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ユメツクリ《Remake》小説版  作者: 椎木一
プロローグ
14/50

楼園千種 6

「あんまりイライラすると、元々キツイ顔がもっとキツくなるで?」

「うるさい! なんですぐに戻って来なかったのよ!?」

 部屋に入るなり千種はヴィオラに詰め寄った。


「ちょうど昼やったし、ビールでも飲んどこうかなーって思うてん」

「わたしが待ってるの知っててそういうことしてるわけ?」

「そうや」

「…………」


「いやちゃうねん。たまたま帰り道に売っとったんや。そんで種類が多いもんやから何飲もうか迷うてもうてな」

「それもわたしが待ってるの知ってて迷ってたのよね?」

「そうや」


 ――シュパ!

 千種の平手が空を斬る。


「なっ! なにいきなりひっぱたこうとしてんねん!?」

 ヴィオラは背中をのけ反らせて紙一重で平手を避けた。


「わたし気が短いのよ。知ってるでしょ?」

「口より先に手ぇ出すのやめぇや!」


「……それで、水衛のこと何かわかったの?」

「ん? なんや、にいちゃんの名前知っとったか」

「名前だけ聞いた」

「そか。まあ一応言うとくわ。水衛ハル、高校三年生。彼女はおらん。マンションに一人暮らしで、ちゃーんと住んどるとこも調べてきたで」


「おっけ。あと水衛から聞いたんだけどさ、『あいつ』にはクラリスって姉がいるみたい」

「……ほお。それでにいちゃんは何て言うとった?」

 ユメリとのことを隠してるだけに、当然クラリスのこともヴィオラは千種に話していない。


「水衛に最初に憑いたのはクラリスのほうで、そいつが付けた能力を消すために『あいつ』が憑いたみたいなんだけど、いいように騙されてるとしか思えないよね?」

「まあ……せやな。けどなんであないに怒っとったん?」


 実のところ、ヴィオラは千種が何故怒っていたのか気になってしょうがなかった。

 千種とハルが二人で話しているのを見たときは、呼吸を忘れるほど動揺したものだ。

 ハルにはユメリを以前から知っていると教えてしまっている。

 しかし千種にはユメリのことは知らないと通してきた。

 もしハルが自分のことを話題にして、今まで千種に隠していたことをバラしてるようなら一気に千種の信用を失ってしまう。

 千種が怒ってる原因は自分のことではないかと内心冷や汗をかいていた。

 まさか寄り道をしてる間に二人が偶然に会ってるなんて思いもしなかったのだ。

 ハルに口止めをしなかった不手際に後悔が止まない。


「水衛が最初に『願った』のはなんだと思う?『誰かの特別』になりたいって言ったのよ? そんなのふざけてる! あいつは自分がどれだけ想われてるかわかってない!大切にしてくれてる人がいるのに、その人たちの気持ちもしらないで『誰かの特別』だなんてワガママすぎるよ……」

「……そういうことかい」

 納得と同時に安堵する。

 その反応から隠し事は知られていないと確信した。

 二人のところに行くのがもっと遅かったらきっと知られていたかもしれないが、結果として事なきを得たようなのでこれから気をつければいい。


(しかしあのにぃちゃん。ピンポイントで千種の気にしとる願い言うたなー)

 ハルの願いは多くの人間が持つごく平凡なものだ。

 誰だって誰かに想われ、評価され、大切にされたいと思っている。

 むしろそのことに目くじらを立てるほうが可笑しい。

 だが千種はハルの願いを受け入れない。

 一見ひねくれているように思える考え方には、そうなってしまった理由があった。


 幼い頃に両親を失った千種は、他の子供が親から向けられる視線が羨ましかった。

 それは単純に愛情。

 我が子を大切に見守る視線。

 どこの子供も、自分が親から誰よりも大切に特別視されていることに気づいていない。

 それはそれで構わない。

 けど、ハルの様なすでに特別にしてくれている(ひと)がいるのに、それに気づかず誰かに特別に思われたいと考える者は許せなかった。

 その思考は千種の生い立ちのせいなのだが、そのことを知っているからヴィオラは何も言わない。

 肯定もしなければ否定もしなかった。


「それでどうするん? 居場所もわかったことやし、今夜中に動くんやろ?」

 重要なのはこれからどうするかということだ。

 千種の怒る気持ちはわかるが、ハルがクラリスに願ったことは自分たちには関係ないと判断し話を進めた。


「うん、そのつもり。いつまでも『あいつ』に水衛を操らさせてるのも癪だしね」

「は? なに言うとんの? にぃちゃん操られてへんで」

「……あんたこそなに言ってんの?『あいつ』に憑かれてて操られてないわけないじゃない」

「いやそうなんやけど、実際にぃちゃん正気やったし、直接会って確かめたんやから間違いないで?」

「…………」


「いやホンマやって。にぃちゃんもそないなこと言うとらんかったか?」

 千種の脳裏に、自分は操られてなんかないと抗議してたハルの顔が浮かぶ。


(……そんなこと言ってたけど、まさか本当だったなんて)

 だとしたら水衛は本気で『あいつ』のことを庇ってることになる。

 とてもじゃないけど信じられない。

 あんな得体の知れない奴を守ろうとするなんて一体何を考えてるのか。


「そんでどうするんや?」

「……え? ああ、もちろん今夜動くよ」

「……なんや迷うとるようやけど、いいんか?」

「別に迷ってなんかないって。やっと『あいつ』を見つけたんだ。このチャンスを逃がすわけには行かないよ」

「……せやな」

 十年間探してきた敵が見つかったのだ、千種がそう簡単に諦めるわけがない。


 ヴィオラとしてはできることなら波風は立てたくなかった。

 いくらユメリの能力の影響を受けているとはいえ、自分の好きな者同士が傷つけあう姿は見たくない。

 かと言って最善の解決策があるわけでもなく、最悪の場合、ハルの願いを叶えるためにユメリの能力は千種を踏み台にして傷つけてしまうかもしれないのだ。

 それだけは絶対に阻止しなければならない。

 ヴィオラにとって千種の心身を守ることが最優先事項だからだ。

 これによりユメリやハルが死傷しようが、ある意味それは自業自得である。

 千種を守るためなら二人を手に掛ける覚悟はこっちにはある。


 不可解なのはクラリスの行動だ。

 なぜ今頃になって動き始めたのか?

 クラリスが動き始めたのはユメリがハルに憑く以前であることから、ユメリの能力の影響下にあるとは考えにくい。

 むしろこの現況を作り出そうとしたとも考えられる。


(けどなんでや? こんなことしても誰も喜ばんし、読みが正しければあいつは――)

 嫌な予感ばかりが頭を巡る。


「ヴィオラ?」

「……お? おぉ、すまんすまん、ボーっとしとったわ」

「もう、しっかりしてよ。夜まで時間があるから寝ておく?」

「あー、そうやな。ちょお寝とこうか」

 本当は寝る必要なんてないのだが、少し考える時間が欲しい。

 千種はまだしばらく起きているようだったが、ヴィオラは早々に横になり目蓋を閉じた。

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