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悪花狂乱  作者: 謙作
第三章 お飾り媛と無愛想騎士

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瞬きの飛び入り参加


 ―― まいった、思ってた以上に手練れだな、この男 ――


 ラナンキュラスは剣を構える風使いの動きに驚きと共に焦りを覚えた。

 正直、≪異能≫の練度は大したことはなかった。

 おそらくは独力でここまで昇華させただろう点は褒めてもいいが、教会の≪奇跡の人≫よりは多方面で劣っている。

 攻撃パターンは単調で対処もラナンキュラスにとってそこまで苦にはならなかったし、威力の方も瞬間的に強力ではあったがポイントを押さえれば防ぐことも容易い。

 誰かに教えを受けられない状況では仕方なかったのだろうが…。


 だが、剣技はずば抜けている。


 対人戦闘に慣れている、いや騎士ならば当然であろう事だが、動きが極めて実践的だ。

 ≪奇跡の人≫のような甘い攻撃がなく、一応生かして捕らえようとしているらしいが、手足や目などを潰しても構わない容赦のなさが見受けられる。


 先程の≪異形≫に対しても気後れする様子もなかったから初めて相対したわけではないようだ。

 ラナンキュラスと同じく≪異形≫に対して威力が足りなくても正確に攻撃を繰り返し当てる事で対処したのかもしれない。


 状況判断に優れていて、実戦経験も豊富。

 実に厄介な相手だった。


 そして何よりも問題なのが、光の神子アレイシアの存在だ。


 少し前にラナンキュラスと戦い(茶番)を演じた時以来だが、自身の能力をキチンと使いこなせるようになっている。

 本来であればラナンキュラスにとっては仕事もやり易くなり喜ばしいことだが、こと今回に限って言えば真逆の状況になった。


 ―― 直接俺の相手ではなく味方の防御にまわるとは……学習能力、あったんだな ――


 そんな失礼なことを考えながらも、現状をどうにかしなければと頭を回す。

 状況はかなり不利だが、味方の援護は頼れない。

 この場にいるデュランタ同様、悪の幹部(団員)は舞台に立つ演者がほとんどだ。

 ≪奇跡の人≫だけなら未だしも、野次馬と化している観客たちには、この劇場の熱狂的なファンもいる。

 顔を隠したり化粧で誤魔化そうとしても見破られる可能性は十二分にある。


 ラナンキュラスはアイシャの方に目を向けたが、彼女は真面目な顔をしてこちらを見ているだけで助け船を寄越す気はないらしい。

 だが、彼女の侍女であるフジに視線をやると、彼女はいつもと変わらぬ鉄面皮ではあるものの周囲へ注意を払っていた。


 ―― …媛さんの指示か?何かを探している? ――


 フジがアイシャの指示を受けてか劇場内を気づかれないように探っていてラナンキュラスもつられそうになったが、風使い、リンドウとアレイシアの猛攻によってそれは阻まれた。


 リンドウの畳み掛ける剣擊は、ラナンキュラスの≪異能≫混じりの防御でなんとか防いでいる。

 時折隙をついて攻撃してはみるがアレイシアが見事に防御しきった。


 リンドウが≪異能≫を使わずに剣技のみでの攻撃を選択したことにラナンキュラスは舌打ちしたくなった。

 ≪異能≫に頼った攻撃ならばスタミナ切れを狙えたが、リンドウはラナンキュラスに≪異能≫は全く通じないと察したのだろう。


 ―― このままじゃ長丁場になるな。何だかわからないがとっとと見つけてくれ ――


 長引けば長引くほど味方のいないラナンキュラスが不利になる。

 幸いアイシャは攻撃能力はないので掩護射撃などには回らないが、豊穣の聖女がある程度体力が戻れば確実に参戦するだろうし、ここから避難できた観客が教会に助けを求めていないとも限らない。


 アイシャの目的が何かはわからないが、どうやら彼女のお望みはナニかが見つかるまでの時間稼ぎらしい。

 ギリギリまで耐えるしかないのか、そう心のなかでため息をつき、リンドウの続く猛攻を防いでいると微かに感じる≪異能≫の感覚に意識をそちらへと向けた。


 『…て…主…の鉄槌…をォ――ッ!!!』


 始めは小さく聞こえなかったが、徐々に大きく吠えるように唱える聖句が響く。

 豊穣の聖女が、まだ回復しきっていないにも関わらず、無理矢理に能力を発動した。


 「――――ッ!?」

 まだまともに立つことも出来ず、顔色すら真っ青な状態で力を行使する、まるで自殺行為とも呼べるその行動は、ラナンキュラスにとって予想外の攻撃だった。

 闇の獣が現れた場所とは別の、豊穣の聖女が杖を突き立てている場所が床板を押し退け盛り上がり、地面がむき出しになる。


 『し…死んで贖えぇッ!穢らわしい罪人めぇ――!!』


 おおよそ教会に仕える者とは思えぬ殺意の篭った罵りに応え、盛り上がった地面が蠢き、幾つもの礫がラナンキュラスへと飛んでいく。

 それを確認する前に豊穣の聖女はバタリと倒れた。



 リンドウの攻撃をかろうじて避けた瞬間を狙われてたかは不明だが、ラナンキュラスはその礫を避けられる体勢ではなかった。

 強い殺意に、意識は向けられたものの身体は捌ききれない。


 ―― マズイ!攻撃を避けきれねぇ!! ――


 渾身の≪奇跡≫は大量の礫となり、ラナンキュラスへと向かう。

 咄嗟に≪異能≫で闇の壁を張ろうとしたが、間に合わない。


 ――― その時。


 炎がラナンキュラスへと向かう礫を一瞬で焼き払う。


 「―――なっ!!」


 驚きの声を上げるリンドウやアレイシア。

 ラナンキュラスも声にこそ出さなかったが、同じ心境だった。


 直ぐにラナンキュラスは炎の≪異能≫の気配の元を目ではなく、感覚で探る。

 一瞬で消えた≪異能≫の気配だが、残り香とも言える残滓を感じとりそちらへと視線を走らす。



 騒ぎ立てる野次馬たちの中で異質な存在を見つけた。

 他の観客たちと違い、静かにこちらの様子を眺めている三人組。

 その中で、長身の黒髪、黒目、黒い服という黒ずくめの男と一瞬目が合うと、男はこちらに薄く笑みを返した。


 ―― …何者…だ?…… ――


 おそらくラナンキュラスを助けたのは今の黒ずくめの男なのだろうが、知り合いではない。

 気にはなったが、今はこの場から去るのが先だ。


 アイシャの目的が達成しようがしまいがここまでイレギュラーな状況ではこんな茶番は続けられない。

 謎の炎の参戦に、リンドウとアレイシアが周囲を警戒している今が好機(チャンス)だ。


 『霞みて揺蕩え』

 ラナンキュラスは闇の霞みを自身の周りへ広げ目眩ましをする。

 「今度は漆黒の華か!?」

 闇で視界を遮り、そして―――


 『遮って!!』

 『爆ぜろ』


 アレイシアがラナンキュラスの近くに立つリンドウの直ぐ前に障壁を張り巡らした、その直ぐ後に大きな爆発が起きる。

 そちらに気を取られている間にラナンキュラスは走った。


 

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