人分の飲み物をテーブルに置いて楼園を促す。


「いまだめ」

 麦茶だとユメリは飲まないから、リンゴジュースを持ってきてやったんだが拒否された。


「いらないのか?」

「よるのぶん」

 どうやら夜にたくさん飲みたいらしい。

 だからこんなに残してたのか。


「いいよ。今だけはノーカウントだ。夜に足りなくなったら少しくらい出してやるから」

「ん」

 それを聞いたユメリの行動は早かった。

 自分で蓋を開けて、コップになみなみジュースを注いで一人先に飲み始めた。

 俺たちが飲んでるのにユメリだけ何もないのも可哀想だしな。


「ずいぶん、仲が良いじゃない」

 麦茶の入ったコップを受け取りながら、ジト目で見返された。


「悪いよりはいいと思うけど」

「こいつが人を殺してたとしても?」

「それはまだ確定したことじゃないだろ。こんな時間から物騒な話はやめようぜ」

「物騒なことに昼も夜もない」

 ごもっとも。


「わかったよ。でも監視って何するんだよ? まさかずっと座って見てるわけじゃないよな?」

「他にどうしろっていうの?」

 マジか?


「いやもう帰れ。俺たちは逃げも隠れもしないから帰ってくれ。監視なんていらん!」

「別に水衛の意見なんて関係ない。あたしがこうしたいからしてるだけ」

 ヴィオラが何て言ったのか知らないが困ったことになった。


「だいたい俺は学校あるんだから、その間どうしてんだよ? ユメリと二人で留守番してんのか?」

「あたしももうすぐ水衛の学校行くことになったから。それまで学校休んでよ」

「はあ!? なんでそっちの都合に合わせて休まなきゃなんねーんだよ!? こっちは親の金で学校行ってんだ! そう簡単に休めるか!」

 普段サボってる奴のセリフじゃないが、ここは主張させてもらおう。


「親のお金? ああ、そうね。それはまずいわね」

 反論してくるもんだと思って構えてたのに、変なところで納得してしまった。


「それに俺の学校に来ることになったって、まさか監視の為だけとか言うなよ」

「監視の為だけよ。水衛がこいつと離れてる時に何か企んでるかもしれないじゃない」

 企むなら学校なんて行ってる場合じゃないだろ。

 こいつ馬鹿なのか?


「ちぐさ、ばか」

 突然ユメリが挑発を飛ばす。


「なんだとこのやろう!」

「て、ハルがかんがえてた」

「いい度胸じゃん?」

 俺の考えたことを口に出すのはやめてくれないでしょうかユメリさん。


「転校してくるでもなさそうだし、学校ってそんな簡単に来れるようなところじゃないんだぞ?」

「知ってる。そんなのこいつの能力使えば簡単じゃない。今も水衛とこいつが一緒にいても『不自然じゃない』状況を作ってんでしょ?」

 記憶の改竄により、俺とユメリが一緒に暮らしていても誰も()()()()()

 なるほど、ヴィオラと一緒にいるだけあって、そこらへんは上手くできるってわけだ。


「俺のことだけ監視してユメリは放っておくのか?」

「こいつはヴィオラが見てる」

「あ」

 楼園がユメリの手から素早くジュースを取り上げた。

 横に置いてある瓶も背中に隠す。


「いじわるするな」

 顔いっぱいに不満を表すユメリ。


「ふん。意地悪で済んでるだけありがたいと思いなさい」

 なんてダメな女だ。


 ピンポーン。


 玄関のチャイム音に俺と楼園が反応する。

 ユメリは楼園の手の中にあるコップから目を離さない。


「誰か来たな」

「わたし帰らないからね!」

「はいはい。ちょっと出てくるから大人しくしてろよ」

 やれやれと腰を上げて玄関に向かう。


 この時間に誰だろう?

 友達が遊びに来るなら事前にスマホのほうに連絡がくるはずだし、真夜さんかな?

 覗き穴を見ることなくドアを開ける。


「こんにちは、先輩」

「……おう」

 アスハだった。

 学校からそのまま来たのか、制服のままだ。


「すみません、ユメリちゃんに会いたくて来ちゃいました」

「いつ来たっていいし、謝ることねーよ……ただ、ちょっとうるさい奴がいるけど」

 こっちも今朝の事が気になってアスハと話したかったのだが、今は邪魔な奴がいる。


「うるさい人?」

「楼園が来てるんだよ」

「千種さんが!? どうしてですか?」

「ヴィオラに俺たちの監視しろとか言われたみたいなんだけど、いまいち要領が掴めなくてさ」

「ヴィオ姉……ああ、そういうことか。

 大丈夫ですよ先輩。千種さんは本当に監視するつもりで来てるんでしょうけど、ヴィオ姉は先輩たちを守る為に千種さんを来させたんだと思います」

 何かに納得してる様子。


「何か知ってるのか?」

「ええ、まあちょっと色々ありまして」

「ちゃんと理由があるならいいけど、後で教えてくれよ? 楼園に聞かれるとまずいから、あいつのいないところで」

「はい、もちろん。あ……それとわたしのことなんですけど、千種さんにはわたしもユメリちゃんの能力の影響を受けた後輩ということにしておいてください。本当のことを知られると揉めそうですから」

 そのほうがいいかもしれないな。

 頷いて俺たちはリビングに戻った。

 戻ると、楼園の手の中にまだジュースがあった。


「いい加減返してやれよ」

「こいつが言うこと聞くまでかえ――」

 楼園の視線が俺の後ろに立っているアスハに止まる。

 なんだか少し驚いてるようだけど。


「水衛って彼女いないんじゃなかったっけ?」

「この子は彼女じゃなくて……って、なんでそんなこと知ってんだよ!?」

「ヴィオラから聞いた」

 交際関係まで。

 あいつはどこまで俺のことを調べたんだ?


「はじめまして。水衛先輩の後輩のアスハです」

「ああ、えっと……どうも、千種、です」

 女の子には強くでれないのか、俺の時とはずいぶん態度が違う。


「千種さんもユメリちゃんに会いに来たんですか?」

「えっ!? あー、そうね、そうかもね」

 なんだそりゃ。


「ちょっと水衛! なんであんな可愛い子が遊びに来るのよ!?」

 サササッと近寄ってきて耳打ちをしてくる。


「俺の友達の彼女でさ、前に遊びに来たときユメリと仲良くなってそれからたまに来るんだよ」

「……そうなんだ。じゃああの子も記憶を操られてるわけね?」

「どうだろうな? アスハと会ったのはユメリが来た後だから、俺の友人を通じて純粋に偶然会ったって考えたほうが自然だと思うけど」

「……そう」

 ウソばかりで固めるとボロが出る。

 多少真実を入れたほうが上手くウソが吐けるって何かの番組でやってたのを思い出した。


「それより早くユメリにジュース返してやれよ。後ろで恨めしそうに見てるぜ」

「素直に返せっていうの?」

 理由もなくジュースを取ったのはお前だろうが。


「アスハの前でイジメんのか?」

「…………う」

 イジメてる自覚はあるようだ。

 アスハに悪いイメージを与えたくないのか、楼園は大人しくテーブルにコップを置いた。

 戻ってきたコップをユメリは両手でガシッと掴んで――


「ちぐさきらい」

 リンゴジュースの瓶も抱えて出て行ってしまった。


「あっ、ユメリちゃん待って」

 その背中をアスハも追いかけていった。


「まったく」

「なによ! わたしが悪いみたいに見るな!」

「……いいけど。で? これからどうすんだ? 本当に夜になるまでここにいるのかよ?」

「当然」

 断言してソファーに座る楼園。

 アスハと話をしようにも、夜になるまで無理そうだった。

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