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悪花狂乱  作者: 謙作
第四章 アヴィリナイト始動

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漆黒の造華を探して


 まるで猪の如く走るアレイシアの背を俺も慌てて追いかけるが、この首都チェスコバローンから(くだん)の荒野まではそこそこ距離がある筈だ。

 先程の中年男とて息を切らしてはいたものの、自分の足で走ってきたというわけではないだろう。

 店を出た時に店先に一頭乗り潰された馬を見かけたが、おそらくあの男のものと思われる。


 アレイシアを追いかけながら俺は辺りに目を走らせる。

 ―― いた ――

 人の行き来の激しい区画だけあって、行き交う者の中には馬に乗っているものも多くいる。

 悪いとは思うが、近くの店に繋がれていた馬の手綱を掴むと、短剣で繋がれているロープを切った。

 「おい!何してる!!」

 店の中から若い男が怒鳴りながら出てきたが

 「悪ぃな。緊急事態なんだ。後で返す!」

 覚えていれば。

 騒ぐ男を尻目に俺はそのまま馬に乗り手綱を掴み飛び乗ると、馬が嘶きアレイシアを追うかのように駆け始める。


 ちなみに俺は馬を手綱で巧く操る事は出来ない。

 俺の≪異能≫の能力に反応しているのか、大半の獣には怯えられるか威嚇されるのだが、今回は怯えて懸命に俺を振り払おうと駆け出したようだ。

 幸い向かっている方向ではあるが。

 しかし、このままでは不味いので右手で手綱を握り、左手を馬の太い項を軽く掴み、

 『従え。』

 (しゅ)を唱えるように命令を出せば馬が爆速から快速程度にスピードを落とす。

 馬は賢いと聞くが確かにその通りだと納得し、俺は小刻みに震えながらも走る器用な馬を軽く撫で、アレイシアの方へと走らせる。


 「おい!光の、…神子さんよ。」

 アレイシアをいつもの呼び方でを呼びかけて、慌てて正式な二つ名になるよう単語を付け加えた。

 俺の声が聞こえたのだろう、アレイシアは駆けたまま俺の方を向き、ギョッとした顔を見せる。

 「カ…カナンさん!何で…!?」

 軽く息を切らせながら問いかけるアレイシアの近くで馬の足が止まる。

 「荒野までは距離がある。乗れよ。」

 右手をアレイシアに伸ばすが、彼女は困惑しながら、

 「い、いやいやいや!今から≪魔のモノ≫…いや、化け物倒しに行くんだからっ!何でついて来てるの!?危ないでしょッ!!」

 「あー…、ノリと勢い……か?」

 …そういえば……別にアレイシアと一緒に行く必要もなかったが、つい勢いで声をかけてしまった。

 「そんなんで危険なとこに着いてきちゃダメだからーッ!!!」

 まぁ、ごもっともなお言葉だよな。

 とは言え、行き先は同じなのだから後々はち合わせするだろうし、そうなると今、声をかけて良かったのかもしれねぇな。

 ラナンキュラスの衣装を持ち合わせてない状況だ。

 カナンのままおそらく≪異能持ち≫の偽物と戦ってる場面を見られれば厄介なことになるのは分かりきっている。

 「目的地には敵とあのおっさんの息子がいるんだろ?あんた一人で息子の方を守りながら敵と戦うことが出来んのかよ?」

 「ぅぎゅうっ!」

 ………痛いところをつかれたからなのか、相変わらず奇妙な悲鳴?いや奇声を発するアレイシア。

 「それに馬にも乗らずにのんびり走って間に合うのか?どう考えてもあんたが目的地に辿り着いた頃には息子と馬の死体が転がってると思うがよ?」

「ぅにゅぅ~…。」

 ……………悩んでる…のか?唇を噛みしめ、眉間に皺を寄せ奇妙な呻き声をもらす。

 にぅ~にぅ~だかみぎゅ~みぎゅ~だか形容しがたい不気味な鳴き声で鳴いてたかと思うと決意したようにこちらを見る。

 「わかった。息子さんの方が見つかったら直ぐに彼をつれて食堂(うち)に戻って!あと、危険だと感じたらそのまま逃げて!自分の身だけはきちんと守って、絶対に!!」

 「……お前に言われるのか。」

 「へ?なんか言った?」

 引き際わ見誤りそうなこいつに注意されたのがあまりに不本意だったので、つい口をついて出てしまった。

 聞き返してきたアレイシアに、

 「なんでもない。」

 しらばっくれて、それだけ返した。






 馬を走らせ北へと進めば、周囲の風景は徐々に整った街道から荒れ地へと様相を変えていく。

 感覚を研ぎ澄ませると、微かな違和感を感じ取れた。

 しかし、迷う事なくそちらへ馬を進めるのは流石に不自然すぎる…そう悩んでいると、アレイシアが、

 「あっち!!」

 そう、俺が感じている方を指差す。

 軽く驚きで固まっていると急かすように、掴んでいる俺の服を上下に揺さぶりながら、

 「あっちに進めて!早くッ!!」

 と大声で頼んで来た。

 「分かるのか?」

 手綱で操るフリをしながら、左手を添えた首をそちらへ押しやると馬は情けない鳴き声をもらしながらそちらへ向かう。

 「…なんとなく…だけど、でも分かるの。」

 少し前までまともに能力を使いこなせなかったのに…と感心した。

 それと同時にチリチリとナニかが燻ったような気がしたが…それは無視することにした。


 違和感の感じた方へ進めば、遠くで動く存在がいた。

 近づくにつれ、少しずつその存在の形が分かってくる。

 3つの存在、1つは≪異形≫、2つは人間、……数に入ってなかったが、おそらく事切れた馬の死骸も見えた。

 「……カナンさんはこれ以上近づかないで。息子さんはこっちに逃がすから、彼と街へ戻って。」

 馬から飛び降り、アレイシアは真剣な顔を俺に向けて言うと直ぐに≪異形≫とラナンキュラス擬き(俺の紛い者)の方へと向かう。

 その指示に従うつもりはないので、俺も馬から降りアレイシアに気づかれないよう気配を殺しながら近づく。

 馬には逃げないように脅しておいたが、あくまでも人間の言葉で言っただけなのでどうなるかは分からない。

 まぁ、馬が逃げたらおっさんの息子には申し訳ないが自分の足で逃げてもらうしかねぇな。

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