華が妬く程眩い光
「……操ってた俺が言うのもなんだが、コイツ雑魚だぞ?こんなの相手に苦戦してる様なヤツが前線に立つなんて…、敵ながらどうかと思うがな。」
「―――――ッ!!―――――――ッ!!!」
我ながらキツい事言ってる自覚はあるが、しかし正直挑発して有耶無耶に終わらす位しか思い付かなかった俺もどうかと思う。
声にならない怒りの表情で杖をブンブン振り回してるアレイシア。
世間じゃ美少女で通ってるが、今の憤怒の表情は凄まじいものだ。
―― まぁ、キツい立場さ、お互いに――
主犯の顔して異形と戦う俺もなかなかだが、≪奇蹟の人≫も大概だ。
アレイシアの力量不足はその通りだ。
だが今の教会は圧倒的に人が足りない。
本来なら、先達に能力の使い方や戦い方を教わり、然るべき戦場の身の振り方を学ばなきゃならないのにその余裕が無いのだ。
―― ………………本当に? ――
教会という存在は昔からあり、この世界で最も影響力と権力がある。
王族ですら頭が上がらない程にだ。
だからこそ世界各地に手を差しのべてる故に≪奇蹟の人≫が不足しているとの話だそうだが。
―― …本当にそうなのか?――
―― 教会が限られた≪奇蹟の人≫全てを惜しみ無く民草ごときに貸し出す程清廉潔白か? ――
…だが、実際に俺たちが見た≪正義の使者≫どもはそう面子は変わりないが。
―― いや、おそらく教会内のお偉方の身辺を強化しているか、あるいは他国の権力者にそれなりの利益と引き換えに貸し付けてるんだろうさ ――
―― そうだ、昔からそうだった。 ――
「……なぁ、光の。お前は何で教会なんかに与してるんだ?」
ふと、口から疑問が溢れていた。
「…え?」
いつもの≪漆黒の華≫とは違う真面目な声にアレイシアは戸惑っているのを感じた。
自分でも不味いと思ったが、今さら出た言葉は無かったことに出来ない。
「気がつかないか?お前みたいな戦い方も知らない素人を≪光の神子≫なんて仰々しい二つ名を与えて、正義の味方様に祭り上げて、利用してるだけだと。」
自分でもヒく位冷たい声だ。
あぁ、≪漆黒の華≫の仮面が剥がれかかってると自覚はしている。
「そんなわけ――ッ!!」
「ないとでも?」
嘲笑する俺にアレイシアは怯んだ。
「そういえば貴族連中にも≪奇蹟≫を持つ奴はいる筈だろう?そいつらはどうした?」
今までの≪正義の使者≫達は立ち居振舞いから平民や下級貴族と思われるヤツが大半だった。
それなりに強大な異形が出ると思われてる場所に来る奴は尚のことだ。
「特権階級の素晴らしい事だ。お前もそんな奴らのために媚びへつらい、身体を張って頑張っているのか?」
そんな場合じゃないのに、どろりとした負の感情が溢れてくる。
……そうだ、アレイシアとて自分の保身の為だろう。
人間など皆そんなものだ。
―― ……人間など…皆……?――
なんだか不味い、靄がかかったかのように頭が回らない。
―― なにかに、ナニかに、思考が支配されている……? ――
「――バカにしないで!!」
ハッと思考がクリアになった。
直ぐに声の方に意識を向ける。
アレイシアだ。
「お貴族様なんてどーでもいいのよッ!!教会にいるのだってケーケンな信者だからじゃない!!」
怒鳴りながら光の塊をこっちに投げつけてくる。
無意識に≪異能≫の蔦がそれを弾く。
しかし、アレイシアは構うことなく杖を振るって
「あたしはあたしの大切な友達とか店のみんなとか、そういう人たちを守りたいから≪正義の味方≫やってんのよ!!」
アレイシアが放つ光の弾にぶつかる度、闇色の蔦がぼろぼろと崩れる。
それにつられて沈んでいた精神が浮上してくかのように感じた。
「利用されてる?ハッ、上等よ!!そんな卑劣な人たちだったらこっちだって利用するだけだし!そんなんで皆を守れる力を手に入れられるなら望むとこよ!」
真っ直ぐ。
実に真っ直ぐに飾らない言葉を吐く。
「……フッ、流石≪正義の味方≫様だ。聞いてるこちらが恥ずかしくなるような綺麗なお題目だ。」
――妬ましい程に。