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悪花狂乱  作者: 謙作
第四章 アヴィリナイト始動

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華が教える華の真実


 シチューをよそい受け皿へと注ぎ、アレイシアはまず俺の前に置いて、自分の分をよそい「じゃあ、頂いちゃいますね?」と俺に断りをいれ食べ始めた。

 俺は短くなった煙草をテーブルに備え付けてある灰皿で火を消し棄てる。

 目の前に置かれたエールで喉を潤してから、また口を開いた。

 あまり長く話したら自分がラナンキュラスだとバレる恐れがあると一瞬思ったが…まぁ大丈夫だろ、アレイシア(バカ)だしと開き直る事にした。


 「…さっきの話なんだがよ、あんたの敵の内情とやらは知らねぇが…。」

 別に隠された真実というわけでもない、だが、アレイシアみたいな普通を生きてきた人種は知らない真実を教えてやることにした。

 気持ちのいい話では勿論ない。

 しかし、≪異能持ち≫と呼ばれる奴らがどんな奴らなのか、疑問に思っているというのなら、教えてやらないのはフェアじゃないと思えてきたのだ。

 こんな真っ直ぐ過ぎの馬鹿が教会のいいようにこき使われて、後々後悔に苦しむかもしれないと考えると気分がよくない。

 それに、あの(ひと)ならば知ろうとしているのに知らずにいる奴を知らないまま放っとくなんて事はしないだろう。

 これを聞いてアレイシアがどう反応するかまでは俺には分からない。

 もしかしたら≪奇蹟の人≫をやめてしまうかもしれないが、それは仕方ない事だと思う。

 ラナンキュラス(裏の仕事)や媛さんの事はとりあえず今は頭の外に置いといて、俺は話を始めた。


 「…元いた俺の国での≪異能持ち≫と言われる人間の扱いはそりゃあ、酷いもんだった。」

 アレイシアが動かしていたスプーンが止まる。

 驚いた表情を一瞬見せ、直ぐに真剣な顔で俺を見つめるのを感じたが、俺はアレイシアを見返す事なくそのまま話を続ける。

 「≪異能≫がいると噂が出れば≪異能≫狩りなんて行為が行われてな、≪異能持ち(レッテル)≫を貼られたら最後、正義という名の嬲り殺しが罷り通っていたさ。」

 アレイシアが息を飲んだのが分かった。

 ≪異能持ち≫が教会にとってなんなのか、本当の事なんて≪異能持ち(こちら側)≫の俺には分からないが、俺にとっての真実を話してやる。

 「もう十年近く前、世界混迷とやらの時期だからそれが許されていたのか、今もまだ許されているのかは分からねぇがな。」

 ゴクリとまたエールを一口飲み、アレイシアの顔をチラリと見た。

 ショックは受けているようだが、こちらの言葉を頭ごなしに否定するような表情はしていない。

 「≪異能持ち≫と呼ばれ、狩り殺されるのは不可思議な能力を持った平民の、極めて立場が弱い人間が大半で、同じ不可思議な能力を持つ人間でも教会の信者や身分がいと貴き方々が持つものは別の名で呼ばれていたよ。……≪奇蹟≫とな。」

 「それって!?」

 思わずアレイシアが立ち上がる。

 微妙な時間帯だから客は少なかったが、近くにいる奴らは気になったのだろう、チラリとこちらを窺っている。

 しかし、アレイシアは気が付く余裕も無いようだ。

 「……、声を落とせ。俺が解釈しただけの話でしかないし、……俺が≪異能持ち≫と勘違いされても困る。」

 あくまでも俺と≪異能≫は関係ないスタンスだけは貫く。

 ラナンキュラスを匂わせないようにだけではなく、俺にとっては≪異能持ち≫と疑われる事は即、死を意味する。


 ――そうガキの頃に深く深く刻まれたのだ。


 「………それって、≪異能≫と≪奇蹟≫は同じものだと言いたいの…?」

 椅子に座り直し、声を潜めてそう俺に尋ねるアレイシア。

 そうだ、と断言してやりたいところだが、あくまでも只の普通の人間の俺が答えられるわけではないので、

 「……俺の見解では、だ。まぁ、俺のいたとこの教会やら貴族やらがクソばっかだったから感情的にそう感じてるのかもしれねぇがな。」

 肩を竦めて見せれば、アレイシアは奇妙な事に、反論することなく何処か納得してる風にも見えた。

 「…………。怒らないんだな。」

 俺の発言は教会の定義だの正義だのを否定する言葉だったんだがな。

 信者じゃなくても自分や自分の仲間を貶めている、そう考えてもおかしくはないと思うんだが。


 「…うん。なんとなく…そんな風な事、言ってる人はいたから。そうだとしたら納得したって言うか。」

 その言葉を聞いて意外だなと感じる。

 ≪奇蹟の人≫の立ち位置は普通の修道士どもより上だから、そんな危険な発言を吹き込める様な奴がいるとすれば、同じ≪奇蹟の人≫の連中だと思えるが…。

 炎の拳神のサージェス辺りか?確か奴は王国の神官だという話だったから、純粋な教会の奴らと考え方が違うのかもしれない。

 「……そっか、≪奇蹟≫と≪異能≫が同じなら、≪異能持ち≫って呼ばれてる人たちは私たちと変わりはない…元々は普通の人たち……。」


 すんなりと飲み込み納得するアレイシアの言葉に、逆に俺の方が驚いた。

 こんなにも素直に理解を示す姿に…俺は心でこう思ってしまう。


 ―― コイツ、本当に大丈夫か? ――


 いくら相手がラナンキュラス(裏の俺の仕事)とは違う姿とはいえ…もう少し疑うべきなのでは?

 仮に炎の拳神が似たような話を吹き込んだとしても、王国側がアレイシアを引き込もうとする策略の一環かもしれないだろうが。

 ……正直、王国や公国の関係とか、教会と王国の関係とかはよく分からねぇんだが。

 なんか閣下やフジとかに軽く教えてもらった様な気もするが、貴族や王族やら高貴な方々の迂遠的な話は面倒臭い。

 とにかく公国は王国とも教会とも関係がよろしくなく、王国と教会とは表面上は仲良く付き合ってるけど実際はよく分かってない、だったか?

 ≪異形≫どもが増殖してるだろう中、人間同士でごちゃごちゃよくやると呆れるしかないな。


 アレイシアが深く自分の思考に没頭してるのを眺め、俺もまた自分にはどうでもいい事をつらつら考えていれば外が少し騒がしい。


 「たっ…大変だッ!!」

 木製の扉がバンっと開き、来客を告げる小さな鐘がカランガランッと騒ぐように鳴る。

 食堂の入り口に目を向ければ、旅装姿の中年の男が荒く息を切らせながら、片ひざをその場についた。

 「どうしましたッ!?」

 慌てて立ち上がり、アレイシアは男の方へと駆け寄る。

 男は息はまだ整っていないまま、懸命に口を開くと、


 「ばけ…ば…化け物が出たんだッ!助けてくれ!!」


 アレイシアにすがりながら、そう叫んだ。


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