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ユメツクリ《Remake》小説版  作者: 椎木一
プロローグ
19/50

強制交際

「ハル」

 ゆさゆさ。


「ハル」

 ゆさゆさ。


「ハル」

 ゆっさゆっさ。


「………………」

 ゴンッ!


「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 頭の激痛で目が覚める。

 なんだ!? なにが起きた!?


「…………」

 ベットの脇にユメリを確認。


「なにが起こったんだ!?」

 おでこに重い痛みを感じながら訊く。


「なぐった」

 とても簡単な答えがかえってきた。

 見れば昨日買ってきたリンゴジュースの瓶を抱えてるではないか。


「……殴った? え……なんで?」

 ここは俺が怒ってもいい場面なんだろうけど、どうも寝起きで頭が働かない。

 状況が理解できずに怒る前に疑問が先にでる。


「ハルがおきないから」

 ズキズキするおでこを押さえる。

 幸いたんこぶはできてないようだ。


「その瓶で殴ったわけじゃないよな?」

 丈夫な瓶は栓が開いてなく中身も満タン。

 そんなので殴られたら下手すりゃ骨が砕ける。


「これでなぐった」

 だからおでこがこんなに痛いんだね。


「そんなもんで殴んなよ!!!」

「あけて」

 瓶の栓を抜いてくれとせがんできた。


「人の話聞いてねぇし!!」

 殴られたお返しとばかりにユメリのほっぺを抓る。


「いてててて」

 嫌そうにユメリも身じろぐが、不満の声を上げたのは俺自身だった。


 ユメリのほっぺを抓ったと同時に、俺の頬にも痛みが生まれる。

 これは先日クラリスがやってみせた時と同じ現象。

 俺とユメリは痛みを共有するというものだ。

 これだとあまり意味がない。

 俺が手を離すと、ずいっとジュース瓶を押し付けてきた。


「でも待てよ。これで俺を殴ったとき、ユメリは痛くなかったのか?」

 痛みを共有するなら、俺のおでこの痛みをこいつも感じてないとおかしい。


「いたかった」

 うおぉぉ……、なんて自己犠牲の嫌がらせだ!

 おかげですっかり眠気もとん……で……

 なんとなく見た時計の針は九時二十分を指している。

 ヴィオラたちが襲ってこないとわかった以上、ビクビクと部屋で過ごすつもりはないし、ここ数日の異常な世界から一時でも抜け出したいと、今日は学校に行くと決めてたのだが――


「遅刻じゃねーかぁ!」

 あれ!? なんで!? 目覚ましはセットしておいたはずなのに何故鳴らなかった!?

 自慢じゃないが、俺は寝起きがいいほうである。

 変な時間に起こされなければ、二度寝することはほとんどない。


「おい! 目覚まし鳴らなかったか!?」

 先に起きてたユメリは無表情のまま、

「とめた」

 さも当然の様に言ってくれた。


「なんで起こしてくれねーんだよ!?」

「どうでもいい」

「どうでもいいわけあるか!」

 軽くこいつの頭を小突いて、慌てて登校の準備を始めた。


 ■ ■ ■ ■ ■


 四時間目の授業は国語だった。

 以前まで眠気に耐えているだけの時間も、今日は心落ち着く時間となっていた。


 普通の日常って素晴らしい。

 別に何かを悟ったわけじゃないが、そんな境地に立っているような気分にさせるのは、昨日までの非日常が原因なのは言うまでもない。

 教室には真面目に授業を受けてる者、机に突っ伏している者、ちゃんとしているように見えて実は内職に勤しんでいる者、だいたいこの三択を選んだ生徒が同じ時間を過ごしている。

 そんな飽きるほど見慣れた光景も、今日だけは俺に安心感を与えてくれた。


 授業が終わり、先生が出て行くと教室は一気に騒がしくなった。


「水衛君、なにか良いことでもあったの?」

 不意に南雲からの質問。


「え? いやとくに無いけど、なんで?」

「今日すっごく楽しそうじゃん。遅刻してきたけど、なにかいいことあったんでしょ?」

 そんなに俺の顔は楽しそうに見えるんだろうか?


 楽しいというか、嬉しくないと言えば嘘になる。

 自分だって不思議な感じだけど、普通なことが今はすごく幸せに感じる。


「うーん、まあ、そうだな。楽しいって言えば楽しいかも」

「えー? なになになにがあったの? 教えてー」

 惚れた男の弱みだろうか。

 好きな子にこんな風に迫られてちょっと嬉し恥ずかしいぞ。

 なんとなくは説明できるけど、さすがに本当のことを言うわけにはいかないだろう。

 話したところでユメリの能力とやらで()()()()()()()()()だろうし。


「そりゃ秘密だ。話しても南雲にはわからないことだしな」

「なにそれ! そんなこと言うなら、購買行って苺ミルク買ってきてもらうんだからね!」

 惚れた男の弱み発動。

 こんな理不尽な文句言ってる仕草でもすっごく可愛く見えてしょうがないです!


「なんだよ苺ミルクって?」

「だって水衛君、今日は学食でご飯でしょ? だからその帰りでもいいから買ってきて」

 はい、と買ってくるのが決定事項のようで小銭を渡された。


「……いいけどね。でもよく俺が学食行くってわかったな?」

「ふふふ、あたしにわからないことなんて――」

「まあ、遅刻してきたときは大体学食行ってるからそりゃわかるか」

「……しゅん」


「じゃあ敦でも連れて行ってくるかね」

 なんとなく呟いたら、何故か睨まれた。


「なに言ってるの? 二人の邪魔しちゃダメだよ」

「……二人って?」

「知ってるくせに。妬けるからって邪魔は許しません」

 言いながら、敦に向かう道を塞ぐ南雲。


「……ごめん、話が全然みえないんだけど?」

「そんなこと言って、保坂君連れてくつもりでしょ? モテる保坂君は辛いなー」

「わっ! ちょっと!」

 背中にまわったかと思うと、南雲は俺を廊下まで押し出した。


「苺ミルクよろしくね」

 ピシャンとドアが閉められる。

 なんだよ? どういうこと?


「あ、水衛先輩だ。こんにちは~」

 すると今度は後ろから声を掛けられた。

 振り返れば、見知らぬ女の子が立っている。


 淡い紫のシュートヘアがよく似合う細身の女子。

 翡翠色の瞳で、かなり可愛いと言ってもいい顔立ち。

 日本人離れした容姿だが、この学校の制服を着ている。

 

 この子、俺のこと『先輩』って言わなかったか?

 相手が下級生なら、俺を先輩と呼んでも不思議じゃないんだが、こんなに親しく挨拶をしてるく下級生の知り合いはいない。


「どうしたんですかボーっとしちゃって」

「えっ? ああうん……えーと……」

 言いよどんでいると、彼女は笑って手に持っていた包みを上げて見せた。


「今日も敦先輩にお弁当作ってきちゃいました、えへへ」

 すごく幸せそうな笑顔を見せる。


「先輩はこれから食堂ですか?」

「……え? ああ、うん、そう」

 まるで知り合いのような接し方。


「そうですか、行ってらっしゃい。それじゃあ、あたしも敦先輩のところへ」

 彼女はひょいっと俺の脇を抜けて教室に入っていった。


「……ええと、誰だろう?」

 向こうは俺のことを知ってるようだったし、敦とも関係があるような感じだったし……飯食ったら敦に聞けばいいか。

 とりわけ深く考えず、俺は食堂へと向かった。



 平和って素晴らしい。

 入学して初めて学校生活を満喫していた。

 学生食堂の喧騒も、そこの料理の微妙な味もいつも通り。

 いつも通りな事にこれほど癒されるとは思いもしなかった。


 食堂を出て、南雲に頼まれた苺ミルクを片手に階段をあがる。

 ふと、ユメリはちゃんとリンゴジュースを飲んでるだろうかと考え、すぐにそれをかき消すように頭を振る。

 俺が心配しなくても勝手にやってるだろうし、今はあいつらのことを考えたくない。

 帰ったら嫌でも顔を合わせなきゃならないんだ。

 外に出てるときぐらいは考えないようにしよう。


「あ、水衛先輩、おかえりなさい」

 と、階段を上りきったところでさっきの女の子とばったり会った。

 しかも――


「おー、悪いね、見せつけちゃって」

 敦も一緒にいて、彼氏彼女よろしく仲良く腕組みなんてしてるじゃないか。


「……お、おう」

 一応返事はしておく。

 けど、この状況、どういうこと?


「どうしたよ? そんな顔して?」

「どうしたよって、それはこっちのセリフだ。……その子、誰だよ?」

 腕を組んでるってことは友達以上なんだろう。

 けど、敦とは長い付き合いだが、こんなことをする女友達はいなかったはずだ。


 敦は俺と違ってモテるから彼女がいたって不思議でもなんでもない。

 とは言え、彼女ができたなら俺に教えてくれるはずだし、この前までは彼女ができる素振りすらなかった。


「水衛先輩ひどいですよ! あたしのこと忘れちゃったんですか?」

 しかも彼女は俺のことを知ってて、向こうは自分のことを見知ってると思ってる。


「……えっと、いやちょっと、ごめん」

 思考をフル回転。

 必死に彼女のことを思い出そうとするも、やっぱり俺の記憶に彼女の姿はない。

 もしかしたらどこかで一度会ってるかもしれないし、そうだとしたらそれを忘れてるなんて申し訳ない。

 申し訳ないのだけど――


「……ごめん、やっぱり思い出せない」

 ここは諦めて無礼を詫びよう。

 改めて紹介してもらえば思い出すかもしれないし。


「んんん? おっかしいな」

 そして彼女は疑うように俺を見る。


「あたしのことは『誰も気にしない』はずなのに」

 と、穏やかだった俺の気持ちを一瞬で凍りつかせることを言った。


「誰も気にしない……だと?」

 ゾワリと全身の毛が逆立つ。

 普通なら何を言ってるのか戸惑うそのフレーズは、俺には彼女が何者であるか正体を教えるものだった。


「水衛先輩、ちょっと失礼しますね」

 俺の動揺を意ともせず、彼女は――


 その瞳を血色(あか)く染めあげた。


「ぐああぁぁ!」


 ジリジリジリジリジリ


 俺の頭の中を、理性を食い破ろうと何かが入ってくる。

 彼女の瞳も、この気が狂いそうな感覚も知ってる。

 こいつはユメリと同じモノだ。人間じゃない。

 けどなんで学校にいる?

 なんで俺の友達とこいつが仲良くしてんだよ!?


「あ、あれ!? なんで効かないの!?」

 驚いてる。

 なんでかは知らないし、察してる余裕もない。


「……やめろ。いますぐ、これをやめろ!」

「えっ!? どうして!? この!!」


「あああああああああああああ!!」

 理性を破る嫌悪と快楽が一層強まった。


 ……なん、だよこいつ!?

 ユメリの時よりキツイ!


「どうして!? なんなのよ先輩!?」

 なぜかむこうも動揺してる。


 何か訊きたきゃコレを止めろってんだ!

 と言ってやりたいけど、声を出す余裕すらない。

 一瞬気が遠くなって体が倒れかけた拍子に、じっと立っていた敦とぶつかった。


 敦の表情はまるで人形。

 瞳には感情がなく、俺たちのことを気にする様子もない。

 ユメリは自分のことを認知させるために記憶の改竄をし、それ以外は他人に害を与えないと言った。

 実際そうなってるし、俺もそれを信じた。

 けどこれはなんだ?

 敦を感情のない人形みたいにして、こいつは敦に何をした!?


 ――っこの!


「頭のジリジリうるせぇやつを止めろ!!!」

「キャッ!」

 一瞬目の前が発光し、俺への不快な侵略はなくなった。

 かわりにズキズキと重い頭痛だけが残る。


「どうなってるの!? 水衛先輩って何者!?」

「そりゃこっちのセリフだ! おまえみたいな奴が学校でなにしてる!? 敦になにをした!?」

 一気に彼女に詰め寄ろうとしたとき――


「お前ら、どうしたんだよ急に!?」

 敦が俺と彼女の間に割って入ってきた。


「敦! おまえ無事なのか!? なんともないのか!?」

「は? いや……なんともって言うか、むしろお前たちのほうがどうしたんだよって訊きてーよ」

 さっきまでの俺たちの会話は聞えてなかったようだ。

 とりあえず敦が正気を取り戻して一安心。


「ひっ!」

 俺が睨むと彼女は敦の背中に隠れてしまった。


「だからお前どうしたんだよ? 急に険悪な雰囲気だしちゃってさ。アスハもどうしたってんだ?」

 あいつの名前はアスハというらしい。


 困り果ててる敦は事情を知らない。

 ……どうする?

 ここで揉めれば敦が人質にとられるかもしれない。

 アスハがどんな奴かも知らないし、一旦引くのが得策か。


「別になんでもねーよ! 悪かったな邪魔して」

 言い捨てて背中を向ける。

 南雲が言ってた『二人の邪魔をしてはいけない』というのはアスハのことをだったのか。

 つまりあいつは、俺以外の皆の中では『以前からの知り合い』になってるわけだ。

 くっそ! 冗談じゃねえぞ!!


「あっ、あの! 水衛先輩!」

 さっさと立ち去ろうと思ったのに呼び止められた。


「なんだよ?」

 思いっきり睨んでやると、アスハは一瞬身を縮ませ、


「……えっと、その……放課後、屋上で待ってます」

「…………わかった」

 隣に敦もいるが、きっとこの会話はあいつには聞えてないんだろう。

 タイミングよく昼休み終了のチャイムが鳴り、今度こそ俺はその場を後にした。

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