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ユメツクリ《Remake》小説版  作者: 椎木一
プロローグ
20/50

強制交際 2

 放課後になった。

 教室には俺一人。

 敦や南雲もとっくに帰ってしまっている。


「……うーん」

 頭に血が上って放課後に会うなんて簡単に約束してしまったが、実はかなりヤバイんじゃないだろうか?

 いきなり命を奪われるような展開になんて……ならないとは言い切れない。

 それにクラリスの話では、ユメリの能力に関係なく敵対する二人がいると言ってた。

 一人はヴィオラ。

 じゃあもう一人は?


「……あいつなんじゃ」

 ユメリと一緒にいなければ、俺が憑かれてるとわからないから安心とのことだけど、ただ単に目を付けられた場合はどうなるんだ?

 実際に俺はあいつの思い通りになってない人間なわけだし、邪魔だから消しとこうとか考えてたりして。


「よし。やっぱり帰ろう」

 言い方を変えれば、逃げよう。

 自ら敵の手中におさまることはない。

 とりあえずユメリにアスハのことを訊いてみよう。

 そうと決めたら長居は無用だ。

 あいつに見つかる前にさっさと帰ろう。


「「あ」」

 階段を駆け下りようとしたところで、下から上がってきたアスハとばったり鉢合わせしてしまった。

 なんてバットタイミング。


「すみません先輩。日直のお仕事してたら遅くなっちゃって……」

 真面目なやつだ。


「もしかして迎えに来てくれようとしてたんですか?」

「……あ、ああ、まあな」

 さすがに逃げようとしてたなんて言えない。


「優しいですね」

 その笑顔に一瞬毒気を抜かれる。

 ここは腹を決めるしかないか。


「話があるんだろ?」

「……はい」

 当初の約束通り、俺たちは屋上へ移動した。


 グラウンドや校内からは、部活動をしてる生徒の声が絶えず聞えてくる。

 普段なら暑い中よくやるよと冷めた感想しか浮かばないのに、今は周りに人がいるという安心感を与えてくれた。

 屋上には人の気配はなく、俺と彼女の二人きり。

 そしてなぜか、俺よりも彼女のほうが不安げな表情を浮かべてたりする。


「……」

「……」

 お互い沈黙。


「……お前の名前、アスハでいいんだろ?」

 待ってても口を開く気配がないので、こっちから質問をすることにした。


「あ、はい、そうです」

「どうしてこの学校にいる? なにが目的だ?」

 間違っても、お前もユメリを狙ってるのか? なんて訊けない。


「……目的って言われても、あたしは普通に入学してきただけだし」

「ウソつけ! いきなり俺たちの前に現れて信じるとでも思ってんのかよ?」


「そ、それは、その、昨日までは敦先輩と付き合ってなかったから、水衛先輩とも顔を合わせることがなかっただけで」

「敦と付き合ってって、そうだよ敦の……付き合ってるってマジで?」


「はい」

「いつから?」

「今日からです」

 今日からかよ!?


「それにしてはおかしいじゃないか。敦も他の皆も、以前から付き合ってるような感じだったし、あんただって俺のことを以前から知ってるふうに装ってただろ」

「……それは」

 言葉に詰まるアスハ。

 この話をする前に、別のことをハッキリさせておいたほうがいいかもしれない。


「アスハって呼ばせてもらってもいい?」

「はい」


「じゃあ訊くけど、アスハは人間じゃないんだろ?」

「え!?」

 俺にあんなことをしておいて驚かれても困るのだが、とりあえずお前の正体はわかってるんだぞと伝えておいたほうが話が早い。


「ど、どうしてあたしが人間じゃないってわかるんですか!?」

「……どうしてって、人の記憶をいじっといてよく言うぜ」


「あ、そっか、だから先輩にあたしの力が効かなかったんですねー」

 なにやら勝手に納得してるようだけど。


「水衛先輩も人間じゃなかったんですね!」

「なんでだよ!?」


「あれ!? だってそうじゃないとおかしいし」

「別におかしくはないだろ」


「だって先輩、あたしの力を撥ね返したじゃないですか」

「それは……俺だってよくわからねーよ」

 実際どうやって撥ね返してるのかなんて自分でもわからない。


「とにかく、俺はアスハが人間じゃないってわかってんだから、嘘吐いて誤魔化そうとするな」

「あたし、誤魔化そうとなんてしてません!」


「じゃあどうしてわざわざ学校に通ってんだよ?」

「それ、すごく偏見です! 人間じゃないからって人間と同じ学校に通っちゃいけないんですか!?」

 偏見というか、ごく普通の意見だと思うけど。


「なら何しに学校に来てんだよ?」

「そんなの勉強に決まってるじゃないですか」

 ……至極当然なことを言われた。


「水衛先輩こそ、授業中寝てたりよく早退したり、何しに学校来てるんですか?」

「……なんでそんなこと知ってんだ?」

「敦先輩に聞きました」

 付き合ったばかりなのに、あいつはもう俺のそんなことを洩らしてんのか。


「おーけー。百歩譲って学校に通ってる理由は信じよう。なら敦に近づいた理由はなんだ? 周りの皆の記憶をいじってまで敦を洗脳してる理由はなんだ?」

「……洗脳なんてしてません」


「あいつは昔っから女にモテたけど、一切彼女を作ろうとしなかった。それは音楽のことで頭がいっぱいで、彼女を作るくらいだったら音楽に時間を費やしたいって本人も言ってたんだぞ。だから突然彼女ができるなんて不自然なんだよ」

「……先輩からは突然に見えても、あたしたちにはちゃんと付き合うまでの過程があるんですから」


「だからその過程で洗脳したってことだろ?」

「洗脳なんてしてないもん!」


「アスハと付き合うように敦の頭の中をいじるのは洗脳って言わねーのかよ!!」

「……それは」


「人の記憶を改竄して、自分の居場所を作るなんてのはユメリだってやってる。最初はそれだけでもすごく嫌だったけど、そうしないと生きていけなくて、人間に危害を加えないのならそれ……で、も?」

 アスハがひどく驚いてる?


「先輩、ユメリちゃんを知ってるんですか!?」

「え? あ……あ!」

 熱くなってついユメリの名前を出しちまった!


「ユメリちゃんを知ってるんですよね、先輩!?」

 後悔しても後の祭り。アスハはもの凄くユメリの名前に食いついてきてる。

 しかし『ユメリちゃん』ね。

 ずいぶん親しみのある呼び方をする奴だ。


「……まあ……そういう奴がいるって認識くらいは」

「嘘です! ユメリちゃんを知ってる人間をお姉ちゃんが放っておくわけがないもの! 水衛先輩、ユメリちゃんに憑かれてるんじゃないんですか?」

 その視線は答えを聞かずとも分かっているというものだ。

 恐らく、アスハが本気になれば俺から情報を聞き出すことなんて他愛もなくやってしまうだろう。

 いまさら隠しても無駄か。


「……だったらどうするつもりだよ?」

 俺が認めると、

「こんな近くにユメリちゃんの憑いてる人がいるなんて……」

 アスハは信じられないというように俺を見ていた。


 俺のミスとはいえ、ある意味これはチャンスかもしれない。

 こいつならクラリスが何をしようとしているのか察しがつくかもしれないのだ。

 ただそれを訊く前に、確認しておかなければならないことがある。


「アスハは、俺たちの……いや、ユメリの敵か?」

「敵!? なんであたしが!」

 よほど突拍子もなかったことを言ったのか、たいそう驚いてる。

 これが演技でないのなら、今の反応でだいたいわかった。


「どうしてあたしがユメリちゃんの敵なんて言われなきゃならないんですか!? そんな物騒な相手はいないし、そんな相手を作るような子じゃありません!」

 まてまて、クラリスの話とは全然言ってることが違うじゃないか。

 夕方とはいえ気温が高く、立っているだけでも汗が流れる。

 ややこしくなってきた話をまとめるには時間が掛かりそうだ。


「あの、先輩にユメリちゃんが憑いてるってことは、ユメリちゃんは家にいるってことですよね?」

「……ああ」

 大人しくしていればの話だが。


「そ、それじゃあ、これから先輩の家に遊びに行ってもいいですか!?」

「なんでそうなる!?」


「あたしがユメリちゃんに会いたいからに決まってるじゃないですか!」

 どんどん話が脱線してきたぞ。


「俺はまだアスハの言ったことを信用してるわけじゃないし、上手いことを言ってユメリに近づこうとしてるんじゃないのか!?」

「そんなわけないじゃないですか! ひどいです先輩!」

 うん。

 俺もそこで実はそうだったんですと言うとは思ってない。


「だったら少しでも俺が信用できるように聞かせろ。なぜ敦を洗脳してまで近づいた? その目的はなんだ?」

 俺の問いに再び表情に影を落とす彼女。


「……どうして先輩はそこまで敦先輩のことを気にするんですか?」

「あいつはふざけた奴だけど、俺にとっては昔からの友達だ。それがお前らみたいな変な奴に利用されてるってわかってて、黙って見てられるかよ!」

「友達、ですか」

 ポツリと呟くアスハ。


「あたしだって最初は普通に告白したんですよ? 信じてもらえるかわかりませんけど」

 信じる信じないは別として……告白?


「でもやっぱり断られて……あ、やっぱりってのは、敦先輩は何人も女の子をフッてるってわかってたから、あたしもダメかなぁなんて思ってたところもあって」

「それで思い通りにならないから、ムリヤリ好きになるようにしたと?」


「ちがっ……結果的には、そうですけど……」

「それでどうするつもりだったんだよ?」


「どうするって!? ここまで話してもわからないんですか!?」

「わからねーよ! 肝心の敦に近づいた理由を言ってないじゃないか!?」


「……うそっ!? 先輩、空気読めないとかデリカシーが無いって言われるでしょ?」

 なんだよ突然。


「残念だがそんなこと言われた覚えはない! 俺のことなんてどうでもいいだろ! お前の目的はなんなんだよ!?」

「あたしは敦先輩のことが大好きで傍にいたいんです!」


 アスハの気持ちを強調するかの様に、全身を撫でる風が吹いた。


「あたしだってこんな卑怯なことしたくなかったけど……敦先輩が他の子と一緒になっちゃったらって考えたら、我慢できなくて……だから……だから……」

「誰かにとられるくらいなら、自分を好きになってもらいたかったと?」


「…………はい」

「それから、敦を利用してなにか――」


「利用するなんて、あたしが許しません!」

 俺の言葉を遮って、彼女は強く言った。

 こぶしを握り締め、薄っすらと瞳に涙を滲ませている。

 きっと、それは敦に対してルール違反をしてしまった自分への怒りからきたものだ。

 ――そうであると信じたい。


「アスハがやってることは絶対に許せないことだ。だから俺は二人が付き合ってるなんて認めない」

「……はい」

 俺に見せてる顔が全て本物なら、きっとアスハはすごく素直な子だと思う。

 それが彼女の姿なら、俺は――


「自分でもなに言ってるかわかんねーけど……応援くらいは、してもいいんじゃないかって思ってる」

「――え?」

 ああ……ほんとに自分で自分が何を考えてるのかわからない。

 なんでこんな急に同情を抱いたのか理解不能だ。


 敦を変な能力でいいようにしてるのは気に入らない。

 けどアスハの気持ちを応援したいとも思ってる。

 完全な感情移入。


 応援したいだって?

 変な能力で人の心を操っておいてそんな馬鹿げた話ってあるかよ。

 理屈ではこいつを許すことはできない。

 けど感情が先に立ってしまう。


 俺にだって好きな子がいる。

 もし告白してフラれたとして、アスハのような力が俺にもあったらと思うと……彼女の気持ちもわかる。

 気持ちを伝えて、相手に受け入れてもらえなくて、それで好きな相手が他の誰かと一緒になるんじゃないかって考えたら――すごく辛い。


 敦はすでに断ってるらしいから、今のアスハは一方的に気持ちを押し付けてるにすぎない。

 ヘタに人間を操れることができるから安易な行動にでてしまったけど、もしかしたら、アスハの気持ちが敦に受け入れてもらえる日がくるかもしれない。

 だからもし、アスハがイカサマなんかしないで敦のことを想い続けるのなら、俺は応援したい。

 青い感情論だってのは充分わかってる。

 わかってるけどそう思ってしまったんだからしょうがないじゃないか。


「……セン、パイ?」

 意図がうまく伝わってないようだ。

 言ってる本人が整理できてないんだからそれも当然か。

 まとまらない気持ちを頭を掻いて誤魔化す。


「だから、アスハの気持ちは伝わってきたから、その想いを応援したいって言ってんの」

 言ってる自分が恥ずかしい。

 顔が暑いのは夏だからということにしておこう。


 シリアスな展開になるかと思ってたのに、こんな話になるなんて想像もしてなかった。

 人の意思を操れる、人ではないアスハ。

 俺の場合、すでに前例があるからそんなに驚かないけど、普通だったら怖がったり気味悪がったりするんだと思う。


 言葉は通じても、こいつらが人間と同じ感性を持ってるかどうかも微妙なところだ。

 だけど、アスハの言葉は俺に伝わってきた。

 それは純粋に、誰かを想ってるということ。

 誰かを好きになってどうしようもないということ。


 敦を大好きだと彼女は叫んだ。

 俺を騙そうとして、そういう風に見せている可能性もあるかもしれない。

 けど、表面の言葉ではなく、俺には彼女の心からの叫びに聞えたんだからしょうがない。

 裏切られたときは絶対にへこむ。

 だったらちょっとくらい疑心暗鬼があったほうが楽なんじゃないかと思う反面、本気で敦を好きだと言ってる彼女を信じたい気持ちも強い。


「先輩! それじゃあ――」

「言っとくけど、アスハのやったことを許したわけじゃないからな。あと約束しろ! 昼の時みたいに、人間を人形みたいに扱うな!」

「あたしだって好きでやったわけじゃない。約束する。約束します! 敦先輩の親友の水衛先輩が応援してくれるなら超心強いじゃないですか!」

 彼女の笑顔は純粋そのもの。


「……あんまり親友とか言うなよ。改めて言われるとすげー恥ずかしい」

 だから俺も彼女につられて、自然と顔が綻んだ。



 ■ ■ ■ ■ ■



「俺のこと、先輩って呼んでるくらいだから下級生なんだろ?」

「はい、一年生です」

 学校からの帰り道、二人で肩を並べて歩いていた。

 アスハに訊きたいことは山ほどあるし、向こうもユメリに会いたいと言うので、俺のマンションへ向かっている。


 正直なところ、八割方こいつを信用してしまっていた。

 クラリスの例もあるから手放しでってわけにはいかないけど、これでまた酷い騙され方をしたら人間不信になってしまうかも。

 もともとこいつら人間じゃないけど。


「普通に入学してたって話しだけど、そのころは敦のこと知らなかったんだろ? どうして高校に入ろうなんて考えたんだ?」

「だって中学の友達は皆進学するし、あたしだって高校くらいは出ておきたいですよ」


「え? 中学も行ってたんだ」

「先輩、あたしのことなんだと思ってるんですか?」


「人間じゃないとは思ってるけど、意外だな」

「ユメリちゃんだって、再来年には小学生ですよ」

 げっ! あいつが小学校行って大丈夫なのかよ。


「アスハとユメリってどういう関係なんだ?」

「……えーと、どう説明したらいいのか」

 答えることはできるけど、説明するのが難しいといった感じ。

 時間はあるし、この質問は後回しにするか。


「屋上で『ユメリを知ってる人間をお姉ちゃんが放っておくわけがない』って言ってただろ? そのお姉ちゃんって、クラリスのことだよな?」

 あの時は話が逸れるから追求しなかっただけで、その言葉はずっと気になっていた。


「先輩、お姉ちゃんにも会ったんですか!?」

 すごく驚いてる。

 この反応ではっきりしたけど……姉妹のわりにあんまり似てないな。


「知ってるもなにも、事の原因はあいつだからな」

「……事の原因? 先輩、詳しく教えてください」

 アスハが表情を硬くすると、周りの空気も少しだけ冷たくなったような気がした。


 ユメリが俺に憑いた経緯を説明し終え、アスハの第一声は、信じられない、だった。


「何がどう信じられないんだ?」

「全部です。お姉ちゃんが先輩に能力を与えて人を殺したり、その能力を消させるためにユメリちゃんを憑かせたり……まるで別人みたい」


「ちなみに、アスハの知るクラリスはどんな奴なんだ?」

「すごく優しい人です。あたしたち姉妹の生活費は全部お姉ちゃんが出してくれてるし、お仕事のほうでも人望が厚い人です。会社の社長なんですよ、お姉ちゃん」


「知ってる。クラリスの秘書って人が家に来たよ」

 優しく人望の厚いアスハの姉。

 俺の知るクラリスと同一人物とは思えない。

 だからこそアスハも信じられないんだろうけど。


「もしかしてお姉ちゃんも先輩の家にいるんですか!?」

「いないけど。いたら不味いことでもあるの?」

「……えと、それは」

 言葉に詰まるアスハ。

 その理由がなんとなく推測できた。


「顔を合わせただけで相手を殺したくなる」

「――――っ!」

 その反応で、アスハもそうなってしまうんだと理解した。


「先輩。あたしたちのこと、どこまで知ってるんです?」

 その声色には今までにない感情が含まれていた。


 クラリスはあっさり洩らしたけど、俺の言ったワードは結構重要なもののようだ。

 隠す必要はないし、アスハなら力になってくれるかもしれない。

 ヴィオラたちのことも含め、俺は現在置かれている状況を包み隠さず全て話した。

 俺が説明し終えた頃には、マンションは目の前だった。


「先輩、ユメリちゃんに会う前に話しておきたいことがあります」

「お、おう。なんだ?」


「クラリスはあたしの姉って言いましたけど……ヴィオラも、あたしの姉です。クラリスが長女、ヴィオラが次女、三女があたし」

「えっ? ええ!?」

 驚いたなんてもんじゃない。

 顔を合わせれば殺したくなるなんて奴らが姉妹だと?

 初めてヴィオラと会った時のことを思い出す。


『ウチはクラリスやチビッ子に何の恨みもないし嫌ってもいない。むしろ好きやな』


 そうだ、ヴィオラは最初からそう言ってた。

 姉妹ならそれも当然だ。

 そして俺がクラリスのことを話したとき、あいつもクラリスの行動に違和感を感じてたみたいだったじゃないか!

 それでもヴィオラはその日の夜に襲ってきた。

 楼園のことがあるにせよ、クラリスの言ってた『ユメリの能力とは関係なく敵対するうちの一人』だと思ってた。

 けどアスハの話はそれを完全に否定した。


「ユメリちゃんの能力が無差別すぎて、外敵を作りやすいのは事実です。けど最初から敵視してくるような相手なんていません。お姉ちゃんの言い方だと、まるであたしとヴィオ姉のことを言ってるみたいに聞こえる」

「でもユメリに、敵が近くに来たらわからないのかって訊いたら、ヴィオラの名前をだしたぞ」


「それはヴィオ姉がユメリちゃんに衝動を抱いちゃうからです。その点を見れば、確かにヴィオ姉は敵と言えなくもないかもしれません」

 なるほどね。


「アスハも誰かに殺人衝動を抱いたりするのか?」

「……あたしは、ヴィオ姉に」

 考えるだけでも辛いのか、アスハはギュッと唇を噛んだ。

 ヴィオラはクラリスとユメリに、アスハはヴィオラに殺意を抱く。


「じゃあクラリスとユメリは――」

「はい、お姉ちゃんはあたしを見ると衝動が起きます……」


「ユメリは大丈夫なのか?」

「ユメリちゃんだけは特別なんです。あの子だけは何も起きない。いえ……おかしいのはあたしたちのほうですね。ユメリちゃんが普通なんです。だからお姉ちゃんとあたしはユメリちゃんと接することができる」

 クラリスが家にいるか訊いてきたのはそのせいか。


「仲が悪いってわけじゃないんだろ? どうしてそんなことになってんだ?」

 姉妹なのに、これじゃあユメリ以外は会うことができない。聞いてるこっちも胸が痛くなる話だ。


「わかりません。生まれたときからこんなだったから……」

 そのせいで辛い思いをしたのは一度や二度じゃないはずだ。


「会えないのにクラリスが出してる生活費とかはどうやって?」

「必要なお金は口座に振り込んでくれます。それに、姿を見なければいいだけだから、電話で話すことだってできます」

 あっけらかんとした表情は強がっているようにしか見えない。


「じゃあ今までクラリスやヴィオラと直接会ったことは――」

「ほとんどありません。最後に会ったのはもう何年も前だし、近くにいれば気配でわかるから、お互いに傷つけ合わないようにすぐに離れますしね」

 会える距離にいても、相手を守る為に離れるしかない。

 その時の気持ちなんて、俺にわかるはずもない。


「……そろそろ入るか」

 彼女に掛ける言葉が見つからないというのもあったが、姉妹で会えるのがユメリだけというなら、早く会わせてあげたいという気持ちが生まれていた。


「そうですね、ユメリちゃんと会うのは久しぶりです」


 玄関のドアを開けると、

「おかえり」

 俺たちの気配を感じて待ってたのか、ユメリが出迎えてくれた。


「ユメリちゃあああん! ひさしぶりだねー!」

「うわっ!」

 ユメリの姿を見るやいなや、俺を押しどけてアスハがユメリに飛びついた。


「……アスハ」

 ぎゅーっと抱きしめられて、若干ユメリは苦しそうだった。

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