光の神子対漆黒の造花 其の一
アレイシア視点。
眼前に広がる荒野。
公国の首都チェスコバローンと王国との国境へ向かう途中に広がる危険な地域だ。
世界混迷の前はキチンとした街道だったらしいけど、それ以降は荒れ果て現在も元の状態に整備する予定はないらしい。
「そろそろ国境近くじゃないか?」
そう私に声をかけたのは、先程うちの食堂で働いているアンを助けてくれたカナンさんだ。
生成り色の上着に、暗めの服と濃い茶色のズボン、ここら辺ではよくありがちな服装。
ただ深い、黒に近い青色の短髪と、同じように暗めの色の瞳はこの地方では見かけないタイプの人だ。
顔は格好いい方だと思うけど、気だるげで無気力な雰囲気がそれを台無しにしている。
しかし、その印象に反して結構お人好しな人だなとも思う。
アンを助けてくれたのもだけど、私の悩みも聞いてくれて、最初は適当な返答だったけど、その後≪異能≫と≪奇蹟≫について教えてくれた。
更には≪魔のモノ≫とラナンキュラスらしき人に襲われていると助けを求めてきたおじさんの為に馬で送ってくれてるんだから、いい人過ぎにも程があると思う。
悪いヤツらに利用されたりしないかとちょっと心配だ。
そのカナンさんが操る馬に乗り、旅のおじさんが言う≪魔のモノ≫が現れた場所へ向かっているが、具体的に何処かがわからない。
こんな広い荒野で宛もなく目で探すのは無謀だ、そう思った時にハッと思い出す。
もしかしたら……。
そう考えて目を瞑り、意識を集中する。
前にラナンキュラスの言ってた、額に目があると思って感じろ、というのを実行すると……。
―― 見えた!! ――
「あっち!!」
大きな声で私がそちらを指差すとカナンさんが驚いたように動きを止める、
確かに普通の人からしたら急すぎて何!?って感じだろうけど、今は説明なんてしてらんない。
「あっちに進めて!早くッ!!」
私は掴んでいたカナンさんの服をグイグイ引っ張ってお願いする。
「分かるのか?」
片手で手綱を操るカナンさんに私は頷き答える。
「…なんとなく…だけど、でも分かるの。」
カナンさんは無言でそちらへと馬を進めてくれた。
私が指差した方に進んでいくと、ドンドンとその感覚がハッキリとしてくる。
≪魔のモノ≫がいるのは感じる。
≪異能≫も少し感じる。
でも……ラナンキュラスじゃない気がする。
前に…、ツタモンの一件の時に見えたラナンキュラスの≪異能≫は蒼を含んだ闇。
今見えた≪異能≫は……なんだろう…赤っぽいような、紫っぽいようなものがユラユラとしている……?
まるでろうそくみたいな……。
…火の使い手……?
『……まず、悪の結社の幹部連中の中にはいない……いや、少なくとも俺は知らん。知ってるのは"幻惑の霧"、"豪放の獅子"、"氷血の魔女"…位か。いずれも炎は使わないな。』
サージェスさんの言葉が頭を過る。
―― まさか…… ――
「……カナンさんはこれ以上近づかないで。息子さんはこっちに逃がすから、彼と街へ戻って。」
私は馬から飛び降り、そのまま謎の≪異能持ち≫と≪魔のモノ≫の方へと走る。
近づくにつれて、その姿形が分かってくる。
ラナンキュラス……では、やはりなかった。
黒い服に、黒いズボン、赤い華の模様が入ったマスクをつけているけど、いつものマントとは違って生成り色だ。
それに何より普段の大鎌ではなく、長い剣を腰から下げている。
おじさんの言った通りの黒ずくめで、マスクをつけた怪しい男ではあるが、別人である。
そして、その近くには虫の姿をした≪魔のモノ≫が佇んでいる。
謎の黒男に襲いかかるわけでもなく、ジッとしているが、黒男の下僕なのだろうか……だとしたらラナンキュラスの仲間なのかも…。
ラナンキュラスなら問答無用で攻撃しても大丈夫だけど、何者かわからない以上声をかけてみるしかない。
ある程度の距離を取ってから私は声をかける。
「そ…そこの怪しい男!あんた一体何者ッ!?」
「……あ?」
正直、どういう風に声をかければいいか分からなかったからついラナンキュラスに対する感じで声をかけてしまったけど…ちょっと後悔した。
……もう少し言い方があったかも。
怪しい男は私を上から下まで確認したかと思うと、
「あー…ゴホンッ、この俺こそはこの国で暴れる≪漆黒の華≫だ!」
軽く咳払いをした後に堂々とそう名乗りをあげた。
「……は?」
先程の男と同じように私も上から下までジッと確認してから、
「いや、どこがよ。確かにあんた黒ずくめでマスクつけてるけど、そのどこにでもある旅装用のマントは何なの?ラナンキュラスは黒ずくめの服に黒いフードつきのマント、白い目元だけのマスクをつけているんだけど。……確かに目元のマスクはこの間つけてた柄つきっぽいけど…。」
そう指摘していくと偽ラナンキュラスの雰囲気が変わった。
「…成る程な。つまり、あの時の闇の能力者のお仲間さんってワケか。」
いきなりワケのわからない事を言い始める。
「調査がてら、こんな妙な格好で待った甲斐があったぜ。」
やれやれと肩をすくませた後に、スラリと腰の長剣を抜き始める。
流れるようにごく自然に剣を構えた。
「見るからに能力頼りのタイプだな…。俺に剣を抜かせた時点で勝ち目はないぜ?諦めて大人しく人質になれば五体満足なままにしてやるよ。」
口元に不敵な笑みを浮かべ、男はそう告げた。




