光の神子の参戦
アレイシアの視点。
まるで演劇のように堂々と振る舞うアイシャと、凛々しくアイシャの命令に従う騎士、リンドウにアレイシアは思わず見惚れていた。
「なにを…ボサッと眺めているんです!アレイシア!」
膝を突いているものの乱れていた呼吸は治まったヘレンの叱責する声にハッとして、慌てて彼女の様子を伺う。
やはり力を使いすぎたのか、顔色が青いままだ。
支えようとする彼女の手を軽く押しやり、彼女は杖で漆黒の華を指す。
「私の事はどうでもいいから、早く奴を、漆黒の華を討つのです!」
強い声でそう言われ、アレイシアは頷き持っていた鞄の中でコンパクトに収まっている杖を手にした。
「わかった!ヘレンはそのまま少し休んでて!」
杖を軽く一振りすると、折り畳み式だった杖はカチッカチッと軽い音を立てて普段の長さの形へ変える。
睨みあったままの風使いの騎士と漆黒の華のいる方へと向かい、そのまま騎士の近くへと立つと、
「助太刀しますッ!!」
杖を構えた。
「…ほぅ、ひどいじゃないか、光の。」
大鎌を構えていた漆黒の華が、どこか親しげにアレイシアに話しかけてきた。
「…な、なにがよ。」
心当たりがないアレイシアが素直に問い掛ければ、漆黒の華はやれやれとため息をつく。
「正義の味方が、まさか一人の敵相手に二人がかりで襲ってくるのか。随分卑怯じゃないか。」
「はぁっ!?普段≪魔のモノ≫引き連れて暴れまわる奴が言う台詞ッ!!悪人のあんたらに言われたくないわっ!!!」
まるで被害者の様な物言いにカチンときて、アレイシアは思わず言い返す。
そんな二人の応酬を傍観していた騎士が、唐突に漆黒の華に向かって剣を振るう。
「え?」
横薙ぎに振るった騎士の長剣を漆黒の華は大鎌の長い柄で受ける。
「ッ、やれやれ…無粋な男だ。」
そんな台詞を言い終えたと同時に、漆黒の華は騎士に真っ直ぐ左足で蹴りを放つが、騎士は下に軽く身体を傾けそれを避ける。
柄で受け止められた剣を一度引き戻し、騎士は屈んでいる体勢から漆黒の華の首もとに狙いを定めて剣先を突き放ち、漆黒の華は後方へと跳び躱した。
アレイシアはその二人の攻防に割り入る事も出来ないまま立っている。
―― う、動きに付いていけない ――
彼女が≪奇跡の人≫になってまだ1年も経っていない。
漸く自分の≪奇跡≫を自分なりに使えていけるようになってきていたが、体術などの訓練などはまだまだ未熟だ。
「教会の使者殿、戦場で敵の言葉に耳を傾けるのは悪手だ。」
剣を構え直し、騎士は漆黒の華を見据えたままアレイシアに忠告する。
その言葉にこれまで漆黒の華と相対する度に思い切り言い合っていたアレイシアは今までの漆黒の華とのやり取りを思い返した。
その会話の中でアレイシアは漆黒の華の策略にハマって下手を打っただろうか、と。
「…えーっと…今までは……大体が漆黒の華に揶揄われたり、バカにされたりとムカついて、その怒りを≪異形≫にぶつけて、結果勝利に終わる……。……あれ?問題なくない?」
「…………。」
うん、大丈夫だった、そう思い顔をあげた。
何故か双方から呆れや哀れみといった視線がアレイシアに向けられ、アレイシアは少々戸惑う。
「ゴホンッ、とにかくだ、これは決闘でもなんでもない。無勢に多勢が嫌だと言うなら媛の仰ってた通りに降伏しろ。」
咳払いをし、気を取り直しながら騎士は剣の切っ先を漆黒の華へと向ける。
「無論断る。こちらにも色々と事情があってな。」
漆黒の華は大鎌をくるくると回しながら、騎士の言葉を拒むと再度大鎌を構え直した。
「光の、参戦するのは構わんがお前の動きじゃそこの風使いのじゃなく、俺の助太刀になりかねんぞ。」
「…ぅぎゅっ。」
バカにするように嗤いながらに言葉を投げてきた漆黒の華に、アレイシアは反論出来ずに奇声をもらす。
確かに今の彼女は素人よりも素早さと体力がある程度だったからだ。
「別に助太刀がなくとも問題はない。」
騎士も剣を構え直した。
右足を後ろへひき、先程よりも少し深めに腰をおとす。
「…フッ!」
騎士が短く息を吐き、一跳びで間合いを詰めた。
―― 早っ!! ――
少し距離のあったアレイシアにも早くて一瞬目で追うのが遅れたのだ、実際相対している漆黒の華にはそれ以上に早く感じたはずだ。
「ッチ!」
その証拠に漆黒の華が、慌てて大鎌を下から斜め上へと振るう。
しかし、騎士は予測してたのか、実際見てからなのかはわからないが、その場から半歩左に左足で置き、漆黒の華のすぐ右脇へと移動した。
その位置から大きく円を描くように身体を捻り、漆黒の華の背後へと剣を薙ぐ。
『ッ、幾重に重なり阻め!』
僅かの時間で闇の薄い膜が何枚も重なり壁となり、騎士の斬擊を防いだ。
しかし、騎士は直ぐに剣を引き、今度は突きを何枚も重なり出来た闇の壁へと突き立て、
『吠えよ!剣よ!!』
騎士の呪と共に竜巻が起こる。
だが、闇の壁は突き立てられた剣も風の≪異能≫も阻み続ける。
「ッ!?」
『重なりよ、舞い散り広がり…』
竜巻が収まると重なっていた闇の膜が漆黒の華の呪に応え、はらはらと剥がれその場に舞い広がる。
アレイシアは騎士の周りに広がる花びらのような闇にハッとした。
『爆ぜろ』
『遮って!!』
漆黒の華の呪の直ぐ後にアレイシアも聖句を唱えた。
アレイシアは騎士を包む球体をイメージして唱えたからか、騎士の周りを光の壁が包むように構築され、闇の爆発から守る。
「何!?」
「……よしっ!!」
漆黒の華の思わずもらした驚きの声にアレイシアは力一杯ガッツポーズをとる。
あのツタモンの時に漆黒の華が見せた広範囲への爆発の≪異能≫を思い出してアレイシアは咄嗟に結界を張ったが、正解だったらしい。
この戦いで自分が何が出来るか、アレイシアは察した。
「風の騎士さん!防御は任して。漆黒の華をコテンパンにのしちゃって!!」
「……助力感謝する。」
アレイシアと風の騎士対漆黒の華の闘いが幕をあげた。




