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悪花狂乱  作者: 謙作
第四章 アヴィリナイト始動

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舞台を荒らす造花 其の三


 12分―――。

 そんな時間制限を受け、シディは覚悟を決めて長刀を握り直し、自身の中で激しく燃え上がる≪異能≫の強大な力をコントロールしながら、改めてカナンの方に集中する。

 何故か項垂れ棒立ちになっている彼に疑問を覚える。

 隙だらけだ…、そう思いはするのだがシディは攻撃をする気になれなかった。


 不意打ちに抵抗があるから……などと言った甘い考えではない。

 ≪異能持ち≫特有の目に見えない精神的なナニかを感じ視る能力が故か、それとも生物が持てる生存本能が働いた故か―――

 冷や汗が一筋額からつたるのを感じながら、シディは瞬きもせずにカナンを注視する。


 「化け物だと…、お前が言うのかよ……。」

 小さくポツリと零れる小さな声。

 風は凪いでいて、何も音を遮るものがないからこそ聞こえた囁き程度の小さなそれは、まるで嵐の前の静けさを思わせる。


 カナンを中心にまるで渦のように異様なエネルギーが集まっていく。視覚では見えない筈の闇が、目に映ったような錯覚を起こさせる程の深くて昏い闇が、


 「テメェらが俺たちを化け物にしたんだろぉがぁあ――――!!」


 爆発した―――


 「…クッ―――ハァッ!!」

 咄嗟に炎を纏わせた剣を一閃、なんとか振るうと向かってくる闇の波に僅かに切れ間が出来た。その僅かな切れ間の間を通った事で、闇はシディにぶつかることなく過ぎ去っていく。

 シディは闇の波に飲まれた自分の周りを確認し、大きく目を見開いた。荒れ果てた荒野とはいえ、僅かながら大地に根をはり生き延びていた筈の雑草の全てが枯れ果てている。

 焼き払われたわけではなく、吹き飛ばされたわけでもなく、気づけばただ静かに生命が刈り取られた結果だけが存在していた。


 「……。どこまでデタラメな能力持ってんだよ…。」

 認めたくはないと思いつつも、シディの心に少しの恐怖心が芽生える。目の前に立つ(カナン)の力はやはり異常だと理解させられる。

 シディはハッとして周囲に目をやり、ホッとした。魔道具エレスによって拘束させた≪異形≫にまでは今の闇は届いていないようで変化は見られない。もし今の闇に飲まれていたら一体どんな反応が起こるのか想像もつかないが、ろくな事にはならないという確信だけはあった。

 視界の遠くに入ったアレイシアの方へも届いていないようだ。おそらく人間がこの闇に飲まれても同じように息絶えていただろうが、シディには関係がないので捨て置く。


 ―― にしても、コイツ…もしかして正気じゃねぇのか? ――


 どうにも言動がおかしいとシディは感じていた。

 最初に割り込んできた時はいやに冷静な振る舞いだった。無駄な口を叩かず、シディを≪異能持ち≫と察していた筈なのに自分の≪異能≫を使わず剣技だけで応戦した。隠れ生きる≪異能持ち≫らしい行動だった。

 しかし、いきなりエレスを見て態度が変わった。最初は意味がわからなかったが、正体が漆黒の華だとわかって、もしかしたらエレスという魔道具についてその謎の組織が知っているのかもと思った。

 しかし、あまりにも感情的な行動を見せてきた事からそれもどうやら違うようだ。

 交渉を持ちかけたが、聞く耳持つことなく攻撃をしてきた。そういえば、どこかの関係者と勘違いしているようだったと思い出す。

 確か……、


 『………なる程な。ある意味フジの睨んだ通り…アヴィリナイト(テメェら)は『学舎』の関係者かッ!!』


 発言の『学舎』という単語にシディは聞き覚えがあった。


 「……『学舎』?…………、ぁあっ!?もしかしてクンの言ってた『創成の学舎』か!?…って、ちょっと待て!!俺たちは違うって…!!」

 慌てて声をかけるが、聞く耳も持たないとばかりに斬りかかって来る。それを受け止め睨み付ければ、カナンの瞳はこちらを映してはいないと察する。ただ明確な殺意だけがその瞳を彩っていた。

 「チッ!勘違いなんかで死んでたまるか。」

 目の前にいるカナン()を殺す。そう決意して炎を剣のみならず、全身へと巡らせる。クンの指示では生かして連れてくるようにと言われたが、そんな余裕はない。

 「死体で勘弁してもらうしかねぇな!」




 荒野に響き渡る剣のぶつかり合う金属音。

 制限時間が過ぎていく事は頭から追い払い、シディは目の前のカナンを殺す、その事だけに集中していた。雑念や焦りを抱きながら戦い、打ち勝てる余裕がないとわかっていたからだ。

 先程はカナンの闇の力によって作られていた剣に押されていたが、今のシディの炎はなんとかその力に耐えられている。

 ≪異能≫の力の差が埋まればシディに勝算は十分にあった。


 ―― イケる。今なら勝てる ――


 カナンの振るう闇の剣を受け止め、シディはそう実感した。

 左手にあるカナンの闇の剣を長剣で受け止め押し返そうと力を込めれば、カナンも負けじと押し込んでくる。

 暫くの押し合いの後、シディは不意に角度を変えて均衡を崩し、カナンの力を後ろへと流した。

 バランスを崩したカナンは前のめりにたたらを踏んだ。と、思ったが体を支える為に踏み込んだ片足を軸に反転し、普通の短剣を持つ右手がシディの長剣を握る左手の甲目掛けて突きさそうと動く。

 しかし、シディは狙われた左手を寸前に外し、柄の中心で受け止めた。

 「っ!」

 その瞬間、ほんの僅かに止まったカナンが生んだ隙を逃さず、シディは長剣から離した左手で拳を握り、カナンの鳩尾(みぞおち)へと繰り出す。その拳をカナンは体を捻り避けようとしたが、避けきれずに脇腹に当たった。

 「ぅグッ!」

 カナンは低く呻き片膝を着いた。

 そのカナンの左肩に迷うことなくシディは長剣を振り下ろす。咄嗟に闇の剣で守ろうとするカナンの動きよりも僅かに早く、シディの刃がカナンの肩にめり込んだ―――

 

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