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悪花狂乱  作者: 謙作
第四章 アヴィリナイト始動

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光の神子対漆黒の造花 其の四


 「貧困で苦しむヤツらをわずかな食料で集め、見てくれが綺麗なヤツは売り飛ばし、力あるヤツは奴隷にし、使えない非力なガキは貧民街へ放り出す。邪悪な≪異能持ち≫は何をしようが構わない、そいつがてめぇらの信じ込んでいた正義ってわけか。全くたいした心がけだ、…反吐が出る。」

 先程の激昂が嘘のように、淡々と昏い目で語り出す偽ラナ。怒りが鎮まったわけではなく、静かにグツグツと煮えたぎっているのが分かる。

 「そういうわけじゃ…、」

 「そういう事だろ?てめぇの言い分だと。……フン、≪異能持ち≫なんてのはただの方便だ。実際に持ってるヤツはほとんどいない、邪悪なナニかから貰ったものでもない。そうと分かっていながら、面白半分やガス抜きで、或いは教会に不都合なヤツらを殺すためにそんなレッテルを作り上げて殺し回ってるだけだろうが。アヴィリナイト(俺たち)みたいなのが生まれたのがいい証拠だ。」

 反射的に否定しようとする私の言葉はあっさりと遮られた。ううん、否定できるほど私は≪異能持ち≫がされた仕打ちや、≪異能≫狩りを知らないから強く反論出来なかったのだ。

 

 偽ラナは嗤いながら再び長剣の背で肩をトントンと叩きながら言う。

 「それでもまだそれは正義のためだと信じてたからなんて馬鹿げた戯れ言抜かすつもりか?なぁ?」

 それは違うとも、その通りだとも、何も言えずに私は口を噤んでしまうしか出来ない。

 ヘレンの時と同じ、どう伝えたらいいのかわからない…――


 「……話が逸れたな?俺たちが何をするつもりなのか、だったな。悪いが俺のボスは慎重な男だからな。確定するまでは口にしないタイプで俺も知らねぇんだ。」

 わざとらしく、残念だと言わんばかりに肩を竦めて首を左右に振る。その仕草は妙に本物に似ていた。


「だが…、俺の仲間の一人のやろうとしてること位は教えてやろうか。……お前らんトコのお偉いさんをぶち殺そうとしてるんだよッ!!」

 その言葉と同時に炎の塊がこちらに向かってくる!

 「――――っ!!?」


 『遮って!!』

 咄嗟に私は光の障壁を張り炎をなんとか遮る。しかし――、

 「甘ぇよ!!」

 すぐ近くで声がした事に驚き、視線をそちらへ走らせた。偽ラナがいつの間にか右側に迫っている。

 私は夢中で前へと飛び込むように前転すると、ビュオンッと上で音がした。何が起きたか気にはなったが確認するほどの余裕はなく、そのままゴロゴロと転がった後になんとか身を起こす。

 「よく避けられたな。流石は教会の狗だ。逃げるのは十八番(おはこ)だな。」

 褒め言葉の様な嘲りの聞こえるほうへ振り向くと、少しだけ離れた場所から偽ラナがこちらにゆっくりと歩いてくる。

 相手は本気ではない。だけど……、

 覚醒ツタモンよりも怖くない…そう思ってたけど……。

 あの時、大丈夫だったのはラナンキュラスが隣にいたから……。


 ―― 違う!頼ってよかったのはあの時だけだから! ――


 立ち上がり杖を構えて、偽ラナを見る。話し合う余裕はない、なんとかこの場を凌がないと…。

 今の私じゃ偽ラナには敵わない。

 歩きながら偽ラナは長剣の先端で左下から上へそして右下へと緩く、まるで虹のような曲線を描くと、それを追うように紫の炎が燃え上がる。

 大丈夫…、冷静になって考えれば…障壁で防ぐんじゃなく、攻撃して相殺して…その隙に…。

 タイミングを見て"正義の鉄槌"を打とうと聖句を口にしようとした、その前に相手が口を開く。

 

 『コード………ァイトニン…バー…ョンブース……ベ……ン』

 距離があるから聞き取る事は出来ない、しかし言葉を言い終えたと思ったと同時に紫色の炎が濃く、深く視えた。

 さっきの炎よりも強いとハッキリとした感覚で伝わってくる。

 「ほら頑張ってくれよ、正義の味方さん?俺たち哀れな≪異能持ち≫を助けてくれるんだろう?ならこの程度の攻撃でくたばってらんないよなぁ?」

 偽ラナは長剣を大きく私のほうへと振ると、それに応えて炎のラインがほどけいくつもの火の塊が私へ向かって飛んできた。

 『遮ってッ!!』

 とにかくこの炎をなんとかしなくちゃ、そう思って私は杖を横に構え障壁を張る。

 しかし、

 「っう…、うぅ…くぅうぁ!」

 炎が障壁にぶつかってくるが、掻き消えることもなく更に熱と圧力がのしかかってくる!なんとか押し返さないと……ッ。

 私は歯を食いしばり押し潰されないようにその場に踏み留まる。気を弛めた瞬間に灼熱の炎が私を焼き尽くしてしまうと分かるから。

 ………でも…、


 「……っ、だ……め…かも……、」

 気力を振り絞っても、それでも足りない…。

 足がガクガクと震え崩れそうだ。

 ≪奇蹟≫を使う為の精神力が失われていくのが実感できる。


 ―― も…もう……、ムリだ…… ――


 遠退きそうな意識を懸命に引き留めていたが、つい諦めに身をまかせようとした時――



 「アレイシアッ!」

 聞き覚えのある声に、意識が引き戻された。気のせいだろうか、気力が少し戻った気がした。

 「耐えるなそのまま後ろに跳んで、いなせ!!」

 その助言に従い、私は障壁を張ったまま後ろへ翔びながら、壁の様に平らに貼っていた障壁を私を包む様に丸くなる姿へ変わるように願う。

 炎の勢いに押され爆風に吹き飛ばされるように後ろへと流されながらも、障壁を丸く変形させた事で正面からぶつかってきていた炎が後ろへと逸れていった。

 「ラナ……ッ、」

 「だから、甘ぇっての!!」

 転がりながら着地した後に振り返ろうとした私の真上から声が聞こえた。



 見上げれば、偽ラナの長剣が私に振り下ろされるところだった――――。


 


よかった、やっと戦った。

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