嘲る 冥くて、昏い、黒い影
≪異形のモノ≫の視る光景
―― 面白い ――
静かにソレは思った。
昏い、冥い、闇の間。
ほんの少しばかり綻び、薄い光が見えたので、ソレはほんの少し力の一端をその穴の向こうへと伸ばしてみた。
二つの人間がその場に在った。
どちらもソレに注目している。
当然の事だ。
補食されるものが補食するものを怖れるのは自然の摂理で、その恐怖心をソレが旨いと感じることもまた理だ。
知らずとも本能に刻み込まれている。
光の能力を纏う人間が単独でソレに向かってきた。
もう一つの人間は向かってくることがない。
――別々の群れか?――
ソレは永い時を経て知っていた。
人間という種は、酷く脆く、猜疑心、嫉妬心、虚栄心、様々な負の感情を育む豊穣の種。
その脆弱さ故に群れるクセに、その脆弱さ故に群れの中で更なる弱者を潰すのだ。
フとソレは気まぐれを起こした。
本来なら手を出すつもりは特になかった筈だった。
そういう命令があったから。
しかし、ソレはどうしても気になってしまったのだ。
ただこちらを窺っているだけのもう一つが。
何故だか奇妙な位に気になった。
こちらへ攻撃を仕掛けてきた一つは脆弱だとソレは即座に判じていた。
ソレの知る人間の大多数よりは力の使い方を知っている様で、自身の伸ばした幾つかの触手を弾き飛ばしたがそれだけだった。
わざと怯んだフリをしたら調子に乗ったのか更に苛烈に攻撃してきた。
―― 実に、実に愚かで滑稽だ ――
ある程度、自分の触手が弾き飛ばされ、その脆弱な贄が少しの優越感に浸ったところで、また力を僅かに流し込んでみた。
「―――ッ!?」
贄が、一瞬恐怖心を見せ、焦燥感に駆られた。
―― ククッ、フフフ ――
ソレは遊んでいた。
必死に抗っている自身の贄の様を見て。
嗤っていたのだ。
懸命に能力を奮うその様は実に滑稽だったが、もう一つの存在の感情が次第に変わっていくのに気づいた。
別の群れの人間だとソレは考えていたが、違ったのだろうかと意識をそちらへと向けた。
それとほぼ同時に、怯えながら抗う贄が懲りずに向かってこようとしたのが少々煩わしく思って、自身の僅かに出していた一部を一瞬引っ込めた。
驚き、動きが停止したのでソレは背後からまた一部を差し出し、叩き潰そうと大きく触手を振るおうとした。
その時、窺っているだけだったもう一つが動いた。
脆弱な光の攻撃とは違う刃が、ソレの触手を斬り飛ばした。
別にダメージは無かったが、光の能力の存在とは明らかに差がある。
更に闇の能力を使う人間にぐるりと、ソレの一部を絡めとられた。
―― これは――――! ――
ソレは驚き止まった。
身動きが取れなかったのではない。
ただ驚いたので止まってしまったのだ。
自身を縛る闇のような能力の糸。
その力の一端に触れて、ソレはその能力の持ち主に強く興味を惹かれた。
―― 面白い ――
静かにソレは思った。
ならば、少しだけ試してみようと。
縛る糸を通じて、ソッと精神に声なき声で囁いてみる。
ソレが思っている存在だったら、きっとよく聴こえるから。
もしそうだとしたら―――
―― もっと愉しく遊戯んでやろう ――




