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ユメツクリ《Remake》小説版  作者: 椎木一
プロローグ
15/50

衝動

「……」

 ユメリがものすごく不機嫌にリンゴジュースを飲んでる。

 俺の帰りを目を輝かせて出迎えてくれたので、色々と訊きたいことを我慢して、先にジュースを与えたらこれだ。

 一口飲んだ瞬間から、最初の態度とは雲泥の差である。


「お礼は?」

「……」


「お前のために買ってきてやったんだから、礼くらい言ったらどうだ?」

「……」

 無言のままストローでちゅーっと飲み続けている。


「何が気に入らないんだよ?」

「うすい」

 文句だけはちゃんと言うようだ。


 今朝まで飲ませてたやつは果汁百パーセントの上質のもの。

 さっき買ってきたやつは果汁二十パーセントで、コンビニとかでも簡単に手に入るもの。

 そりゃ五分の一に薄まってんだから味だって薄いさ。


「嫌なら無理に飲まなくたっていいんだからな!」

 リンゴジュースを取り上げようとすると、なんとも俊敏な動きで俺から逃げた。


「いらなくない」

「……残りは冷蔵庫に入れておくからな。全部飲むまで新しいやつは買ってやらないからちゃんと飲めよ」

 すっごい嫌そうな顔をしてらっしゃる。

 違うのを買ってきてと言われる前に釘をさしといてよかった。

 リンゴジュースしか飲まないなら、良いやつを買ってきてやりたかったさ。

 だから今朝はわざわざデパートまで瓶入りのお高いやつを買いに出たってのに。


「お前が勝手に出てこなきゃ、今頃はもっといいものを飲ませてやれてたんだからな」

「………」

 自分は悪くないって顔してるよ。


「まあいい。それよりヴィオラって奴に会ったぞ。想像してたよりだいぶ印象が違ったな」

 クラリスが殺るか殺られるかの関係なんて言うから、見つかったとたん襲われるもんだとばっかり思ってた。

 威嚇されるようなところもあったけど、それなりに話のできるやつだった。


「あいつ、お前のこと好きみたいなこと言ってたけど、それってやっぱり嘘だよな? 好きだったら殺すとかそんな物騒な話にはならないし」

「うそじゃない」

 キッパリと否定された。

 それはつまり、ヴィオラの好意をこいつは知ってるんだ。

 早くも一本飲み終え、冷蔵庫に入れたばかりの二本目を取り出してちゅーっと飲み始めた。


「ってことはだ、クラリスはまた俺を騙したのか?」

 こいつらの言うことを信じるなら、クラリスの話は辻褄が合わない。

 殺るか殺られるかの関係なんて、よほどの恨みがなければあり得ないんじゃないか?


「おねえちゃん、ウソついてない」

 しかしそれもユメリは否定した。

 すっかり定位置になったクッションに座って、ジュースを飲みながらじーっと俺を見ている。


「じゃあ、本当は嫌いでもないのに顔を合わせただけで殺意が生まれるほど憎くなるってのかよ?」

「にくくはならない」

「……殺したくは?」

 ユメリの回答はすでにそれを肯定してるものだった。

 けど確かめずにはいられなかった。


「なる」

 期待を裏切らない予想通りの答え。

 クラリスとヴィオラは言っていた。

 お前はユメリの言うことだけは信じるんだなって。

 確かにそうだ。

 自分のことなのに俺だって不思議だよ。ユメリの言うことに疑いを持てないんだ。

 いま聞いたことだって、嘘を吐いてるとは思ってない。

 けど――


「……なんだよそれ……お前ら普通じゃねえよ」

 信じることは出来ても、受け入れがたいことだってある。


「…………」

 ユメリは応じなかった。

 でもこんなことをこいつに言ったところで、どうしようもないことなんだろう。

 受け入れることは難しいけど、こいつらだって好きでそんなふうになってるわけじゃないんだろうし。

 たぶん。


 楼園の顔が浮かぶ。

 訊かなければならないのはあいつのことだ。

 あいつにはユメリを狙う動機が充分にあるんだから。


「お前って、過去に戻ったりできるのか?」

「……?」

 わかりやすく言ったつもりなんだけど、簡略しすぎて逆にわからなかったみたいだ。


「能力を使って自分が生まれる前の時間に行けるのかってことだよ」

「できるわけない」

 馬鹿じゃないの? みたいな返事をされてしまった。


「俺が言ったんじゃねーよ。お前にならそういうことができるかもしれないってヴィオラが言ってたんだよ」

「できない」

「嘘だったらもうリンゴジュースやらないぞ」

「できないっていってる」

 ムスっとしてしまった。

 うーん、やっぱりこいつ、リンゴジュースのことにだけは過剰に反応するんだな。

 ちょっとイジワルしたかっただけで、最初の返事で納得はしていた。


「もう一つ質問」

 答えはノーであってほしい。


「お前は……人を殺したことはあるか?」

 もしあるのなら今の関係は続けられない。

 俺の命も関わってるから最低限は守ってやるけど、二度と口を利くことはないと思う。


「ない」

 相変わらずの無表情での即答。

 だけど、心底ホッとした。


 楼園の話が嘘だとは思わない。

 けどどこか間違ってるんじゃないかと思う。

 あいつはユメリが両親の仇だと思い込んでるけど、本当にそれはユメリだったんだろうか?

 きっと何かが噛み合ってない。

 だから俺たちはまず話し合うべきだ。

 まあ話し合おうにも、楼園は俺が操られてると思ってこっちの話を聞いてくれないし、一人で勝手に怒って帰るくらいだから実現は難しそうだ。


 いつのまにか三本目のジュースに手を伸ばそうとしてるユメリを見つけ、さすがに止めた。

 多めに六本買ってきたものの、これじゃあすぐに無くなってしまうじゃないか。

 当然不満顔をされたが、そんなのは無視に決まってる。

 いくら言ってもユメリは諦めようとしないので、俺はしばらく冷蔵庫の前から動くことが出来なかった。

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