無愛想騎士の忠心
彼女達に向けられた疑惑と嫌悪の視線に、かつて母から向けられた感情が頭の中を巡る。
恐怖や忌避、そして明確な拒絶。
領内では父や領民達には認められても、外ではどうなのかとそう考えていた。
フォルソーン教は国教とはされていないが、世界各地に信者は多い。
教会の言うことが絶対とまではいかずとも、それなりに信用してしまうものもまた多くいる。
実際に領地からここに至るまでの道のりの中で≪異能持ち≫に対しての忌避感、嫌悪感を感じさせる出来事はあった。
≪異能≫達で構成される悪の組織の事を差し引いてもだ。
だが、≪異能≫は魔の者に与えられた邪悪な力などではない。
では何だと問われたら答えられないが、しかしリンドウはこの能力は自身の正義以外に使ったことはないし、今後も使う気はない。
しかし、人々はそう考えない。
リンドウだけが厭われるだけの問題ならば構わないのだ。
彼は自分を知らないものに批判されても折れる事は無いという自信がある。
しかし……。
―― 俺の身元を明かせば、父上達に迷惑がかかってしまうのでは………。――
少女達は教会の≪奇跡の人≫だと言うことは間違いない。
例えこの場にいる漆黒の華の仲間ではないと証明できても邪悪な何物かに魂を売ったと断じられてしまったら……。
自分だけなら未だしも、もしヴローン家に要らぬ嫌疑がかかってしまったら……。
迷い、沈黙するリンドウに青髪の少女が白銀の杖を構えた。
「…どちらにせよ…、≪異能≫を持つ者であれば……教会の討伐すべき存在…。」
まだ息を乱しながらも闘う意思を示す豊作の少女。
「ちょっ!ちょっと待ってよ!」
光のと呼ばれた茶髪の少女が慌てながら、豊作の少女を止める。
「≪異能≫を使ってたとしても、あの人観客を助けようとしてたじゃない!!」
「だから…何だと言うのです?…こちらを油断させる…ための行動とも…考えられます。」
揺らぐことのない敵意に光の少女が一瞬怯む。
「確かに≪異能≫を使ってたよ!けど…」
それでも尚食い下がろうとする少女の背後に、闇の塊が現れた事に気づいたリンドウは咄嗟に少女の方へ走ろうとした。
闇が鎌の刃のような形になったかと思うと持ち上がり少女達に振り下ろされようとする。
しかし、その前に、
『清らかな水よ、数多の生命の源よ、汝悪意を遮る障壁となりてこれを阻まん』
清廉とも言える澄んだ白い水の壁に阻まれ、闇の刃が水の壁の中で溶かされていく。
そうして闇の刃を溶かした水の壁もまた空中へ溶けていった。
「複数相手には疑心暗鬼を煽り仲間割れを誘う、随分と古典的ね。」
アイシャが挑発するように言うが、漆黒の華は軽く肩を竦め余裕な態度に変わりはなかった。
「流石にそちらのお媛様には通じないか。そっちの二人には通用しそうだったがな」
と更に挑発するが、
「時間稼ぎのつもりなら無駄よ。」
あっさりとアイシャは切り捨てる。
「ここにいるリンドウ・ヴローンは我が公国を護らんとする誇り高き騎士。悪の組織とは何ら関係ない。それは彼の行動を見れば明らかよ。」
リンドウは驚いて敵前にも関わらずアイシャの方へと顔を向ける。
辺境伯の子息とはいえ、三男の騎士爵程度しか無い自身がまさか名乗ってもいないのに言い当てられるとは思いもしなかったのだ。
「リンドウ!」
アイシャがリンドウを見る。
揺らがない真っ直ぐな視線に自ずと背筋が伸びるような気がした。
「公女アイシャが命じます!漆黒の華ラナンキュラスを倒しなさい!」
彼女の凛とした気迫に漆黒の華が怯んだように見える。
まるで先程の舞台を再現してるかの構図だ。
「承知。」
リンドウは高揚していた。
自身の心に巣くっていた心の闇に一筋の光が射したように感じた。
忠誠を捧げるべき公王は昏君と公国では周知され、その嫡子の公女アイシャもまた≪お飾り媛≫とよからぬ噂が出回っていた。
主君に自身の≪異能≫を隠し立ては出来ないと思ってはいたが、しかしそのような噂の相手に打ち明けて、果たして大丈夫なのかと思い悩んでいた。
しかし―――
襲撃の際の振る舞い、上に立つものとしての風格、敵を前にしても怯まない勇敢さ。
何より≪異能≫に対し、偏見を持つことなくリンドウ自身を見て信用してくれた、その事実が彼の悩みを晴らしてくれた。
―― 偏見を厭っていた俺の方が噂を鵜呑みにして媛を偏見の目で見ていたとはな ――
リンドウは自身の浅はかさに恥じた。
それと同時に、この媛が自分の仕える公国の公女であることに誇りを覚える。
リンドウはこの時、忠誠を誓うべき主君を見つけた。




