無愛想騎士の苦い過去
リンドウの家は代々辺境を守護する由緒正しい辺境伯である。
彼の父はもちろん、彼の兄や彼自身も騎士であり、公国や公王に忠義を捧げて日夜領地を守り、領民を守り、公国を守る為に働いている。
公国に仕える騎士としての道に悖るような事をしてなどいないと、胸を張って言える。
そう、彼自身は何もしてはいない。
ただ、≪異能≫の力に目覚めてしまっただけだったのだ。
彼がその力に目覚めたのは、世界混迷の真っ只中であり、混乱に乗じてか暴徒が領内で暴れ、屋敷にまで押し入る事件が起きたその時であった。
折悪く、領主であるリンドウの父は国境で勢力を大きくしていた盗賊団の討伐に兵達と共に向かい、当時既に騎士であった兄二人もついていった。
治安が悪化していた時期だったので、領内の守りを薄くするわけもなく、それなりの兵を随所に置いていた筈だが、まるで示し会わせたように領内の至るところで暴動が起きたのだ。
それぞれの兵が各所へと暴動を収めに向かうと、その期を狙ってたかの如く事件は起きた。
平時であれば厳重である領主邸の主は不在。
各入り口にいる兵達もその時は最低限。
屋敷内には領主の妻や、政務を行う事務方、家内を整えるハウスキーパーなど非戦闘員がほとんどで、リンドウも12歳とまだ騎士見習いの未熟な子供だった。
暴徒達は屋敷内に押し入ると、無抵抗な使用人達を次々と殺害、持っていた武器を出鱈目に振るい、仲間同士でも大怪我を負わしたりと、およそ正気の沙汰とは思えなかった。
リンドウも異変に気付き懸命に抵抗したものの多勢に無勢、武器を奪われ痛め付けられ取り押さえられる。
領主の執務室に暴徒達に引き摺られるように連れていかれ、そこに立てこもっていたリンドウの母達の身柄を押さえるための脅迫の材料とされた。
足の骨をへし折られ重症のリンドウを、暴徒のリーダーらしき男が執務室の前でいたぶり始める。
「グゥッ!!」
まだ未熟ながらも騎士としての志を持つリンドウは声を上げぬように耐えようと唇を噛み締めた。
しかし、唐突にリーダー格の男が剣をリンドウの太ももに突き刺す。
「――ッゥアァッ!!」
流石に耐えきられずに上がるリンドウの声に堪らずドアが開いた。
「奥方様ッ!」
痛みの余りに滲む涙の向こうで幾多の手が母へと向かう光景に、リンドウは最悪な状況を考え怖れそして………。
「やめろォオォォ―――!!」
そこから彼の記憶は無い。
しかし、彼が目を開いたときには父や兄がおり、彼を心配そうに見守っていた。
「……は…母上…は?…」
彼が意識を失う前の事を問えば無事だと云うことで安心したものの、しかし父達の顔色が優れないのがその時気になった。
怪我が癒え、屋敷も徐々に片付き、世界混迷も少しずつ収まっていった。
しかし、リンドウは自分の母とまともに会える時が来る事はなかった。
彼の母は敬虔なフォルソーン教の信者であった。
それゆえ、リンドウが≪異能≫に目覚めてしまった事を嘆いた。
自分のせいで息子は魔の者に魂を売ってしまったと、自身を責め、彼女の心は病んでいってしまった。
療養のため彼女は離れで過ごすことになり、リンドウも出来る限り母に姿を見せぬように心がけた。
幸い彼の父の方は≪異能≫に対する忌避感はなく、いつの頃からか出没し始めた≪異形≫に対抗出来る能力だと言ってくれた。
領民達もはじめの頃は怯えていたものの、彼らを守るために能力を振るうリンドウに徐々に感謝をするようになっていった。
彼の≪異能≫の目覚めは彼の性格に大きく影響した。
感情的で向こう見ずとも言えた行動は鳴りを潜め、慎重にそして注意深く振る舞うようになった。
それに伴い寡黙で物静かな性格へと変化していった。
だからと言って、自身を蔑む事もなかった。
誰かのために≪異能≫を振るってきた彼は揺らぐことのない強い信念を内に秘めた騎士へと成長を遂げた。
そんな彼ではあったが、時々屋敷内で自身を見る母の姿に気づいた時やはり辛いと感じるのだ。
遠目ではあるものの、しかしはっきりと彼女の感情が見えてしまう。
躊躇い、後ろめたさ、そして―――恐怖を―――




