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悪花狂乱  作者: 謙作
第五章 過去に沈む真実を探して

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華と招かれざる客人


 フジがわざわざ迎えに来たのだから、やたら細かく昨日の―いつの間にやら意識が戻ったら朝になってたようだ―デカ虫の件で…、或いは鬱陶しい昔の何かに触れるような重要な話でもされるのかと思ったんだが…。なんだか微妙な空気を感じながらも、媛さんへの報告はやたらとあっさり終わった。

 ………しかし


 (……何で俺は媛さんが落ち込んでるとわかったんだろうな。)


 正直俺は人の感情の変化には疎い方だ。

 フジや閣下の様に感情を顔には出さないヤツや、媛さんやデュランタみたいに自分の表情を上手くコントロール出来るヤツは特にわからない。

 戦いの中での駆け引きとしての相手の心を読むのはそれなりに出来るが 、普段のそういうやり取りは基本額面通りに受け取ってしまう。

 まぁ、単に仕事でもないのに裏を読み取ろうと考えるのが面倒なだけかもしれないが。

 だと言うのに、今日はやたらと相手の考えがわかるというか、伝わってくるというか…。


 あの時、≪異形≫の影響を受けてた時みたいにか……。


 あの時は目に写ってもいないのに広範囲で周囲の情報が読み取れたが、今は目に写った瞬間に感じ取れたという僅かな違いはあるが。

 ……どちらにせよ気持ちが悪い事だ。


 フジに起こされ、媛さんに報告したその間の時間に少しばかり落ち着いた心が、また鬱々と沈んでいく。

 (いつもの酒場で安酒でも飲んで帰るか…。)

 そして無駄に惰眠でも貪り、いつもの通り無為な時間を過ごすかと劇場の別館から出て、敷地の外へと移動しようとしたところに、

 「カナンー!!」

 慌ただしい大きな声で俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 「………。」

 なんだか面倒な事が起きそうな気がして、俺は聞こえないフリをしてそのまま声が聞こえる方と逆の方向へ足早に進もうとする。

 「待ってよー!聞こえないの!?『ねぇっ!!』」

 「――ッ!?」

 最後の一言と同時に≪異能≫の気配を感じた俺は反射的に闇の障壁を背後に生み出していた。

 パキンと高い音と共に、俺の張った障壁に何かが遮られた感覚を感じる。

 「…こんな所で≪異能≫(そんなの)使うなんてバカなのか!?」

 いくら劇場の敷地内で基本関係者以外立ち入らないとされている場所だとはいえ、≪異能≫を使うなんて…警戒心が緩すぎるだろう!振り向きざま語尾を荒くして叱責するも、そのバカは堪えた様子はないようで、ヘラヘラ笑いながら「ごめ~ん。」などとデュランタみたいな能天気な謝罪をする。


 亜麻色の髪に、碧色の瞳の俺より少しばかり年下のこの劇団の看板女優のマドンナだ。無論、女優の時の名前である。本名は知らない。

 あの黒犬が劇場のホールに現れ、その結果現在絶賛休館になったあの時の媛さんの役を演じていた人物でもある。容姿の方は化粧をすればかなり似ているが…頭の具合はこの通り大違いだ。


 「……って、それどころじゃない!大変なのよ!とんでもないのが、カナンに会いに来ちゃってるんだからー!!」

 無駄に手をわちゃわちゃと動かしている。その動きに何の意味があるかはわからない。……いや、それよりも、

 「俺に会いに何が来たって言うんだよ。」

 役者にファンが会いに押し掛けるなら珍しくないが、裏方…用心棒の俺に会いに来る存在なぞ思い付かない。

 …………まさか荒野に向かう時に借りた馬の持ち主とかか?


 (そんなわけないか……、まさか……!)


 普段人付き合いなどしない俺に心当たりなどはない。しかし……()()()()()()()ならば?

 昨日遭遇した人物、アヴィリナイトの男、ペロの姿が頭に過る。


 (……いや、俺がラナンキュラスの正体だとわかったとしても普段はここで用心棒をしてる事までは知らない筈だ。……そういえば、そもそもヤツはあの後どうなったんだ?)


 デカ虫との戦いの最中になぜだか倒れたが、俺が意識を無くした後はもずっとそのままだったのか?

 デュランタのヤツが捕まえたとしたら媛さんがラナンキュラスを誘きだした理由などを問い詰めるだろうから、さっきの話振りだとヤツは捕まえられなかったという事になる。

 その後目覚めてその場から逃げたのか、或いは教会の連中が先に目覚めてそちらの手に落ちたか…。

 そうなると俺を訪ねてくる奴の心当たりなどやはりないが…。


 「…いないと伝えてくれ。」

 相手が誰だか気にならない事もないが、藪をつついて面倒が出てこないとも限らない。俺はマドンナにそれだけ言って立ち去ろうとする。

 「駄目よォ!!居るって答えちゃったものぉ!!!」

 その俺の右腕にガシリとしがみつきマドンナが必死になって行く手を阻んできた。

 「離せ!勘違いでしたとか言えばいいだろうが!」

 「嫌よぉ!!あの男にそんなの絶対通じないわよぉ!!」

 整っているその顔がとても人には見せられないモノになっている。この女は看板女優だった筈だが。

 ……というか、

 「……お前の知り合いなのか?」

 なんだか相手をよく知ってるような口振りだが…。

 「そりゃ知ってるわよ!!ってか何で()()()が知られてんのよぉ!?」

 そんな揉める俺たちから少し離れた場所の…、ホールがある建物のドアが開く。反射的に俺はそちらへ顔を向け、マドンナはドアが開いた事に気づけなかったのか、疑問を抱いた顔で俺を見た後、俺の向く方へと顔を向ける。


 「…!……ここは関係者以外は立ち入り禁止なんだがな…。」

 ドアから現れた男に驚きながらも俺はなんとか相手にそう告げる。



 「――すまんな。なんだか揉めているような声がしたものだから何か起きたかと思って。」


 ドアから現れたのは、昨日も会った炎の拳神サージェスだった ――――



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