遠い遠い過去の記憶
新章スタート。
淡い色調の風景が眼前に広がる。
晴れやかな陽に照らされた小さな町並み。
そこから少し離れた小高い丘の上にポツンと佇む小さな教会。
周囲には木々が生い茂り、森、というよりは林に包まれている。
建物は元々は白かったのだろうが、汚れて朽ちてきた壁を補修した痕があちらこちらに幾つもあり、長い年月を経たことが見て取れる。
その古びた教会近くの木々を縫って何人かの子どもが走り回っている。
どの子どもも継ぎはぎまみれの薄汚い服で、一目で貧しい生活を強いられてる事が見て取れた。
しかし、子どもたちの瞳は生き生きとしていて、誰もが皆希望に満ちた顔をしている。
その中の一人、子どもたちの中で比較的年長の子どもがこちらに手を振り大声で呼んだ。
「カナーンッ!!早く来いよー!」
俺は驚き、軽く目を開いた…、筈なのだが、俺の意思に反し俺の体はその子どもに応え走り出す。
俺を呼んだ子供の顔を見返せば、知った顔だ。
いや、知った顔だった。
―― ……あぁ、成る程、これは夢なのか ――
夢は夢と認識すると目覚めるとか誰かから聞いた気がしたが、夢は醒めない。
今更何だってこんな夢を………、そう愚痴ようとするが俺の体は言うことをきかず、無邪気に走り回っている。
と、思ったら急に視界がオレンジ色になっていた。
視界の中しか確認できないが、時間が飛んだのか周囲の風景は夕暮れへと変わっている。
「―――――」
俺の口から誰かの名が出てきた。
いつの間にか夕暮れの空の下に一人の男が背を向けて立っていた。
俺の言葉を受け、こちらへ振り向くも夕陽が逆光となり、顔は見えない。
短く刈り込んだ髪、夕陽を浴びオレンジ色に染まった金属鎧、子どもの視界だからなのかとても大きい男は顔が見えずとも優しい眼差しをこちらに向けてると分かった。
「カナン。」
男が俺を呼べば、俺は嬉しそうに男に向かって走り出す。
……しかし、何故か男の姿は遠く離れている。
男はその場を動いていない。
にも関わらず、懸命に走っているのに距離が縮まらず広がるばかりだ。
「力を持つ者は…強いヤツはな、弱いヤツを守らなきゃならない。それが正義と言うものなんだ。」
強く、優しい声で男は俺にそう告げる。
男の言葉はハッキリと聞こえるのに、姿が果てしなく遠く感じた。
諦めて、俺は立ち止まり振り返ると――
炎が辺りに広がる――――
気が付けば建物の…教会の中にいて、周りからは子どもたちがパニックを起こす悲鳴。
男たちの怒号。
――知っている。
俺はこの後起こることを知っている――
―― やめろ!―早く起きろよッ!! ――
今更!
こんな光景を見たくないのに―――!!
懸命に首に爪を立て掻き毟るが、痛みは感じず、…目は醒めない。
早く、早く起きなくては―――
「逃げなさい!」と叫ぶような声に俺はハッとした。
俺が、俺の意思を無視して振り返ろうとする。
―― やめろ!見るなッ!! ――
「魔の者め―――これが正義の鉄槌だ!!」
そんな戯れ言めいた男の言葉と共に剣が振り下ろされ―――
牧師の老人が銀の金属鎧を纏った男に斬られ―――首を刎ねられた。
「やめろぉおぉぉ―――――!!」
そこでようやっと俺は目が醒めた。




