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ユメツクリ《Remake》小説版  作者: 椎木一
ユメツクリ
30/50

《リプレイ》楼園千種 6

 自転車を学校に届けてくれたヴィオラは、ユメリが好きなくせに襲いに来るという。

 両親の仇だとユメリを狙う楼園も、俺の話をまったく聞いてくれない。

 クラリスが言っていたすぐに殺されるという状況にならずにすんだのは良かったものの、何かがプラスになったわけではない。

 むしろ俺とユメリの関係がバレてヤバさが増したんじゃなかろうか?


 楼園に叩きつけられた背中の痛みを我慢しつつ、マンションに帰ろうとしたところでスマホの着信音。

 画面を見れば敦の名前。


「はいよ」

《おー、暇してんならちょっとオレん()に来ねぇ?》

 いきなりな奴だ。


「むしろ忙しいんだけど」

《ちょっと聴いてもらいたい曲があってさ、ハルの感想が聞きたいんだわ。ってことで待ってっから》

 返事も聞かずに用件だけ言って切りやがった。


 自転車のカゴには紙パックのリンゴジュース。

 この暑さでとっくに温くなってるだろうけど、ユメリがこれを楽しみに待っている。


(ちょっとくらいならいいか)

 変な奴らと関わってるせいで日頃の会話に飢えていた。

 去り際のヴィオラの警告も無視できないが、楼園が他人を巻き込むのを嫌ってるって言ってたし、敦がいるのに襲ってきたりはしないだろう。

 そう考えると、俺ん()に敦にしばらく泊まってもらえばあいつらは襲ってこれないってことだよな?

 いや、さすがに巻き込むわけにはいかないか。


 ユメリには悪いけど、もうちょっと留守番をしてもらうことにして、敦の家へ自転車を向かわせた。



■ ■ ■ ■ ■


 帰ってきたヴィオラとしばらく口論を交わし、千種が愚痴る。


「なに考えてるか知らないけど、アイツ一回死んで脳みそ洗ってこいってのよ!」

「お、おお! そやねん」

 その愚痴にヴィオラが思い出したかのように声をあげた。


「なによ?」

「あっ……んん、えーとな」

 怪訝顔の千種に、ハルとユメリの関係を話していいものか迷う。


(にぃちゃんが死んでも内々に処理できるんやけど、もしバレたらめっちゃ怒られるやろうしなー)

「なにかあるの?」

 千種の催促に、まあいいかとヴィオラは口を開いた。


「あんな、にぃちゃんな……ユメリが死んだら一緒に死ぬねん。せやから脳ミソは洗われへんけど一回死ねるなー思うて」

 アハハーと笑っても千種は一緒に笑ってくれなかった。


「なにそれどういうこと!?」

「うわっ、急にそない大声出すなや。これでもウチの心はガラス細工やねん」

「うるっさい! いいから詳しく教えなさい!」

 これ以上ふざけると本気で掴みかかってきそうなので大人しく話したほうがよさそうだ。


「詳しく言うても、言葉通りの意味や。ユメリが死ねばにぃちゃんも死ぬ。命がくっついてるって言ったほうがわかりやすいか?」

「それはもちろん本人は知らないわけでしょ?」

「いや知っとるで」

「うそ!?」

「ホンマやって。ウチかて直接会うて話したんやで? 間違いない」

「だってあいつ、そんなこと一言も……」

「言うタイミング逃がしたんちゃうか?」

「ならなんで自分のことよりも『あいつ』のことを優先して話すのよ……」

「なんて言ってたん?」

 ユメリを守ろうとしている節はあったし、そういうところは素直に好感が持てるとヴィオラは思った。


「あたしの話は信じるけど、何か間違ってる気がするって。あの時はそう言わさせられてるんだと思ってたけど違うみたいだし」

「ユメリを守ることが自分を守ることにも繋がる。ウチらがユメリを狙ってるってわかってんのやったら、そう言うのも考えられへんことでもないな。とはいえ、間違ってるかどうかなんて証明できるもんは無いんやろうけどな」

 逆にこっちには物証ではないものの、千種が過去に『ユメリの外見』を見ておりしっかり覚えてるわけで、まだ信憑性はある。


「ほんとに水衛も死んじゃうの? ヴィオラの思い違いじゃないの?」

「いやまあ……絶対とは言えんけど、そう感じたもんはしゃーないわ。悩んどらんでユメリを殺ってしまえばわかるで?」

 ユメリを殺す気なんてないが、挑発的に言ってみる。


「だめっ! どうなるかわからないのに!」

(あ、やっぱり踏みとどまるんや)

 と思っても口には出さないヴィオラ。


「やっと『あいつ』を見つけたのに……これじゃなにもできないじゃない」

 一転して千種は今にも泣きそうだった。

 千種が動かないと言うのであればヴィオラもそれに従うまで。

 おかげで色々調べる時間もでき、ある意味好都合とも言える。


 しかしユメリの事に関しては調べようがない。

 ユメリが生まれた時にはすでにヴィオラは千種と暮らしていたし、彼女の過去も何度も聞いていた。

 初めは気づかなかったが、クラリスからユメリの成長していく写真が送られてくる度に、千種の両親を殺した犯人象に似てきて、今になっては一致してしまっていることに驚いているくらいだ。

 当然すぐに電話でクラリスに確認をとった。

 普通に考えればナンセンスな話だ。

 生まれたばかりのユメリが数年前の千種の親殺しの件に関われるはずがない。

 だからクラリスに馬鹿にされても構わない気持ちだった。

 ただの偶然。

 考えすぎとでも言われれば納得できる話だった。


 しかし、クラリスの回答は思いもよらないものだった。

 ユメリにそんなことが出来るわけがない。そう否定してくれるだけでよかったのに、ユメリと酷似した姿を見たのなら完全に無関係とは言い切れないというのだ。

 クラリスですらユメリの能力を把握できておらず、未知の力にどんな可能性が含まれてるか予想ができない。

 過去や未来にタイムスリップする。

 フィクションの世界では珍しい話ではないが、現実でそんなことは在りえない。


 この地球上で自分たちが類稀なる力を持っていることは理解している。

 人間が奇跡と呼ぶ事象を難なく行うことが出来る。

 そんな自分たちですら時間を越えて何かをするなんてことはフィクションの世界だけだと思っていた。いや、今でもそう思ってる。

 それなのに、姉妹の中で一番現実的なクラリスがユメリがタイムスリップした可能性を否定しなかった。

 ユメリは自分が生まれる数年前に楼園夫妻を殺しているなんて、なんとも気味の悪い話だ。


(まあ今はそのことはええわ。当面の問題はクラリスや)

 ハルに能力を与え、ユメリにそれを取り除かせようとしている。

 なぜそんなことをさせているのかまったく理解できない。

 クラリスが人間に与えた能力を消せないことは知ってるし、そんなことは自分にもできない。

 だが、無理矢理『消失』させることはできる。

 ユメリの能力は正に今それをやろうとしているのだ。

 それを実行させるべく自分が引き寄せられたのだ。


(そんなことして誰が喜ぶっちゅーねん)

 特にこんなことを三女のアスハに知られたら悲しませるだけではないか。

 疑問や言ってやりたいことは山ほどあるのに肝心のクラリスと連絡が取れない。

 携帯も通話不能になってるし、クラリスの秘書であるカノンに訊いても所在不明とのこと。

 直接会うと殺意が湧いて理性を保てるかわからない。

 手間が掛かるのを覚悟して少しずつ調べるしかなさそうだ。


「ねえヴィオラ」

 見れば千種は途方に暮れていた。


「あたし……どうすればいいの?」

 気の強い彼女がめったに見せない弱い姿。

 千種には悪いがしばらく大人しくしててほしい。

 その間に出来るだけのことはしよう。


「少し様子を見ようや。にぃちゃんに憑いてるならユメリは離れんし、ウチがちゃんと見張っとるさかい」

 ヴィオラは極力優しく笑って応えた。

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