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悪花狂乱  作者: 謙作
第三章 お飾り媛と無愛想騎士

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強制されるアドリブ

ラナンキュラス(カナン)視点の話です。


 ―― あー…、やっぱりこのまま帰ったら駄目か ――


 ラナンキュラスは内心で面倒だなと深いため息をついた。


 茶番劇の幕開けから瞬く間に黒い獣のご退場、その急流過ぎる流れが麗しき慈雨の聖女はお気に召さなかったらしい。


 確かに余りにもあっさりと消えてしまった黒い獣をただ見届けに来ただけで帰ったら、悪の結社の幹部であるラナンキュラスは一体何しに現れたんだとは誰もが考える事だし、本人もそう思った。


 だがラナンキュラスとしては仕方なかったと心の中で言い訳する。


 風使いの初手の攻撃ではそこまでダメージを負ってるようには感じられなかったから、ラナンキュラスが茶番の準備をしている間にも何らかの攻撃を受けたのだろう。

 

 影から闇の蔓で拘束しただけで身動きとれなかった程度に黒い獣の力は弱体化していたし、豊穣の聖女の礫の攻撃に数回程度すら耐えられなかったのも彼が戻ってきた時には既に黒い獣はかなり弱っていたからなのだ。


 流石に自分がいない間に舞台が進行してたのだからどうしようもなかった筈だと、ラナンキュラスは声を大にして言いたかった。

 ――出来ないが。

 

 

 まぁ、豊穣の聖女を必要以上に挑発したせいでより一層早くケリが着いてしまったのは反省すべき点だとラナンキュラスも思ってはいる。


 一応≪異形≫は風使いの攻撃で弱っていて、豊穣の聖女が倒したわけではないと逃げ遅れている観客にアピールしてみたのだが、それだけではどうやら駄目だったようだ。

 さっさと退こうとするラナンキュラスをそうはさせぬとアイシャが前に出て無理やり引き留めたのだから。


 「大人しく投降する事をお勧めするわ。いくら手練れと言われても流石に多勢に無勢。抵抗するだけ無駄よ。」

 凛とした顔でそう告げる彼女はまさしく民の望む救世主然としているが、ラナンキュラスにはハッキリと聞こえた気がした。


 『私が納得するそれなりの成果を出して頂戴。それまでは退くことは許さないわ。』

 そんな無茶振りな命令が。


 ―― 教会の奴らとは無関係らしい風使いのおかげで倒せましたじゃいけないのか、面倒な事だ ――


 直接見ていたわけではないが、ラナンキュラスとしての登場した時に風使いと教会組の微妙な立ち位置と、豊穣の聖女の気質からみて友好関係とは程遠く感じた。


 豊穣の聖女とは何度か茶番劇を演じたが、これ程教会に相応しい人材はないと思っている。

 思わず自身の悪役(役目)を放棄して、本気でぶちのめそうかと毎回考えてしまう位には見事な正義の味方様だと。


 その豊穣の聖女が風使いに対して露骨に敵意をむき出しにしているのだ。

 風使いはたまたまこの場に居合わせただけの≪異能持ち≫なのだろうが…


 ―― 随分と人がいい、というか、危機感がないというか… ――


 ≪異能持ち≫は教会によって悪しき力と広められている。

 いつからそう言われているかは知らないが、少なくともラナンキュラスが物心ついた頃にはそうだった。

 ≪異能持ち≫である事を知られるイコール死に直結位に危険なことだと認識させられる程度に当たり前の事だ。

 にも関わらず後の自分の危険を顧みずにこんな誰がいるか分からない公の場で≪異能≫を披露するとは……。


 ―― まぁ、昔よりは若干マシにはなったかもしれないがな ――


 そんなことをつらつらと考えている間に、アイシャと風使いの男、リンドウと言う名の騎士のやり取りは続く。


 「リンドウ!公女アイシャが命じます!漆黒の華ラナンキュラスを倒しなさい!」


 キリッと命じるアイシャに、ラナンキュラスは天を仰ぎそうになった。

 なんだったら、勘弁してくれと思わず小さく呟いていたかもしれない。


 ―― 媛さん、あんた絶対楽しんでんだろう ――


 どんな結末にすれば満足なんだとラナンキュラスは彼女に問いかけたかった。

 どう収集着けるべきか悩むラナンキュラスの耳に、「承知。」と無表情ながらも闘志に燃えるリンドウの声がとどく。



 ―― いや、『承知。』じゃねぇよ ――


 心底吐き出したかった言葉を飲み込み、ラナンキュラスは闇の大鎌を手に取った。




 

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