華と光と茶番劇
対峙する俺とアレイシア。
――そろそろ来るか――
近づいてくるナニかを感知出来た。
向き不向きがあるのか、はたまた経験の差か、異能持ちでも異形の者たちの存在を感知出来る者と出来ない者がいる。
幸いにも俺は前者で、アレイシアは後者のようだ。
だからこそ、こういった演出がなんとか可能なわけだが。
俺はゆっくりと近づいてくる異形の者たちに合わせて腕を上げる。
――タイミングが合わないと誰かさんみたいに目も当てられぬ酷い有り様になるからな――
以前、俺ではないヤツが同じような演出をしてものの見事に失敗した。
俺に協力を仰ぎ、タイミングを見計らって指を鳴らし、その少し後に異形が出現!という予定が10秒近く経っても現れず。
微妙な間があった後、気を取り直した相手側がヤツに仕掛けたとほぼ同時に異形が相手側の足元に登場。
死人こそ出なかったが、えらく悲惨な現場だった。
俺のタイミングの出し方に問題があるとヤツは言ったが、俺はヤツの短気さが問題だと返した。
その後ヤツは俺と共演NGになった。
そんな悲劇があったから俺もこの演出にはかなり気をつかっている。
アレイシアが俺に顔を向けたまま、視線を周囲に巡らす、その瞬間。
『―ゥオぁオオぉォ――――』
俺とアレイシアの丁度あいだ辺り。
奇声と共に乾いた大地から生える異質な存在―――。
人の身長を越えた樹木のようなナニか。
青紫色をした幹の割れ目から目玉に似通ったものが幾つもこちらの方を覗き込んでいる。
本体から枝分かれした蔦が獲物を求めてぐにょぐにょと蠢きこちらを窺っているようだ。
本能的にその存在は嫌悪感や拒否感を俺たちに抱かせてくる。
「………随分と悪趣味な魔物ね。」
気持ち悪いと吐き捨てるように呟くアレイシアに内心肯定する俺。
仮面がなければしかめ面が隠せなかったな。
――さて、どう動く?――
悪の結社の予測だと、そこまでの力はないらしいが……。
俺は背後から柄の長い大鎌を取り出し構える。
アレイシアから見たら、彼女に向かって構えているように感じられるように、だが実際は両者に向かってだ。
今、この場にいる存在に味方同士など誰もいない。
それを明確に知っているのは俺だけだ。
表向きこの異形の者たちは悪の結社が造り出した生物兵器という形になっている。
今回は新たな兵器の試運転、といった設定にしてある。
蔦野郎が俺に向かってくれば『失敗作』として両方を攻撃。
アレイシアに向かっていけば、指示を出してる振りをし、アレイシアのタイミングに合わせて蔦野郎を攻撃する。
どちらにしても厄介な話だ。
「さぁ、演舞劇を始めようか――」