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悪花狂乱  作者: 謙作
第四章 アヴィリナイト始動

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迷える光と困惑の華


 厄介な状況になった―――


 「そっかー。酔っぱらい相手に助けてくれたんだ!?」

 「そーなんです~!」

 項垂れそうな俺の座った席の前でキャイキャイ騒ぐ女二人。

 一人は事の元凶、天然女のアン。

 そして…、

 「うちのアンを助けてもらってありがとうございます!!あ、一品なんて言わずに今回のお代は大丈夫なんで!」

 ラナンキュラスには決して向けられないだろう満面の笑顔を向けてくる、光の神子アレイシア。

 営業的なスマイルなのか、アンを助けて貰った故なのかは分からないがそれはもう嬉しそうな笑顔で俺はどうすればいいのか分からない状況だ。

 正直飯なんて要らないから帰らせて欲しい。

 「あ~!これなんか美味しいんですよ~!!ハラモチもい~ですし~。」

 「あ!私はこっちもお勧めですね!うちのはたまごが絶妙なトロトロで、セットのパンにはチーズが練り込まれてるんですよ!」

 そんな俺の気持ちなど微塵も気づかない二人はそれぞれお勧めの料理を指差してこちらに見せる。


 ―― ………何でこんな目にあってんだろうな、俺は… ――




 この店がアレイシアの両親の経営する食堂だと気づいたときには既に手遅れだった。

 当然の事ながらさっさと立ち去ろうという試みはアンに物理的に封じられ、そうこうしている間にアレイシアに気づかれてしまう。

 アンと共にいたが為不本意ながらもアレイシアの興味をひいてしまった。

 そんな状況下で無理に帰ろうとすれば不自然極まりない。

 身動き取れない俺と何故この場に居るのかの説明をアンが間延びした口調で説明をし、現在に至る。

 

 「凄かったんですよ~?そのまま放っといたら怪我するからって、わざわざ腕を引っ張ってスピード落としたり~、首もと引いて勢いなくしたり~。」

 …確かにその通りなのだが、僅かな間で行った筈の一瞬の行動を全て見切っているこのアンの方が凄いと思うのは気のせいではない筈だ。

 「わ~、強いんですね~、カナンさんって。」

 アレイシアが感心の目を向けてくる。

 「……いや、別に…。」

 そんなアレイシアに対して言葉少なく返す俺。

 ……あまり、こちらに話を振らないで欲しい。

 ラナンキュラスの時に声色を変えているわけではないのだ。

 長く会話をしたら、俺の正体がバレる恐れがあるので、何とか短い返答で会話を終わらせようとするのだが……。

 「そんな事ないですよぉ?私~、こんなに動ける人久々に見ましたもん~。」

 天然女アンがラリーを続ける。

 …この女は本当に恩を返す気があるのだろうか。

 「アンがそう言うってことはやっぱ強いんですねぇ!カナンさんー!」

 ……どうでもいいが、アンの間延びした口調につられてかアレイシアまで無駄に語尾が伸びている。

 「あー…。注文しても?」

 もう、さっさとお礼とやらを受け取ったら帰ろう。

 無理に帰れないならと割りきることにした。


 特に食に拘りなど無い俺は二人のお勧めとやらをそのまま注文する。

 "光に輝くオムレツセット"とやらと、"ごった煮シチュー鍋"、ついでにエールだ。

 「かしこまりました~!」

 そんな嬉しそうにアンは注文を受け、厨房へと口調に反して素早い動きで移動していく。

 何者なんだろうか、と言う疑問は持つだけ無駄な気もするのでそういう生き物なんだと考えることにした。


 「………あんたは仕事はいいのか?」

 先程アンとワイワイ話していたアレイシアは、何故か俺のテーブルについたままだ。

 出来たらアレイシアに去って欲しかったのだが……。

 「あ、私はアンがいない間の穴埋めしてただけなんで。普段ここでは働いてないんですよ。」

 ……まぁ、≪奇蹟の人≫やってるんだろうから、そんな暇はないか。

 じゃあ、一体何故ここに?と疑問が顔に出ていたのか、アレイシアは話を続ける。

 「普段は違う仕事してるんですけど…ちょっと今悩んでて…。」

 悩み……?アレイシアにもそんなものが存在するのか……。

 沈黙してやり過ごそうかと考えたのだが、アレイシアは何故かこの場で鬱々と悩み始める。

 料理がくればこの状況も飛んでいく筈なのだが、アンはタイミング悪く他のテーブルの多分常連客とおしゃべりしている。


 ―― お前は仕事をしろぉ―――ッ!! ――


 心底そう叫びたい心境だが、無駄な注目を浴びたくはないので唇を噛みしめ我慢した。

 「…………、何をそんなに悩んでいるんだ。」

 仕方なく、俺は話を促した。


 「あー、えーっと…、その、私、実は光の神子なんですけど!!」

 知ってる。

 いや…、驚いた方がいいのか?これ。

 「……そ…そうなのか。凄いな。」

 「あ、そうなんです、…エヘヘ。」

 ………危ないところだった。

 普段のラナンキュラスとしての台詞が口をついて出そうになったところを、慌てて変更したからそれなりに驚いた雰囲気が出たみたいだ。

 照れるアレイシアのリアクションはまぁ、とりあえずいいのだろうか。

 これで『それはそれは、スゴイスゴイ。大したものだな、名前だけは。』なんぞ言ったらすぐにバレるかもしれない。


 ―― ……これだけの会話でも危ないのに、悩み事なんぞ聞いて大丈夫だろうか… ――


 内心でため息を吐き、仕方ないと俺は覚悟を決めた。



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