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悪花狂乱  作者: 謙作
第四章 アヴィリナイト始動

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更なる闇に染まる華

 腰を低く落とした体勢のまま、少し開いた距離を目視で確認する。一気に詰められそうな距離をキープしながら、俺は男の姿を再度確認する。

 生成り色のフード付きマント、黒づくめの衣装と仮面位しか確認していなかったが、フードの合間から見える髪の色は…おそらく黒、瞳と同じようだ。身長は俺よりも拳一つ程高く、体躯は服でよくは確認できないが腕力や体力を見るからには相当鍛えられている筈だ。ここら辺では見ない片刃の長剣を得物としているらしい。

 少なくともあの『創成の学舎』の白服の大人たちのような賢しさは感じられない。奴らの冷めた眼差し、無機質な言葉、理解が出来ない思考。目の前に立つ男はそういう雰囲気はない、とは言え奴らと無関係と考えるのは早計だ。

 ≪異能≫を使わないなんて馬鹿げたお遊びをしているなら好都合だ。

 好機がないわけではない。この紛い者のヤツはリンドウよりも≪異能≫に長けているようだが、だからこそ付け入る隙がある。戦いのカード(手段)に常に≪異能≫があるからこそ、咄嗟に使わないように意識を取られてしまっている。伏せたカードを表にかえす前にケリをつければ無力化出来る。

 

 「……教会の狗ではなくとも、こいつを知ってる時点で逃がすわけにはいかなくなった。が、安心しろよ?能力持ちだろうがなかろうが、そっちが能力を使わない限りは俺も使わないでやるよ。正々堂々と…」

 紛い者は柄の部分に取り付けてある奇妙なアイテムを軽くひと撫でした後長剣を構え、

 「斬ってやるよッ!!」

 その一言を吐くと同時に一気に間合いを詰める。

 そのスピードに乗りながら突きを放ってきた。疾い、が左に避けそれをやり過ごす。しかし紛い者はクルリと手首を返し右の(俺の)方へと横薙ぎに払う。俺はそれも軽く頭を屈めて避ける。紛い者は更に剣の切っ先で小さく円を描くように動かし、俺の首を目掛けて振り下ろしてきた。

 継ぎ目に無駄がない。―――だが、問題ない。

 俺は右手の短剣を地面に突き立て、前転してそれを避けながら、かかとで地面を軽く引っかけ紛い者の顔面に向け砂をかける。

 「くっ!」

 咄嗟に顔を背けて避けようとする紛い者。目に砂が入ったからなのか仮面を乱暴に外し投げ捨てた。

 その間に俺は着地して即座に地面を蹴り、紛い者の右太ももに短剣を突き立てようと大きく踏み込む。

 直ぐ様紛い者は右足を後ろへ退きながら長剣を下へと下ろし、短剣を止めた。

 間髪いれずに左手の短剣をヤツの胸板から肩口へと切り上げようとすると、堪らず紛い者が大きく後ろへ跳び退く。

 その跳び退く紛い者の眉間目掛けて、俺は右手にあった短剣を投げナイフの要領で投擲した。

 「ッな!?」

 短剣を躊躇いなく手放すとは思っていなかったのだろう、紛い者野郎が一瞬怯みながらも長剣の腹で俺が投擲した短剣を叩き落とした後、俺の次の動きを見極めようと長剣を軽く視線の位置から落とす。だが。

 「―――ッ!?」

 その投げられた短剣の軌跡をなぞるように追い、短剣よりも小さな投擲用のナイフが紛い者を目指した。位置は先程と同様、紛い者の眉間へと。

 『炎よッ!!』

 流石に長剣では捌き切れないと判じたのだろう。(しゅ)を唱えナイフを焼き払おうとする―――しかし、それが俺の狙いだ。

 紛い者野郎が≪異能≫を使用する対象はナイフだ。既に俺はナイフを投げたと同時に別方向から紛い者の方へと駆けていた。


 そして、それとは別に、

 『ッ食らえ!正義の鉄拳!!』

 そんなアレイシアの声と共に凄まじい光の力が紛い者野郎に迫る。


 ―― 馬鹿!余計な手出しをするな!! ――


 ≪異能≫を使うアレイシアが動けば相手もハンディを取っ払ってしまう。その上相手はあの奇妙な道具を持っているのだ。ナイフだけを焼き払うならともかく……、

 グンッ――、と紛い者の周辺の大気が揺れた気がする。

 ――不味いっ!

 「退け!アレ…、」

 「ッ…舐めんじゃねぇぞォ!」

 撤退を命じる俺の言葉を掻き消すような怒号と共に、紛い者野郎の周囲が揺らいだかと感じたのと同時に、大きく俺は背後へと吹っ飛んだ。


 「―――ッグァ!」

 受け身を取ることも出来ず、背中から地面に叩きつけられた俺は一瞬呼吸が出来なかった。

 どうやら紛い者は自分の周囲で炎を勢いよく焼き払ったようだ。あまりの火力の強さのせいで爆発のような威力になったらしい。

 「…っ…、うっ…、くっ……」

 強かに打った背中の痛みに苦しみながらも、俺は肘をつきなんとか身を起こそうとしながら、紛い者の方を窺うとヤツはおれと同様に吹っ飛ばされ、倒れているアレイシアの方へと向かっていた。


 ―― に…逃げ……ろ。アレイシア…… ――


 声に出そうにも呼吸をすることすらままならない俺など気にもせず、紛い者野郎は構えず下ろした長刀をゆらゆらと揺らしながら倒れ伏すアレイシアの直ぐ側に立つ。


 「……教会の狗ってのはつくづく無粋で卑劣だな。」

 先程の激情を感じさせぬ静かな声で言いながら紛い者の長剣がゆっくりと持ち上がる……。

 「に……げて……、」

 声にならないか細い空気が、かろうじて俺の耳に届く。



 ―― さぁ ――




 聴こえる筈もない老牧師の大声が耳に響く。

 『逃げなさい!』



       未だ蝕む悪夢が、



 「鬱陶しいんだよっ!!」

 紛い者の声と共に振り下ろされる長剣の姿が見えた。



 ―― 憎しみに ――




 いる筈もない独善的で傲慢な男が剣を高く振り上げてる光景が広がる。

 『魔の者め―――これが正義の鉄槌だ!!』


          かつて見た記憶が、






 「やめろぉおぉぉ―――――ッ!!」





 ―― 俺の無力さを突きつけてくる ――





     ―― 染まるがいい ――



 何処かで聴いた声が静かに、深く、俺の意識に響き渡った。

誤字脱字、他、何かがあったら直します。

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