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ユメツクリ《Remake》小説版  作者: 椎木一
プロローグ
24/50

探し人 2

「よし、できた」

 半熟卵と長ネギをスライスしたものを乗せて出来上がり。

 具的に味気ないが、即興で作るとしたらこんなもんだろう。

 チラッとリビングにいる楼園を見ると――


「……寝てる」

 コテンと横になって寝息を立てていた。


「しゃーねえか」

 たぶん話が止まってすぐに寝てしまったんだろう。

 二晩も寝てないなら無理もない。


 俺は一旦キッチンに戻り鍋の火を消し、エアコンの温度を少し上げて、楼園にタオルケットをかけてやった。

 彼女の寝顔は安眠とはとても言えないものだった。

 苦しそうと言うより、とても悲しそう。

 こんなになってまで探してんだから、きっとヴィオラはすごく大切な存在なんだろう。


「さて、次はあいつだな」

 リビングを出て、ユメリがいる部屋へと向かう。


 楼園の言葉じゃないけど、なんでこんなお節介焼きみたいなことしてるのかと自分でも思ってしまう。

 さっきはさっきでユメリの擁護に転じたり、どうも最近突発的な気持ちの変化が多い気がする。

 本心からやってるわけだから嫌ってことはないけど……やっぱり得体の知れない連中と付き合ってるから情緒不安定なんだろうか。


「そういうわけなんだけど、手伝ってくれるか?」

「てつだう」

 簡単に一通りの説明を終え、協力の是非を問うと、ユメリは迷うことなく即答してくれた。


「……手伝うのはいいけど、こっちからヴィオラを探すってのは危険なんだぞ?」

 あまりの即答っぷりに、本当に状況をわかってるのかこっちが心配になる。


「ヴィオラ、すき」

 大きな瞳が俺を見上げている。


 ため息を一つ。

 そうだった。

 こいつら姉妹は好き好んで相手を傷つけてるわけじゃないんだった。

 クラリスは怪しいけど、他のやつは明確に好意を示してたじゃないか。

 ヴィオラの様子がおかしくて姿が見えないなら、それを探すのにユメリが躊躇わないのも当然か。


「わかった。じゃあ楼園が目を覚ましたらよろしくな」

 ポンポンとユメリの頭を撫でると、目を細めて頷いてくれた。




「……ゥん……ンンッ……」

 ドキッとするくらい艶かしい声で寝返りをうったかと思ったら、パチッと楼園は目を覚ました。


「……あれ? ……………わたし」

「よう、よく眠れたか?」

 ゲーム機の電源を切って声を掛ける。

 楼園が起きるまでやることもないし、ゲームをして時間を潰してたのだ。

 ユメリも俺の隣でつまらなそうにゲーム画面を見ていた。


「えっ? ……んな! ………………あ! ………そっか」

 きっと走馬灯のように、楼園の頭の中で現状に至るまでの光景が流れたんだろう。


「……ごめん」

「なんでいきなり謝るんだよ?」


「寝るつもりはなかったのに、寝ちゃってたから」

「別に謝る必要はねーだろ。どっち道寝させるつもりだったし」


「……………………」

 寝起きだからかいやに楼園は大人しい。


「腹減ってるだろ? ちょっとまってな」

 よいしょと立ち上がって俺はキッチンへ。


「おまえっ!」

 そこで初めてユメリが近くにいるのに気づいたようだ。


「おい! 子供じゃないんだから相手の顔見ただけで喧嘩すんなよ!?」

「わたしに言わないでよ! 子供はこいつでしょ!!」

 ユメリを指差して喚く楼園。

 うん、まあそうなんだけどね。

 一気に緊張感がなくなった。


 とりあえず二人はほっといて、朝作ったうどんを温めなおす作業に入った。

 俺と楼園の前にうどんを置いて、ユメリの前にはリンゴジュース。


「朝作ったやつだから、汁吸って柔らかくなってるけど我慢してくれ」

「作ってもらってるんだし、文句なんか言わない」

 言いながらも楼園はユメリを気にしてる。


 まあこればっかりはしょうがないか。

 彼女にはそうならざるをえない事情があるわけだし。

 ユメリもそんな楼園をまったく気にしないでジュースを飲んでるくらいだから問題ないだろ。


「これ食ったらすぐに探しに行こうぜ。暗くなったらやっかいだし」

 すぐに同意してくるかと思ったら、楼園は疑問を口にした。


「水衛ってなんか変よね。どうしてそんなに協力的になれるわけ?」

「またかよ。その答えは朝話しただろ」


「あ、ううん、そういうんじゃなくて、なんていうのかな」

 うどんを箸でグルグルかき回しながら考え込んでる。

 なかなか行儀悪い奴だ。


「ヴィオラが言ってたんだけど、水衛ってヴィオラたちのこと怖くないんでしょ?」

「普通ならこいつ等が近くにいるだけで恐怖を感じるってやつか?」


「うん、そう。わたしは小さい頃からヴィオラと一緒にいるし、耐性ができてるっぽいからユメリが近くにいても、他の奴が近寄ってきてもたぶん怖くないんだと思うけど、水衛の場合はそうじゃないって言ってた」

「……よく理解してるわけじゃないから上手く説明できないけど、俺みたいなやつを『適任者』って言うみたいだ」

 クラリスの説明を思い出す。

 確かそんな理由で俺に近づいたってあいつは言ってたよな。


「つまり俺と一緒にいる分には『怖がらせないようにする必要がない』らしい。それだけで『適任』なんて言葉を使わないだろうから、他になにかあるのかもしれないけど教えてくれなかった」

「そのクラリスって奴は何をしようとしてんの?」


「それが一番の謎なんだよ。あいつは俺を利用してるってことを隠そうとしなかった。俺がいくら足掻こうが無駄だと思ってんのか、それとも絶対に知られない自信があるのかわからないけどな」

「……どうするつもりなの?」


「どうするもなにも、このまま大人しくしてるわけねーだろ? 俺だってこのまま――」

 そこで時計が目に入った。

 時刻はすでに六時半を回っている。


「この話はまた後にしよう。まずはヴィオラを探してからだ」

 夏は日が暮れるのが遅いとはいえ、もう一時間もすれば暗くなってしまう。

 このまま話を煮詰めて、楼園の協力も得られれば願ったりなのだが、今は悠長に話をしてる時間はない。

 怪我の功名とでも言うべきか、今の楼園なら俺の話を聞いてくれるし、できればアスハも交えて詳しい事情を説明したい。


「実は、学校が終わったら楼園に会いに行こうかと思ってたんだ」

「こいつのことで、でしょ?」

 俺は頷いて肯定。

 話の流れからある程度理解はしてくれてるようだ。


「すぐにとは言わないけど、ヴィオラを見つけたら俺の話を聞いてくれないか? 会わせたい奴もいるんだ」

「わかった。むしろそっちのほうが気が楽ね。わたしばかり助けられてたんじゃ気持ち悪い」

 楼園の表情はしっかりしていて、強気な性格も戻ってきてる。

 気力は充分……かどうかは計り知れないが、朝のときみたいな弱気な部分は見えない。


 流れは確実に追い風だ。

 楼園が俺の話を聞いてくれるなら、ヴィオラも協力してくれるかもしれない。

 そしたら一気にクラリスに詰め寄ることができる……かもしれない。

 これは俺たちにとってチャンスだ。

 ここは是非ともユメリにがんばってもらわないとな。


「……あれ」

 気になるものでもあったのか、楼園が何かを見ている。

 視線を追うと、そこには写真立て。

 中には俺と姉ちゃんで撮った写真が入っている。


「あの人、楼園の家族?」

「姉ちゃんだよ」


「…………ふぅん」

 何を思ったのか、楼園はジッとそれを見て、ボソリと小声で呟いた。


「………………なによ、あんたの夢なんてとっくに叶ってるじゃないの」

「え? なんだって?」

 本当に小声で言うもんだから何を言ったのか聞き取れない。


「別に、何も言ってない」

 嘘つけ、と言いたいところだったけど、なぜか楼園は機嫌を損ねてしまったようで、あえて何も言わなかった。


 それ以降なんの会話もなく、俺と楼園は素早くうどんをかきこんで、ユメリを連れて外へ繰り出した。

 夕焼け空はすでに紺色のベールが薄っすらとかかりはじめて、暗くなるまでそう時間がないことを教えてくれていた。

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