炎の拳神と造花の共闘
時間がかかりましたが、なんとか上がりました。
またちょいちょい手直しするかもしれないです。
「アレイシア!起きろッ!!敵の前だぞッ!!」
そう大声で炎の拳神がアレイシアに一喝するとアレイシアは意識が戻ったのかのろのろと頭を上げる。
「…サ…サージェス…さ…ん。」
力なく応えるアレイシアに視線は向けず、炎の拳神はデカ虫の方を向いたまま鋭い声で、
「状況を説明しろ!」
そう厳しく命じている。
おそらく一目見てアレイシアの危機を察し、デカ虫に立ちはだかったが、周囲にはアレイシア以外は見知らぬ相手ばかりでどういう状況か理解できないのだろう。無理もないか。
……アヴィリナイト(暫定)と漆黒の華が揃ってる状況で、果たして教会はどう動くか……。名前と面が割れてるだけならなんとでもなるだろうが、捕らえられたら流石に不味い。
いや、まずはデカ虫をなんとかしないとどうにもならないだろうが…。
デカ虫の方は新たな登場人物が現れ警戒してるのか、敵意を振り撒きつつも再度の攻撃を仕掛けてこない。
何故か現状≪異能≫が使えない俺には何も打つ手はないが…。どうすべきか悩みながら肩の傷口を押さえ静観していると、アレイシアは倒れたまま状況報告を始める。
「あ、えと、…偽ラナがいて…、≪魔のモノ≫もいて…、交渉失敗して攻撃されて…倒れてる間に本物が出てきて…あと、ツタモンがまた来たかも…?」
………。
俺には何も状況が伝わってこないが教会流の暗号か何かなのだろうか?
「いやいい。とりあえず敵対してるのだけ言え。時間が勿体ない。」
……やはり違うか。アレイシアだしな。
炎の拳神もさっさと話を進めようと、アレイシアの話の詳細は追及せず、端的な情報のみ要求する。
「…うん、あのマントつけたラナ…漆黒の華と同じ仮面をつけてた…あれ、はずしてたっけ…?そのもどきの男と…ツタモンみたいのがそうだと思う。……、あ、あとは本物は…今回どっちになるのかな…?」
…お前らにとっては前回だろうと今回だろうと敵だろうが。
相変わらずの甘さにため息が出る。
そしてやはり意味がわからない。そもそもなんだツタモン?て。
そんな俺の考えなど他所に、炎の拳神は警戒の視線を俺にも向けてきた。
「………………、とりあえずあの長剣を持った男と虫型の≪魔のモノ≫、それぞれを敵と見なして問題はないな?…あと、本物というのは漆黒の華の事か?あの藍色の髪の青年が奴なのか?」
長い沈黙の後、俺に鋭い眼差しを向けてくる拳神に、どう返すか俺は躊躇う。今は共闘すべき…まぁ、今の≪異能≫が使えない俺はただの足手まといにしかならないが、それでも争っている暇はない。
「ちがうの!カナンさんは助けてくれた人で…、カナンさんは無事なの!?」
どう答えるか悩む俺を庇うようにアレイシアはなんとか上半身を起こし、思い出したかのように急いで言葉を発し…………あ?どういう事だ?バレてないのか?
軽く混乱する俺を少し驚いたように一瞬目を見開き、観察してくる炎の拳神。
「……カナン?それがあの青年の名前か?一般人なのか!?…いや、それよりも漆黒の華も付近にいるのか!?」
炎の拳神は警戒しながら周囲を見回した。
ここだ、とは流石に返す気はない。
ひょっとしたらアレイシアは紛い者との交戦時の≪異能≫で漆黒の華の存在を察したのか。……フン、短期間で随分進歩したもんだ。そんな風に若干投げやりな感心をしつつ、このままバラけてるのもよくないかと考え、俺はアレイシアと炎の拳神の近くへと移動する。
「…カナン、といったな。君のその肩はあの≪魔のモノ≫にやられたのか?」
デカ虫の方に再度向き、拳を構え直しながら俺に問いかけてきた炎の拳神に、少し迷いながら俺は声を出すことなく首を横に振る。
抜けてるアレイシア相手ならまだしも、炎の拳神相手に長い会話をするのは自殺行為だ。懐疑的なのだろうか、俺を観察するような視線が痛いと感じる。
「肩…?……あのペロの男にやられたの?」
「はぁ?」
今度はアレイシアの方がやたら神妙に俺に問いかけてくる。いや、ペロ?…あの紛い者野郎、そんな小動物みたいな名前なのか?
その意外過ぎる名前に炎の拳神も思わず声を上げた。
「ペロって……あー、とりあえずあのアヴィリナイトの男より異常な≪魔のモノ≫の方に警戒しろ!」
炎の神拳の声から緊張感が若干失われたが、あの男の正体は伝わったらしい。
…凄いな。あの説明でわかったのか。
炎の神拳はデカ虫に向き合い拳を構え直したが、先程攻撃を無効化されたからなのかデカ虫も警戒して動かないようだ。…虫の姿のため表情も読み取れないので推測でしかないが。
「アレイシア!彼を守れ!」
そうアレイシアに命じると共に炎の拳神はデカ虫の前へと走る。
――無茶だ!
炎の拳神の≪異能≫はおそらくあのペロの野郎の通常時より若干劣る。≪異能持ち≫同士の戦いなら戦闘技術でなんとか出来るかもしれないが、相手が≪異形≫では純粋な≪異能≫の強さが必要だろう。
普通の≪異形≫相手なら俺みたいに手数を多くしてなんとか倒せるかもしれないが、あのイレギュラーにそんなものは通じると思えない。
やめろ!自殺行為だ!!そう俺が止めようとするより僅かに早く、ペロの野郎が動く。
デカ虫が俺たちに向いている間にヤツの背後に回っていた。
『撃ち抜け!炎よ!』
ペロがそう吠えるように呪を唱えれば、幾つもの炎が矢の如くデカ虫の背中へと放たれる。
『ッキゅぉォオぉ―――』
つんざく様な鳴き声が辺りに響くと、デカ虫の背後に俺の使う闇の障壁に似たような壁が生まれ、その炎を遮る。
その正面から炎の拳神がデカ虫に拳が届くよりも前に拳を放つと、その拳と同じようなサイズの炎が振るわれた拳の勢いのままの速度でデカ虫へと向かう。
かなりの勢いでデカ虫に炎がぶち当たるが、デカ虫はノーリアクションだ。
表情などわからないが、炎の拳神の≪異能≫程度は防ぐ必要もないと判断したのかもしれない。
「…どういうつもりだ?アヴィリナイト。」
警戒の視線をペロへと向ける炎の拳神、ペロの方は一瞬、チラリとだけ拳神を見て
「……こっちの事情だ。」
しかめた顔で一言返す。
「…今だけは共闘しよう。だが、その後は…わかっているな?」
そう炎の拳神も返した事で、短時間の協力体制が成立した。




