静観
白い世界。
どこまでも白く、広さも解らず、音も匂いも風も、物質すら無い。
何者にも観測されず、存在を認識されていない世界。
人間はおろか、生物の存在しないその場所で思考するモノがあった。
《馬鹿なことをする》
と、ソレは思った。
過ぎた時間を消した者がいる。
すでに消された先端から時間は流れ始め、正常な形を保ってはいるが、消された記録は残っている。
《……》
誰がそんな事をしたのか探ろうとしたが、数日間の記録が無いため特定ができない。
《まあ、いいか》
実体がないのに、ため息を吐くという人間の真似事をしてみる。
人間が社会を形成してから今この時まで、ソレにとっては瞬き一度程度の一瞬の感覚だが、その一瞬にはソレの自己が形成されるだけのインパクトがあった。
元々ソレに感情は無い。
意思も本能も、そもそも生物ではない。
人間とは、なんとも単純で複雑で、明解で不明瞭で、愛しく醜いものか。
相反する、矛盾を持ちながら進化している生物。
面白い。
そう感じさせるからこそソレに影響を与え、個を生じさせた。
人間の誕生よりも遥か古から存在し、人間が起爆剤となって生じたソレは静かに意識を微睡に沈める。
《まだ起きても意味がない》
とある事への興味があった。
成してみたい願望があった。
ただそれには自分以外の他人が必要だった。
その他人も誰でもいいわけではなかった。
その人間が産まれるまで、又は発生するまで、ソレは静かに眠り続ける。
時間を消し去るという事象を起こす人物よりも稀有な存在を静かに待っていた。




