光の神子対ツタモン…?
アレイシア視点。
「……ぅ…ぅう…、」
身体を強く打ち付けたからなのか、炎の≪異能≫に直撃とはいかなくとも巻き込まれたからなのか、私はその場で倒れ伏した状態のまま動けずにいた。
意識は辛うじてあったんだけど…、遠くで金属音や爆発したような音を聞いてる位しか出来なくて、今どんな状況なのかは正直よくわからない。でも、こんなとこで転がってる場合ではない事はわかった。
立ち上がらなければいけないのに―――
地面に自分の身体がうつ伏せになっている状態なのは分かっているけれど、その身体をちっとも動かす事が出来ないでいた。
立ち上がれと頭の中で命令しても、身体が言うことを聞いてくれずに、ただ遠くに飛んでいきそうな意識を懸命に繋ぎ止める事しか出来ない。
ボンヤリとした頭でも、うっすらと何かが二つぶつかり合ってる感覚は感じ取れた。
―― そう…だ、まずは…状況…確認しなきゃ… ――
いつもサージェスさんに口酸っぱく言われてる。
最初は強く意識しなくちゃ出来なかったけれど、繰り返し続ける事で前よりスムーズに出来るようになってきた。
感覚を研ぎ澄ませば、少しずつ視えてくる≪異能≫の感覚…。
それと同時にさっきまでの状況も思い出してきた。
ラナンキュラスの偽者に剣で攻撃されて、カナンさんが咄嗟にその攻撃を受け止めてくれて……。
それから攻撃対象がカナンさんに移ったみたいで、偽者と武器で戦ってるところを助けなきゃと思って、私が攻撃しようとして………、多分反撃されたんだと思う。多分炎か何かに物凄い勢いで吹っ飛ばされて……、気が付いたら今の状態だった…。
そこら辺の記憶はあやふやで、一瞬だったようだし、随分と時間が経ったような気もした。
―― ……額に…目がある…と思って… ――
前にラナンキュラスが教えてくれた事を意識した。ふわふわする頭でなんとか集中すると少しずつだが視えてきた。
まるで燃え盛る紫色の炎のような存在が激しく動いている。最初に視た時よりも遥かにずっと強くなった気がする。
カナンさんの方は………、わからない。
考えてみれば能力を持ってない人はどう視えるのか…、そもそも視ることが出きるのか自体がわからない。
ただ、何故か感じた覚えのある蒼い静かな闇が視えた。
―― ラナンキュラス…? ――
何故ここにいるのだろうか…?……あぁ、自分の偽者が出たから…?
激しくぶつかり合う炎と闇を視ながらそんな風にぼんやりと推測して、しかし何か違和感を覚える。
……なんだかラナンキュラスの≪異能≫がいつもと違いすぎる…。凄まじい力の偽ラナと対等に渡り合ってるから…?そう一瞬思ったけど…、それだけじゃないと私は感じた。
―― …なんだろう……、……ラナンキュラスだけど…ラナンキュラスじゃないみたい………… ――
いつもの蒼い闇…だと思ってたけど、なんか奇妙な…ラナンキュラスじゃないナニかが混ざってるような…。
なんだか凄く奇妙な感覚だ。
言葉に表すことが難しいけど……、なんだろう……≪異能≫と似ているけど、≪異能≫じゃないナニか……。
答えが出そうだけど出なくて、もどかしく思っていると、炎が蒼い闇に強くぶつかったように視えた気がして、慌てて集中する。
蒼い闇がいきなり静かになった……というのが正しいかわからないけど、激しく揺らいでるように感じていたのに急激に収まっていく。炎の方は特に変化はなく今もなお激しく燃え盛っているようだ。
―― え…?ラナンキュラスの奴…やられたんじゃないよね…? ――
不安に思っているといきなりおかしな事が起きた。
ラナンキュラスっぽいナニかがもう一つ現れたのだ。
……え、ラナンキュラス…分裂した?…いや、そんな筈ないのはわかってるんだけど…。ラナンキュラスと似たような誰かが急に現れたのだ。
もっと深く視ようと感覚を研ぎ澄ましていると、不意に偽ラナ2号から闇が溢れた。ラナンキュラスと同じ蒼い闇だと思ったけど…色が違う?…いや、変わっていってるみたい…?
…どんどんと色が変わって……赤黒い闇に―――
あの見覚えがある赤黒く禍々しい闇は……また、あの覚醒ツタモンが現れたのか…!?
―― 立たなくちゃ…。
気持ちは跳ね起きたい位なのに、ノロノロと手の平を地面につけるのがやっとだ。動けないよりはマシかもしれないけど…。
私がモタモタしている間にも溢れる様に赤黒い闇が広がり続けて、…ラナンキュラスの近くまで届きそうだ。
恐ろしい…、覚醒ツタモンの時みたいに心の芯まで呑み込みそうな深い深い闇……。それなのに不思議と私の途切れそうだった意識が辺りへ広がる闇ではなく、ラナンキュラスの存在に集中していってる。
何故だがさっきまで激しく動き回ってた筈のラナンキュラスはパタリと動かず静止していて……なんか、蒼い闇が弱ってるみたいに感じた。
口を開こうとしても声はでないけど、私は必死にラナンキュラスを罵ろうとした。
―― ……何…やってんのよ…!バカ!…また…、下僕なのに、何…暴走…させて…んの…よ…ッ!!早く立って…攻撃するなり逃げるなりしなさいよっ…!! ――
人をバカにするくせに、同じこと繰り返してんじゃないわよ、あんたの方がよっぽどバカじゃない!と頭の中で懸命に罵ってやる。
当然私の思いなんて聞こえてないんだろう、ラナンキュラスは何の反応も返さない。
そして…更なる赤黒い闇がどんどんと広がっていき…………、蒼い闇が飲み込まれて……ッ!
―― それはダメッ―――! ――
重かった瞼を強引に押し上げる。
体は動かない、視界はぼやけてる、でも今は意識を蒼い闇へと向ける。
このままではいけない!
根拠なんて無いけど分かる。
このままではラナンキュラスが喰われてしまう。
声には出せない、けど、頭の中で懸命に願い叫んだ。
『ラナンキュラスを守って!!』




