黒い種が芽吹いた日
明けましておめでとうございます!!
0時00分には間に合いませんでしたが、気にせず投下!!
創成の学舎。
外観は今でも分からないが…、あの日、白い石で出来た壁を真っ赤な灯りが照らし、けたたましい音が辺りに響き渡っていた。
「――暴走したぞ!」
慌てた大人の声が遠くから聞こえた。
バタバタとドアの向こうの廊下を何人もの大人が走り回っているのが分かる。
白い部屋の中、小さな小窓からは外の様子は見えないが、不穏な空気は理解できた。
何が起きているのかは全く分からない。しかし、目に見えずとも自分が閉じ込められているこの部屋から少し離れた場所…、実験室と呼ばれる自分達が観察される場所でナニかが動いているのを感じた。
それに釣られるように左肩が酷く疼いた。
(熱い……、いや、寒い…?…よく分からないけど…ジッとしていられない…)
オレはドアを叩いたが、誰もいないのか反応がない。
「…開け…ろ!…こ…こから……だせ!」
この建物に閉じ込められてどの位の時間が経ったのかは分からない。だけど、ほとんどの時間をこの部屋で一人で過ごしているので、こんな大声を出す事など無かったせいか…、声が掠れて自分の声ではないように感じる。
何度も繰り返し叩いてみるがやはり反応はない。
「…はぁ…はぁ…」
喉を擦りながら小窓から何か分からないかと懸命に背伸びするが、子どもの自分には全く手が届かない。
無理だと分かっているが、ドアの下の隙間から何か見えないかと頭を床に擦り付けながら見ようと懸命に片眼を眇めつつ意識を外へ向けたら何かが視えた。
(――ッ視えた!!?)
目ではなく感覚が捉えた。
実験室に誰かとナニかが重なっている。
(……ハム?)
間違いない親友のハムだと、何故だか分かった…しかし、ハムではないとも感じた。
説明しようがない…、しかしそう感じたのだ。
(…マズい!!)
これもまた説明できない、理屈ではなくただただ感じた。
「ア…けろ!!!だ…せ!はやク…っ!」
掠れて裏返りながらも懸命にドアを叩き訴えるがやはり何も起きない。
(開け、開け!…消えろ!!!)
必死になって痛む握りこぶしを何度も叩き続けながら願っていたら、不意にグニャリと目の前のドアが歪んだ。
「ッ!?」
いきなりドアが消失したため、叩き続けていた拳が空振りし、オレはバランスを崩して前に倒れた。
「ってぇ…。」
何が起きたのか分からないけど、しかし外に出られた。オレはこの建物に閉じ込められて鈍った身体に鞭打って、実験室へと走る。
実験室の扉はオレたちが閉じ込められめている部屋のドアとは比べ物にならないくらい頑丈で大きなものだが、その扉が開いていた。……、違う。奇妙な形に変形していて、歪んでいたり、所々くりぬかれたりしていて扉の用途をなしていなかった。
ザワついていた大人たちの姿はそこになく、…いや、ただ一人だけ大人の男の真っ白い背中が見える。
「…アラバハムは素養があると推測していたが…、思ったよりも馴染まなかったか。」
その大人が感情を見せない声音で呟いた。
(…ハムの事か?)
聞きなれないダチの本当の名前とその言葉が、とても小さな声量だったにも関わらずハッキリと聞こえた。
心臓がドクドクと大きく響くのは走った後だからだけじゃない。意味は分からなかったが酷く不安を掻き立てる言葉だと感じた。
白い背中がこちらへと振り向く。
顔は覚えていない。
いや、赤色の禍々しい灯りが逆光になって見えなかったのかもしれない。
けたたましい音が響いていた筈なのだが、その淡々とした大人の声だけが耳に届いたような気がした。
「…カナン。元の部屋に帰ってた方がいいよ?君には耐えられないから。」
白い服の大人は急に気安い雰囲気でオレに声をかけてきた。だが従う気のないオレはその大人を無視して、実験室へと入ろうとするが、
『我が言葉に応えよ――エレス』
白い服の大人の静かな声に奇妙なナニかが反応した。
視界は何も変わらず、真っ赤な灯りが映っていたが、目では見えない仄かに白い…光に似たナニかが辺りに広がったのが理解できた。
白い服の大人は続けた――
『シェールストの名において乞う。ベリアの源、悉に詳らにせよ』
あの時の白い服の大人の唱えていた呪を俺は唱えた。
あの時、ただ一度しか聞いていなかったが、しっかりと記憶に……いや、魂にまで刻まれている。
この後起こるナニかに対しての不安と、この状況を変えられる筈という期待が俺の頭を占める。
『――了解シマシタ。』
突然、女のような声が耳に…いや、頭に届き俺は目を見開き、辺りを見回しそうになったのをなんとか食い止めデカ虫の方を見つめ続けた。
無感情な女の声は動揺している俺を置き去りにし、そのまま言葉を紡いでいく。
『対象ノ特性、能力値、記憶情報、分析中――、三、五、十…、分析完了マデ十三分間。対象ヲ固着シマス。』
意味の理解できない宣言をしたと同時に覚えのある軋むような圧迫感に襲われ俺はその場で膝をつく事も出来ず倒れ込む。
「っ……、かっ…は……ッ!」
懸命に呼吸しようと口を開いてはいるが、空気を吸えているのかすら分からない。視界の隅にデカ虫が映りはするがその状況すらも把握出来ない。
爪を地面につきたて踠きたい衝動に駆られる…しかし文字通り指一つ動かせずその場に倒れ付している俺。
なんとかあのデカ虫がどうなったのか…確認がしたいが……、徐々に視界が暗くなっていく。それに比例して、妙な不安感と絶望が胸のうちに広がっていく。
(……どう…なるのか………。)
心中で問いかけても答えが出るわけでもない…。
抵抗虚しく俺の意識が闇に沈んだ――




