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ユメツクリ《Remake》小説版  作者: 椎木一
ユメツクリ
37/50

子を想うとは

 ベットに横たわり、虚ろな表情でヴィオラは天井を見ていた。

 窓の外はまだ明るい。そんなに寝入っていたわけではなさそうだ。


(……ウチ、なにしてたんやろぉ?)

 体がダルく、全身が熱い。

 上半身を起こすだけでも億劫だ。


「あ、起きた?」

 出かけていたのか、千種が帰ってきた。

 足元にはモロンジュが付き従い、ブンブン尻尾をふっている。

 千種は手に持ったビニール袋をテーブルに置き、ヴィオラの顔を覗き込む。


「どう? まだ苦しい?」

「……は? 苦しい? 誰が苦しいねん?」

「唸ってたヤツがなに言ってんのよ」

「唸ってた?」

 記憶にない。

 千種はヴィオラの額に手を置いた。


「まだ熱いなぁ。ヴィオラが風邪ひいたのなんて初めてじゃない?」

「……んん。んー?」

 風邪? そんなものひくわけがない。

 と、言おうと思ったが千種の手がひんやりして心地よく、しばらくこのままでいいかと否定せずに無言でいた。


「薬とか栄養ドリンク買ってきたけど飲む?」

「んー……あぁ、せやなぁ」

 まず風邪ではないし、一般人の薬はヴィオラたちには効力がない。


「一応もらっとこか」

 けど千種が優しくしてくれるのが嬉しくて甘えることにした。


(しかしほんま……ウチどうしたんやろ?)

 目覚めるまでの記憶を辿る。


 まず朝早く、千種がハルのマンションに事情を説明しに行くと言って出かけたのを見送った。

 そのあと千種がモロンジュを連れて帰り、今度は自分が出かけた。

 向かった先はクラリスの部屋がある本社ビル。

 本人は居なかったがカノンが出迎えてくれた。


 そこで何を話したんだっけ?


 たしかクラリスの部屋を見て ― ■■■■■■■ ― なにもなかった。

 豪華な部屋だという印象だけで、クラリスの動機を探るヒントはなかった。


 カノンは何か言ってなかったか?


 あの時カノンは ― ■■■■■■■■■ ― ずっと無口だった。


 クラリスから指示を受けているのは明白なのに、彼女は何も語ろうとはしなかった。

 その後……その後、どうしたんだろう?


 ズキッと頭痛を覚える。

 酷く釈然としない気持ちが湧きおこるが、その理由がわからない。


 ビルを出てからの記憶が見つからない。次に繋がるのはこの部屋の天井。

 すぐに帰ってきたんだろうか?

 でもどうやって? 歩いて? それとも民家の屋根を跳んで?

 それに体のダルさと、この発熱は――


「はい。薬とお水。こんなときくらいは何か食べたほうがいいんじゃないの?」

「……おお、ありがとさん。こんなん寝てれば治るわ。気にせんといてや」

 ヴィオラもユメリ同様食事を必要としない。

 普段は好きなビールだけで活動エネルギーは得られるのだ。

 それに千種は風邪だと勘違いしてるようだが風邪ではない。


(こんなときにメンドイなぁ)

 この発熱は体が異常を訴えてるメッセージであり、治す方法も知っている。

 それこそ『本来の食事』が必要になるわけだが、さてどうしたものか。


 その食事こそが、恐らく自分たちの本質であり陰部だろう。

 だから千種もそれは知らないし、妹のアスハですら姉たちがそんなことをしてるなんて知らないはずだ。

 知っているのはクラリスとカノンだけ。

 アスハやユメリもいずれ必要になる行為だが、まだ知る必要はない。


「モロンジュのことなんだけどさ」

「うん?」

 千種がクッションに座ると、その隣でお座りする子犬。

 かなり懐いている。


「犬を飼うときって何がいるの?」

「知らんよそんなの」

 ペットに興味すらなかった二人。

 そういった知識は皆無だった。


「あ、そや」

 そこでヴィオラは思いつく。


「話の腰折ってすまんのやけど、ちょお真面目な話があんねん」

 これはむしろいい機会なのかもしれない。

 モロンジュのことも相談できるし、千種に友人ができるかもしれない。

 友人ができれば、千種の世界も広がるだろう。


 犬の飼い方なんてネットで簡単に調べられる。

 だがそれを言ってしまったら千種の人脈は広がらない。

 一応千種にもスマホを持たせているが、SNSも使わないし家にいるときはまったく触らない。

 だから人に聞くという選択肢が先に立ったのだろうが、ネットの便利さに気づく前に策を打ってしまおうとヴィオラは考えた。


「ちょお、にいちゃんと同じ学校に行ってくれへんかな?」

「は?」

「にいちゃんて水衛ハルのことやで?」

「わかってるわよ。でもなんで?」

 よし食いついた。

 ユメリと関わっているハルの名前を出せば、千種も放ってはおけないだろう。


「まあ色々あってな、にいちゃんを監視してほしいんよ」

「理由は?」

「ユメリを見てるとにいちゃんまで手が回らん。様子見するとは言うても、向こうからしたら安心はできんやん。そんでユメリと離れてる時に、逃げられる計画でも立てられとったら面倒やろ?」

 もちろん嘘だ。

 適当な理由をつけて学校に行ってくれればそれでいい。


「……うーん」

 渋った表情で、千種の視線がモロンジュに向く。


「そういうことならしょうがないけど、わたしがいない間この子はどうするのよ? ヴィオラだって一日家にいるわけじゃないんだし」

「犬っころなんやから一匹で留守番くらいできるって。学校行っとる間はできるだけウチが面倒みるようにしたる」

 ドヤ顔を見せるヴィオラ。


「大丈夫なの? ビールとか飲ませないでよ」

「なんで? 犬にビール飲ませたらアカンの?」

「まだ子供なんだしダメに決まってるでしょ!」

「あ、そういう理由ね」

 犬にとってアルコールは有害なので、成犬だろうが飲ませてはいけない。


「そんなんはどうでもええねん。学校行くってことで準備してもええな?」

「行きたくないけど、しょうがないんでしょ?」

「そうや」

 この際、強引にでも行かせたかったので、案外すんなり受け入れてくれてほっとした。


 子犬と戯れている姿を母のような表情で眺めるヴィオラ。

 出会ったばかりのころに比べて千種の体はずいぶん成長した。

 だが心の方はどうだろうか。

 両親を殺した相手への復讐ばかりに囚われて、豊かに成長したと言えるだろうか?

 普通の生活を送らせたいなどとは思わない。自分と一緒に暮らしている以上無理な話だ。

 ただ、生活の中でもう少し笑顔が増えればいいなと思う。


(ビールでも飲むか)

 気だるそうに立ち上がる。

 千種のことはこれでいいとして、問題はクラリスだ。

 記憶を失っていることに気づけないヴィオラは、どうしたものかと頭を悩ませた。

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