黒い影の即興劇
実に単純明快なアレイシアの発言のおかげか、考えなしで繰り出してきた光の攻撃のおかげかは分からないが、陰鬱のした思考回路は霧散した。
モヤモヤとしたものが若干残ってはいるが、これは無視しても大丈夫だろう。
「………まぁ、いいさ。とりあえずこの状況で助太刀が来ないという事はやはり教会はこの程度じゃ本腰を入れることはないようだな。」
「…ちょッ!?」
話しは終わりだと俺はアレイシアに背を向け、蔦野郎の方に歩み寄る。
アレイシアからすれば、なんかいきなり戦いに割り込んで自分の手下を縛った上に、教会の事で絡んできて、あっさり引き下がった、と訳の分からない状況だろう。
本来なら俺ももう少しきちんと筋の通った流れにしてからお話を進めたかったが………。
「…て、敵に背を向けるなんて随分余裕ね!」
杖を構え直して威嚇してくる。
俺は軽く視線を向けたが、直ぐに蔦野郎の方へ戻した。
「お前以外にこんなことはやらんよ。」
「……………へ?」
他の≪正義の味方≫連中なら背後から攻撃を仕掛けてきてもおかしくはないからな。
そう長い付き合いじゃないが、≪悪の結社≫相手にこんな間の抜けた遣り取りするコイツが、構えてすらいないヤツに仕掛けて来ないだろう事位は知っている。
ポカンとしてるアレイシアを放っといて、俺は蔦野郎に巻き付けた蔓に意識を集中した。
―― やはりだ。――
先ほどの鬱屈した感情を呼び覚まそうとする感覚が、こちらを唆そうとする悪意が、俺の闇の蔓から伝わってくるのだ。
長時間≪異能≫越しとは言え接触したことなどなかったから知り得なかった。
≪異能≫を介して人の思考に介入してくるなんて芸当をしてくるなんて。
ゾクリと背筋に怖気が走った。
―― …コイツッ…!……存在が強くなっている!! ――
更に蔓の拘束を強めようとしたその一瞬先に
「――くッ!」
「なっ!?」
バチンッと音を立て俺の蔓が引きちぎられた――。
まるで鎖で繋がっていた獣が解き放たれたかのような危機感が俺を襲う。
――ォおぉアォオッ!!――
解放された蔦野郎が奇声を轟かせながらブルブルと身体を大きく震わせ、メキメキメキと軋むような音を辺りに響かせる。
それと合わさり周囲の空気が重くのし掛かって来るように感じ、息苦しささえ覚える。
日が辺りを照らしているのに薄暗い闇の中に引きずり込まれたような不安感が広がってきた。
「………な…によ…。…コレ………。」
すぐ後ろにいる筈のアレイシア掠れた声が遠くから聞こえて来るように感じる。
恐怖を抱きながらもなんとか絞り出したか細い声を拾ったものの、それに答える余裕が俺にはなかった。
たった十分程度の時間しか経っていないというのに、こちらの想像など及びもしないほどに成長するなんて。
―― 本当に理不尽極まりない化け物だな ――