戸惑う光と困惑する華と
―――ドゴォオォ―ッ―――
そんな地響きを立てて、地中に潜り込んだ蔦野郎が次に現れたのはアレイシアの背後。
図体に見合わず素早い動きだ。
至近距離では察するのは難しい。
複数の蔦が同じタイミングで鞭のようにしなりアレイシアの身体に振るわれる、その前に俺はなんとか間に割り入る。
「――――フッ!」
細く息を吐き、俺は大鎌を大きく払いその蔦を切り払った。
先程まで静観していた存在が参戦したことによほど驚いたのか、蔦野郎は短くなった自身の蔦を大きく振るわせ、後ずさる。
大鎌を構えたまま、背後にいるアレイシアの方に軽く視線を向ければ。
蔦野郎の攻撃を途中で気付いたのだろう。
反射的に杖で攻撃を庇う体制をとってはいるが、ギュッと目を閉じている姿に舌打ちしそうになる。
――敵から目をそらすな!死にたいのか!!――
そう怒鳴りそうになるのを我慢し、俺はこの現状をなんとか誤魔化そうと口を開いた。
「戦いの最中に昼寝とは、…呑気な正義の味方様だ。」
ハッと嘲る様に嗤いそう言葉を投げれば、ハッとしたようにアレイシアは目を見開く。
至近距離に俺が居ることを視認した彼女は「にょわぁぁあっ」などと珍妙な悲鳴?いや、奇声?を上げ、ズサササッと音をたてて、こちらも後ずさる。
「流石の余裕だな。一人で実に愉快そうだ。」
正直、蔦野郎に意識を集中したいのだが、間の抜けたその姿に≪漆黒の華≫の俺が何も言わないわけがないので、なんとかそう告げた。
「なっ…うっ…あ…あんたっ、一体全体どういうつもり!?」
当然の疑問だ。俺も今懸命に考えてる。
―――ォオオぁあァ―――
そんな俺たちのやりとりにしびれを切らしたのか、蔦野郎は俺とアレイシア、両方に襲いかかってきた。
「やれやれ『待て』も出来ないのか?」
俺は大鎌の柄をぐるぐると回し、蔦の攻撃を先ほどよりも細かく切り払った。
情報通り、比較的そう強くはないか。
アレイシアがある程度傷つけてくれれば『使えない』とかなんとかで処分出来たが、この流れじゃ不自然だ。
おそらく不審そうにこちらを見ている彼女の視線を無視し、大鎌以上にくるくる頭を回転させて、らしい言い訳を考える。
どうする、俺に攻撃して来たから敵味方判別出来ない失敗作だとか言って倒すか?
いや、端から見たら言いがかりにも程があるだろ。
とりあえず下手に動かれないように縛るか。
俺は自身の異能をイメージし、展開させる呪を唱える。
『巡り絡めとれ』
黒い、紐の様な蔓が蔦野郎の蔦ごと本体を絡めとり、大地へと張り付けた。
俺自身の精神力とでも呼べばいいのか、腕力とは違うそれで拘束しているので、そうすんなり地中へは逃れられないだろう。
「…さてと。」
ゆっくりと時間をかけ、アレイシアの方へ振り返る。
少しでも時間を稼ぐためだ。
それでもまだ言い訳は思い付かないが。
「………。」
警戒の目を向けるアレイシアに俺は口を開いて出した言葉は
「………お前、正義の使者、向いてないんじゃないか?」
「――――なッ!!!」
売り言葉だった。