獅子の退散ととりあえずの幕退き
スッと、抜いていた銀の細剣を軽く振った後、デュランタ扮するデルフィニウムに向けて構え、雷鳴の騎士は口を開くと、
「やぁ!恋、してる?」
そんな奇妙な決め台詞?をにこやかな笑顔と共に吐いた。毎度相対すると向けられるお約束にデュランタは顔には出さずとも心底疲れてしまった。
(あ―――…、メンドクサ――ッ!何で色モノ騎士がここで現れちゃうかね~…)
デュランタは頭を掻き毟りたい衝動に駆られたが、なんとかそれを堪えて色モノ騎士…グラナトを睨み付けた。
豪放の獅子の設定は武人肌で好戦的、冗談の通じない堅物。普段のデュランタとはかけ離れたキャラクターだ。当然ながら、他人のコイバナ大好き恋戦士グラナトとまともな会話が成立した試しはない。
本音を云えるなら「独り身で何が悪いんだ!チクショウ!!」と返したいトコだが、グッと我慢した。
「……雷鳴の騎士…貴様のくだらん戯れ言に拘らってる暇など我にはない。」
豪放の獅子としてそう返せば、肩を竦め「やれやれ」と言いたげな顔でこちらを眺めるグラナトにイラッとするのは仕方ない。
「……グラナト、何故お前がここにいる。」
サージェスはすぐ隣に降り立ったグラナトに再度問いかければ、グラナトはさらりと髪を後ろへ流し、
「さっきも言った筈だよ。…ロマンスを感じたから、――それだけさ。」
当たり前の事だと言わんばかりにそう言った。
「………………………。」
沈黙が広がり、デュランタからは呆れの、サージェスからは憤怒の感情がグラナトへと向けられる。
流石にその微妙な空気を察したのか、グラナトは言葉を続けた。
「まぁ、正直に話せばだ。たまたまアレイシアの家の食堂にお邪魔してね…、彼女が≪魔のモノ≫に襲われた民を救助しに向かったと小耳にはさんだのさ。」
始めこそ淡々とした冷静な説明ではあった。しかし…、
「それも…年若い男と連れだってって話じゃないか!更には、馬に二人で仲良く乗って!!もうこれはロマンスの香りを感じずにはいられないだろう!!?…そんな二人が≪魔のモノ≫という共通の敵に立ち向かい!傷つき!お互いを庇い合い!命の危険を感じながら!お互いの想いに気づく!!…そう、こんな所で恋しい相手を遺してなんていけない…と!!!」
自分がここに来た理由を話していた筈なのに、どんどんと熱を帯び、起きてない筈のストーリーを繰り広げていくグラナト。それに反比例する様にサージェスの視線が氷の如く冷め、熱く自分の妄想を語るグラナトへと向けられる。
デュランタも平時であれば愉快な気持ちで見てられるが、この状況下では面倒でしかないと頭を痛めるだけだった。
(……うん、…まぁでも、正直助かった…なんて考えるのも我ながらどうかとは思うがなぁ)
カナンを殺めずに済んだ。
この事を後悔するのかもしれないが…。しかし、出来なくなった現状に安堵しているのも事実だとデュランタは感じていた。
とりあえず、グダグダな状態な今だから立ち去ろう。デルフィニウムの性格的には目的は果たしたし、グラナトのせいでやる気が失せたと云う事で片付けられるだろう、と結論付ける。
デュランタ自身がすべき≪異形≫の始末は終わった。もう一点のアヴィリナイトである男を捕縛したかったが、それは教会も同じだろう。手負いの炎の拳神だけならばともかく、雷鳴の騎士の二人を相手にするのはキツいと判断する。
「……フン…興が冷めたわ。ゴミの始末が済んだ今、この地に用はない。」
それだけを言い捨て、デュランタは一瞬で岩場の高い位置へと跳び乗り、下を見下ろす。
デュランタを警戒するように見てはいるが、追いかけてこようとは考えてはないらしい。デュランタの能力を考えれば、追い付ける事などまずないだろうから、当然と云えば当然の事だが。
(…色モノ騎士や拳神の態度から見て、カナンの正体はバレてはなさそうだがら、まぁ…悪いようにはならんだろ…。多分…)
少なくともカナンをデュランタの攻撃から護り、庇ったのを見れば、とりあえず危険はないと考えた。
カナンが漆黒の華であると気づいていればそんな事はしないだろうし…、彼がナニであるかを理解していたとすれば、むしろ彼らが率先して討つだろう。
「次に会うときには、貴様のふざけた頭を砕いてやるぞ…雷鳴の騎士よ。」
忌々し気に捨て台詞を吐き捨てマントを翻し、デュランタはその場から立ち去る。
「…やれやれ、随分あっさりと去ったものだね?」
「失敗作らしい≪魔のモノ≫を始末しに来ただけの様だったからな…。」
去ったデュランタを深追いすることなく見送るグラナトとサージェスは倒れている者達へと視線を向けた。
「…人生灰色君の目的は果たしてそれだけだったのかな?」
グラナトは意味あり気に倒れている人物の内の一人、カナンを眺めながら呟いた。
「…何が言いたい?」
「いや…、好戦的だけど弱いもの虐めは好まないあの男が…わざわざ倒れている一般人に止めなんて刺そうとするのかな~、ってね。少し疑問に思っただけさ。」
顎に軽く手を当てながら呟くグラナトをサージェスは静かに見つめる。
「……。」
その視線に気づいたグラナトは、
「…何だい?ジッと見つめて…。……………ッ!ごめん…サージェス、君は私の趣味の範囲外だ。」
「気色の悪い勘違いで人を振るなッ!!!」
ハッと何かに気づいた様に目を見開いた後、心底申し訳ないと言った顔で深々と頭を下げるグラナトにサージェスは腹の底から怒声を放った。しかし、当のグラナトはいつもの通り平然とした顔で軽く首を傾げる程度の反応しか返さない。
一度口を開きかけ、しかし何かを諦めたように深くため息をつき、
「……とにかくは≪魔のモノ≫は滅したし、豪放の獅子は立ち去った以上いつまでもここにいても仕方ない。」
そう結論付けサージェスは未だ意識を失っているアレイシアに声をかける。
「起きろ。オイ!アレイシア!!」
肩に軽く手を添え揺さぶり、心配そうな表情を見せるサージェス。
「…う…うにゅぅ~……かぁさん…ごめん……まだ…寝たい…」
「誰がお前の母親だッ!!さっさと起きろォッ!!!」
些か顔色は悪いが通常通りの呑気なアレイシアに、ホッと安堵するよりも怒りの雷を落としたサージェスだった。




