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悪花狂乱  作者: 謙作
第四章 アヴィリナイト始動

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黒い影、再び

カナン視点


 自分でも不可思議な感覚だった。


 あの紛い者野郎がアレイシアに長剣(ロングソード)を振りかざしたその瞬間、あの悪夢……、いやかつて昔に俺の目の前で起きた現実がフラッシュバックした。それと同時に俺と、俺ではない別のナニかと同調(シンクロ)したような感覚が広がる。


 普段の俺では分かり得ないものが感じ取れる。広大に広がる荒野で紛い者が油断なくこちらを見ているが、内心は酷く戸惑っている事。アレイシアはピクリとも動かずにいるが、朦朧とした状態で意識は僅かにある事。≪異形≫が紛い者の持つあの道具の力で拘束されている事。視界には入っていないが、何者かがこちらを窺っている事。


 自分の五感…、いやそれ以上の感覚が冴え渡っているようで、その反面自分と世界が薄皮一枚隔てているような異様な錯覚を覚える。

 紛い者ヤロウを倒すべきだと、自分の考えの中に誰かの意思が混じっている気もする。そんな風に自分の中で違和感を感じながら、俺は紛い者への攻撃を繰り返す。

 俺が造り出した闇の剣を紛い者は長剣で受け止めているが、この長剣も長くはもたないだろう。炎の≪異能≫を纏わせて対抗しているが、俺の剣と交わるその度にハラハラと炎の力が零れ散り落ちていく。あと数分もせずに力尽きてしまうだろう。今の俺の相手にはなりようもない。


 ―― 嬲り殺してやろう ――


 そんな残虐な考えが俺の頭に浮かんだ。

 いや……違う、そうじゃない、無力化して知ってることを吐かせるんだ。

 なんとか冷静になり、本来の目的を思い出そうとした。が、


 ―― 違わぬとも、それを望んでいるのだから ――


 まるで心の奥底に囁かれた気がした。

 …望んでる……?何を…。

 …俺が望むことなんて、精々面倒事に巻き込まれずに死ぬまでダラダラ生きる位しかない。


 ――目を逸らすな、お前の本当の望みから… ――


 ……随分と意味ありげな物言いだと、いつものように言い返してやりたかったが、そんな捻くれた言葉もすぐに霞のように散っていく。

 まるで、頭の中で自分と自分以外のナニかとの意志がせめぎ合っているように感じる。…いや、どちらも俺なのかもしれない。

 自分が今正気でいるのか、壊れているのか…そんな客観的な判別ができない。


 「さぁエレス!俺に力を!!」

 

 俺と剣を交えながらも、高らかにそう乞う紛い者。その乞いに応えるかのように、ヤツの長剣に装着された魔道具が仄かに光を放つ。その直ぐ後にヤツの≪異能≫の力が強くなるのを感じた。

 確かに驚異的とも言える程に能力が上がっている。普段の俺なら確実に押し負けるだろうと思える位に。

 だが。

 「その程度かよ。」

 左手にある闇の剣に、更に力を注ぎ込む。どこからこの力が湧いているのかなどと考えもせず、それが当たり前の事だと何故か感じた。

 仮面(マスク)が外れた紛い者の表情に焦りと、ほんの少しの恐怖が見え、それが堪らなく愉快だという感情が生まれてくる。


 ―― 怯えろ、苦しめ、絶望に染まれ ――


 攻撃の手を弛めることなく、更に闇の剣を振るう。懸命に俺の猛攻を防ぎ続けるしかない目の前の(にえ)がいつ挫けるのかと期待して。

 鏡がないから分からないが、きっと俺は笑みを浮かべていたんじゃないかと思う。紛い者ヤロウが唇を噛み締め、こちらをキツく睨み付け、


 「…正しく化け物じゃねぇかよッ!」


 俺にそう罵った。


 バ…ケモ……ノ……?


 一瞬固まった俺の腹を紛い者が蹴り、俺が体勢を崩した隙にバックステップで大きく間合いを取った。

 紛い者があの魔道具に更なる自身の≪異能≫の増幅を命じている。そんなヤツを眺めている俺の頭の中では、ヤツの放った言葉が反芻している。



 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 化け物 

 

 頭の中で延々と反芻する言葉、それを呼び水にしてまた光景が見えた。








 『こんなのッ――化け物じゃないかッ!!』


 白い石壁で出来ただだっ広い部屋。

 簡素な白い服を纏った、まだ幼い子供たちが、怯えて狂い泣き喚く声。

 痛むように熱い左腕。

 周囲を取り囲む黒い影―――。

 透明な分厚い壁の向こう側、俺たちでは決して届かぬ高みから、年老いた男たちが戸惑い慌てるようにこちらを見下ろしそう叫ぶ。

 まるで被害者のように恐怖に染まった顔で―――






 「―――お前が言うのかよ。」


 遠い昔の事の筈だが、今目の前に起きてるように感じる。

 それぐらいに鮮明に広がる光景―― 


 ―― この時、お前は願った筈だ ――


 俺の精神(こころ)に寄り添うように囁く声に、耳を傾ける。

 そうだ、確かに願った。



 救いを望んでも神はいない。

 いたらあの時牧師の爺さんを救ってくれた筈だ。

 助けを求めても正義なんてない。

 あったらあの時仲間を助けてくれた筈だ。


 俺たちは親がないから卑しい存在で、≪異能持ち≫というレッテルを貼られ迫害されても、捕らわれて実験動物にされても仕方ない。

 そんな俺たちにはどうしようもない理由で畜生以下の扱いをされて、それを当然と思えと強いられる。


 こんなろくでもない世界なんて―――



 「全部消えてしまえばいい―――」

 

 実際に口にしたのかも分からないまま、俺の意識は闇に沈んだ―――


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