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悪花狂乱  作者: 謙作
第四章 アヴィリナイト始動

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造花の火華が散り消える

…取り敢えず、上げます。

少しでも楽しんで頂ければ僥倖です。


 最初に動いたのはデカ虫の方だった。


 先程まで動くことすらせず、≪異能≫に似通った力で攻撃するだけだったが、腹から生えた足を広げ地に着け拳神とペロの両方が視界に入るように構えてから、再び奇声をあげた。その奇声と共に≪異形≫の周囲に再び闇の棘が十数本生まれる。

 正面に立つ拳神が僅かに腰を落とし迎撃すべく拳を手解き手刀を構え、ペロは静かに長剣を鞘へと戻し、抜刀の構えを取った。

 拳神の方に注目すると指先に≪異能≫が集中している様に感じるが…。

 離れた位置で拳神とペロの様子を眺めていると、≪異形≫が更に奇声を上げた。その奇声を号令に、≪異形≫の周囲にある棘が二人へ飛んで行く。それと同時に二人は弾けるように二手に別れ元の位置から走り始める。

 だが、先程同様かなりの速度で、しかしアレイシアに向けた時と違い、一点に集中して狙うのではなく、避けられないように広範囲扇形に広がり、双方へと迫っていく。

 後少しでそれぞれにと届く位置で、まずはペロが足を止めた。

 『凪払え!炎よッ!!』

 呪を唱えながら振り返り、横薙ぎに抜刀すれば、炎が鎌鼬を思わせるような速度で前方へ疾り、闇の棘を焼き払った。

 そのすぐ後に炎の拳神がデカ虫へと駆ける。

 『主よ、その大いなる力にて悪しき敵を切り裂きたまえ』

 呪を唱えると同時に手刀から獣が爪を立てるように指を広げながら折り曲げ、空を大きく裂くように腕を振ると、ペロ同様に各4本の線が交差し炎の鎌鼬の如くデカ虫へ襲いかかる。

 今度は当たるとヤバイと感じたのか、デカ虫は器用に後ろへと跳ねると、背後に元から存在したのか、自身の半分ぐらいのサイズの黒い羽根のようなものを広げる。

 羽ばたくように拳神の繰り出した炎の鎌鼬を掻き消すのかと思いきや、その羽根が背中から外れデカ虫の前方で大きく振り回される。

 まるで俺の使う大鎌のように振り回されたソレは、拳神の飛ばした炎の鎌鼬を切り裂き、更に拳神へと振り下ろされるが、拳神は動じることなく未だ力が籠っている右手の指先でそれを流し、左手の指先が羽根の鎌を穿ち、少しずつ…しかし確実にデカ虫の武器を削っていく。


 (この男、こんなに強かったのか…)


 拳神と仕事をした事はなかったが、これ程に凄いとは思わなかった。拳神なんて大層な名前は伊達ではないという事か…。

 そして、その拳神がデカ虫の得物(羽根)を攻撃している間にペロは拳神よりも威力があるであろう炎を纏った斬撃を繰り出すが、デカ虫はそちらの方を脅威とみなしてか闇の障壁で防ぎ続ける。

 「カナンさん、…怪我は大丈夫なの?」

 二人と一頭?の攻防を見守っている俺に少し動けるようになったのかアレイシアが俺に近づいてきて問いかける。

 ちらりと顔を見れば後ろめたそうな申し訳なさそうな泣きそうな顔で俺の肩を見ている。


 「……、少し痛む程度だ。問題ない。」

 そう返してもやはりアレイシアは泣きそうな顔のままだ。

 「…肩にあのペロ野郎の長剣が掠めた程度だ。出血が派手なだけでそこまでじゃない。」

 そう言って俺は肩の傷を見せる。聡そうな拳神には見せられないが、アレイシアなら大丈夫だろう。

 そこはもう血が固まっていて、流血は治まっていた。しばらく沈黙して俺の怪我の状況を見た後、アレイシアは「よかった。」と小さく呟くが、俺の気持ちとしてはあまり良くはない。


 今まで目を逸らし続けたものが今さら突きつけられた気がした。


 今はそれどころじゃない、そうまた逸らし俺はデカ虫と二人の炎使いの戦いへ視線を戻す。援護すべきか…、俺自身の≪異能≫が少し戻ってきたのがわかる。だが、元々≪異形≫相手には通じにくい俺の≪異能≫が中途半端に使えるとして果たして足しになるものか。

 杖を握りしめ俺を庇うように前に立つアレイシアに目をやる。…炎の拳神の指示に従うなら一般人()を連れて逃げるのが正しいだろう。しかし、デカ虫と二人の戦いから目を離さずにいる様子からなんとか援護をしようとしていると察する。

 「…光の神子さんよ、俺はいいからあんたは逃げた方がいい。」

 そう撤退を促すとアレイシアはひどく驚いたような顔でこちらを振り向く。

 「な…に言って…?」

 「あんたの…≪奇蹟≫はあの≪異形≫に効果的なのは確かだ…と思う。」

 カナン()は≪異能持ち≫ではない設定なので断じる事が出来ないのがもどかしいが、不自然にならないよう考えながら慎重に言葉を紡ぐ。

 「あんたの力があのデカ虫に効いても、あんたの動きでヤツに当てんのは難しいだろ。あの炎の拳神とペロを援護しようとも二人を巻き込みかねない。」

 「…それは、そうかもしれない…けど…。」

 でも、と言い返そう口を開くアレイシアの言葉を無視して俺はハッキリと伝えてやる。


 「今のあんたは足手まといだ。」


 衝撃を受けたように目を見開くアレイシアに若干罪悪感を抱くが、それでも受け止めるべきなのだ。

 


 ―――パキンッ!!―――


 そんな問答をアレイシアとしていると何かが割れるような高い音が辺りに響く。

 慌ててそちらへ視線を向けるとデカ虫の羽根の鎌が砕けているのが見えた。

 更に攻撃を続ける拳神の指先を咄嗟に受け止めたのは闇の障壁だが、最初のペロの不意打ちを防いだ時よりも小さくなっている。デカ虫の方も消耗したのだろうか、異様な気配は変わらないが、どこか弱く……いや、薄くなっている気がした。


 「ハッ!喰らいやがれッ!!」

 その拳神の攻撃とほぼ同じタイミングで激しく燃え盛る炎を纏った長剣を、ペロが一気に振り下ろし―――


 「――――ッ!?」

 驚愕したようにペロが目を見開くと同時に炎が消える。

 ペロの全身から漲るように溢れ出ていた≪異能≫の気配が嘘のように消え失せた。最初に見た時と同じ程度に戻ったのではなく、まるっきり普通の人間のように≪異能≫を感じない。

 「…、く…そがッ…、時間ぎれ……かよ…」

 長剣すら持っていられないのか、握っていた手から滑り落ち、ペロ自身は膝をつく。

 「お、おいっ!」

 流石に予想外の事態に炎の拳神も慌てたような声を出しペロに呼び掛けるが、ヤツは完全に動けないらしい。


 『ギュァあィァア゛あぁ―――!』

 そんなペロにデカ虫は容赦なく攻撃を仕掛けた――――

 



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