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ユメツクリ《Remake》小説版  作者: 椎木一
プロローグ
11/50

楼園千種 3

「本当にあの女のことは知らないんだな?」

「しらない。なんどももきくな」

 マンションに戻り、ユメリに何度も質問をしていると珍しく文句を言われた。


 しかし穏やかな話ではない。

 十年前、ユメリに両親が殺されたと近寄ってきた女。

 最初見たとき何故あんな危機感を感じたんだろう?

 睨んではいたが、それはユメリに対してだ。

 ユメリと俺は痛みを共有するが、それ以外にも共有する何かがあるのだろうか?


 話を整理しよう。

 バスに乗ってすぐユメリに問い詰めた。

 さっきの女は誰なんだ、と。

 回答は知らないとのこと。

 ユメリの容姿は特徴的で、他人と間違えたとは考えにくいし、あいつは決定的なことを言っていた。


『あんたさ、そいつにとり憑かれてるんでしょ?』

 あいつはユメリが人間じゃないことを知ってた。

 物証ではないものの、何よりもその認識がユメリと関わったことがあるという決定打じゃないかと思う。

 例えば誰かに『この子人間じゃないんです』と言われても、普通だったら信じないし言ってる奴の頭を疑う。

 それを信じられるのは、実際に在りえない体験をした者だけだ。

 そしてあいつはそれを体験し、両親を失ったと言っている。


 あの時の瞳。

 どう見ても真剣だった。常軌を逸した者のソレではなかった。

 どんな事情があったのかは知らないが、あいつの中でユメリが殺人を犯したことは嘘偽りの無い事実になってる。

 嘘は言ってないと思う。そんな嘘を吐いても何のメリットもないわけだし。

 だが辻褄が合わない。

 十年前なんてまだユメリは産まれてない……はずなんだ。

 確証はない。

 それにユメリに確認をしたとき、とんでもないことを聞かされた。


「じゃあお前らの年齢も、俺たちと一緒で一年で一つ歳を取るってことでいいんだな?」

「うん」

 ならこいつは本当に見た目も中身も子供ってわけだ。


「おねえちゃんはかえられる」

「……なに?」

 ユメリが呟いた。


「おねえちゃんはかえられる」

「……何を変えられるんだよ?」

「すがた」

 クラリスは姿を変えられる?


「それはつまり……見た目と年齢は比例しないってことか?」

「ひれい?」

「見た目は子供なのに、歳は三十歳なのかってことだ」

「うん」

 おいおいおい、話がややこしくなってきたぞ。


「お前は姿を変えたりできないのか?」

「できない」

「じゃあ、クラリスはお前そっくりに変身できたりするか?」

「わかんない」

 ……わからねーのかよ。


「でも変身はできるんだろ? そうじゃなきゃそんなこと言わないよな」

「おねえちゃん、ずっといまのまま」

 ……ん? うーんと。


「つまり、お前が生まれてからクラリスの外見が変わってないから、クラリスが変身できるんじゃないかって言うことか?」

「ちがう」

 ああもう……ちゃんとわかりやすく話してくれよ。


「おねえちゃんがいってた。でもおねえちゃんいまのまま」

 考えろ俺。


「自分で変身できるとは言ってるけど、クラリスはずっと今の外見のままだってこと、かな?」

「うん」

 よし!

 てことはだ、クラリスって実際はかなりの年齢だったりするのか?

 そうだよな、自由に姿を変えられるなら何も歳相応の姿でいる必要もないもんな。


 このことから、ユメリが関わってなかったとしても、もし十年前クラリスが姿を変えてあいつの両親を殺していたらという仮定が立ってしまうのだ。

 もちろんその時のクラリスはユメリの姿でなければならないのだが。

 まあこの仮定にも相当な無理があるわけで、結局のところ真相はわからない。


 ただ面倒なことになったのだけは事実だ。

 俺も顔を見られたし、ユメリを連れてなくてもあの女は絶対俺に近づいてくるだろう。

 これじゃあ気軽に外を歩けないじゃないか。


「あ、そう言えば、お前自分じゃ身を守れないって聞いてたけど、なんとかできてたじゃないか。何をしたのかわからんけど、あいつ苦しんでたし」

 身体能力は人間の子供と変わらないという話だけど、あんなことが出来るなら別に俺が守ってやらなくてもいいんじゃないのか?


「ニンゲンはだいじょぶ」

「……つまり?」

「ヴィオラはだめ」

「人間相手ならなんとかできるけど、それ以外のお前らみたいな同類には抵抗できないと?」

「うん」

 ……そういえばクラリスもそんなこと言ってた気がする。


「ハル」

「ん?」

「リンゴジュースは?」

 いきなり話を変えやがる。


「持ってきてないって。見てわかんねーのかよ?」

 ユメリを抱えて逃げるのだけで精一杯で、ジュースなんて気にしてる余裕はなかった。

 自転車が倒れた時に割れた瓶もあったみたいだし、今頃店員さんが片付けてるかもしれない。

 なんとも無駄金を使ってしまった。


「お前がちゃんと待ってたらこんなことにはならなかったんだよ。自業自得だ。今日は他のジュース飲んで我慢しろ」

「やだ」

 こいつなんにもわかってねぇ。


 きゅぅ。

 器用にも腹まで鳴らして抗議してやがる。


「おなかすいた」

「ダメだ。今日はもう外に出ないって決めたんだから、他のジュースで我慢しろ」

「やだ」

「ワガママな奴だな! なんで俺がそこまで――」


― おなかすいた ―


 ――――え?

 突如頭の中に浮かぶ声。


― おなかすいた ―


 その声は空腹を訴えている。


「お前、これは……」

 クラリスは言っていた。

 俺とユメリの魂は同化していて、相手の表層程度の考え事なら読み取れると。


「大人しそうな顔してお前もあれだね。かなり強情な奴だよな」

 相手の考えてることが読めるってのは始めての経験だけど、なんとなく理解できた。

 読めると言うより、一方的に相手の思考が流れ込んでくると表現したほうが適切かもしれない。


「これって、わざとやってんだよな?」

 今までユメリの思考が流れ込んで来たことは無い。

 普段は何も考えてないことも大いに有りえるが、これは明らかに俺へのあてつけである。


「わざとやってない」

 口をへの字にして言ってくれる。


「へえ、わざとじゃないってんなら――っと」

 文句を言おうとしてタイミング悪くスマホが鳴った。


 ディスプレイには『学校』と表示されている。

 ……休日になんだろう?

 用件も聞いてないのに、学校からの電話というだけで少し嫌な気分になってしまうのが不思議だ。


「はい、水衛(みずい)ですけど」

《おー、水衛。お前なにやってんだよ》

 相手は担任の長部先生だった。

 歳は二十九で、嶺桜では比較的若い男性教諭だ。


「何やってんだよって……俺、何かしましたっけ?」

 もしかして昨日の欠席がサボリだってバレたか?


《自転車だよ、じ・て・ん・しゃ! お前が置いていった自転車をわざわざ持って来てくれた人がいたんだよこのバカタレ!!》

 う……そんなに大声出さなくても……

 自転車は商店の前に置いてきたままのはずだ。


「いや、ただ乗って帰らなかったってだけで」

《店の前に転がってたと聞いてるがな。しかも瓶の入った袋もあったそうだ》

 やべぇ。

 たしかに普通に置いてきたとは言えない状態だった。


《今すぐに取りに来なさい。今すぐにだぞ》

「……はい」

 次に登校した日の帰りに持って帰ればいいじゃないですか、と言いたかったけど、長部先生の声には反論を許さない圧力があった。

 自転車自体に名前や住所は書いてないものの、通学用のステッカーには学校の名前が書いてあるから、それを見て誰かが持ってきてくれたんだろう。

 学校側はステッカーのナンバーで自転車の持ち主の生徒を探し出せるわけだ。


 はぁ、とため息を吐いて電話を切る。

 時計を見ればもうすぐ昼になりそうだった。

 逃げ帰ってきて一時間半くらいしか経ってないのに、もう自転車が学校に届けられてるってことは、あれからすぐに誰かが届けてくれたんだろう。

 家に籠っていたいところだが、こればっかりはすぐに取りに行かないとまた怒られてしまう。


 チラッとユメリを見ると、

「………………」

 不機嫌な顔で俺を見ていた。


「……お前、リンゴジュースのことにだけは感情を出すのな」

「………………」

 黙して喋らず。

 これって拗ねてるんだろうか?


「しょうがねぇ、わかったよ、買ってきてやるよ。外に出なきゃならない用事もできたし」

 買ってくると言ったとたん表情が戻った。

 いつもの無表情だけど、どことなく嬉しそうだ。

 ……こういう素直なところは可愛いんだけど。


「そのかわり、もう絶対に一人で外に出るなよ! いいか、約束だからな!?」

「やくそく」

「約束を破ったら、ジュース飲ませてやらないからな」

「やくそくまもる」

 うむ。

 リンゴジュースが関わると約束は絶対のようだ。

 それじゃあ行ってくると言い残し、俺は足早で学校へ向かった。

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