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悪花狂乱  作者: 謙作
第三章 お飾り媛と無愛想騎士

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舞台を眺める者達

この話で三章は終了です。

また次回もなるたけ早めに更新したいものです。


 日は暮れ、公国の首都チェスコバローンにあるそこそこ大きな酒場。

 酒を飲み、賑わう客の多い中、店の隅の方のテーブルを囲って三人の男女が座っていた。


 「なかなか面白い見せ物だったな。」

 「最後まで見るべきだったか?」などと言いながらその中の一人で黒髪、黒目、黒服の長身の青年が酒場で自慢の肉料理を口にしながら向かいに座る二人に言う。


 今日、劇場でラナンキュラスの見た一団の一人だ。


 歓声や応援の声をあげている人々とは違い、静かに正義と悪との闘いを眺めていたが、ラナンキュラスが仮面の外れた顔を押さえ後ろへ退いた辺りで、彼らはホールから去り、夕食をとっていた。


 「なら残ってのんびりと眺めてればよかったのに。今の段階ではあなたに用がないし。」

 どこか冷たさを感じる水色の髪、翠色の瞳の落ち着いた雰囲気の女性が、青年に冷たく言葉を返した。

 「お前…その言いぐさはねぇだろ……。」

 「仕方ないでしょう?剣使って戦うか、火をつけて回るしか出来ないんだもの。」

 口元をひきつらせる青年に淡々と女性は追い討ちをかけた。

 もう反論する気もないのか、青年は子供の様に拗ねて肉料理をナイフでつついている。


 「セレス。ジャスパーはなんと?」

 三人の中で年嵩と思われる男が口を開いた。

 屋内にも関わらず生成り色のフードを被ったままだが、酔っぱらいの多い酒場では特に誰も気に留めてはいない。

 ただ、時折フードから見えかくれする髪の色は特徴的である。

 薄いピンクのような、紫のような不思議な色合いの髪色に、瞳は金色といった目立つ風貌だ。

 人目を引かないようにフードを外さないのだろう。


 セレスと呼ばれた女性は青年の時と違い、どこか嬉しそうな瞳で男に顔を向け、

 「教会で予言があったって。」

 まるで小さな子供が父親に1日の報告をするようにその教会の予言の内容を語り始めた。

 「ほぉー、教会の奴らはその予言がこの国のお姫さまと悪の結社(さっきの奴ら)の事と考えてるってことか。…どう思う?」

 青年は他人事の様に呟くと、男の方へと水を向ける。

 男は木製のコップに入った水を軽く飲み込み、目を閉じた。

 「……その予言、いや()()が正しく伝わっているならば、あるいはその可能性もある。」

 「……予報?予言とどう違うんだ?」

 不可思議な言い回しだと青年は眉を顰めた。

 「情報を手に入れた媒体の差異と言うべきか。情報を映像で捉えるか、文脈で読み取るかの違いとでも言うか。それによって大きく異なる。」

 青年は沈黙しながらセレスに視線を向けるが、セレスはその視線に応じない。

 単なる塩対応なのか、セレスも良くわからないから振られても困るという事なのか、青年は仕方なく男に視線を向け口を開く。

 「よく分からねぇんだが…。」

 「……端的に答えれば情報不足だからなんとも言えないといったところだ。」

 淡々と答える男に、青年はそうか、としか返せなかった。

 「だが我々に無関係なものか判別出来ない以上は心に留め置いた方がいいだろう。"世界を混沌に導く"それが我々だと解釈される可能性もある。警戒はすべきだ。」

 静かに告げる男の言葉に二人は真面目な顔をして頷く。



 


 食事を終え、三人は酒場を出て道を歩く。

 下町の露店で賑わう出店通りは店の明かりで夜道でも明るい。

 物珍しいと言うよりも、何者が出てもおかしくないという警戒からか青年は辺りを不自然ではない程度に見回しながら進んでいる。

 「シディ。」

 そんな中でセレスがそう口に出せば、青年がその言葉に反応しセレスの方に顔を向けた。

 「そういえば、どうしてさっきの仮面の男を助けたの?」

 ふと、セレスは思い出した事を青年、シディに問いかけた。


 教会の人間に囲まれていた仮面の男。

 教会の一人に礫の攻撃をされたところを炎で無効化していたが…。


 「まぁ、≪異能持ち(お仲間)≫を見捨てるのも寝覚めが悪いしな。」


 ―― もし教会の奴らがこっちに気づいて向かってきたら正当防衛成立(ぶちのめしてOK)だしな ――


 そんな事を心の中で呟くシディにセレスはジト目を向ける。

 「どうせ、あわよくばぶち殺せる理由が出来てスッキリしそう、とか思ってるのね。」

 あっさりと心中を言い当てられ慌てるシディ。

 「読むな!人の心の呟きを!!」

 「…そう顔に書いてるのよ。」

 呆れてハァとセレスはため息をついた。

 「でも、寝覚めが悪いなんて言った割にはあの状況で見捨てるのね。」

 端から見れば追い詰められているにも関わらず背中を向けて立ち去り始めたのはシディだった。


 「ああ、何故だかあの男本気だしてないみたいだしな。」

 人質を守るためにわざわざ自分に張った障壁を解いて、その人質に張り直しているところが見えたのだ。

 「……この国で噂の組織の男か。」

 「ふ、面白くなってきやがったぜ、って思うのは自由だけど…巻き込むのだけは止めて。」

 「だから、読むなっての!!」

 ニヤリと笑うシディに冷めきった視線を向けてセレスがそう口にすれば、怒ったように怒鳴るシディ。


 そんな二人の様子に構わず、年嵩の男性は無表情のまま思案していた。


 ―― 予言、或いは予報の内容が私の探しているものだとすれば……先程の≪異能持ち≫には注視しておくべきか…… ――



 

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