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悪花狂乱  作者: 謙作
第三章 お飾り媛と無愛想騎士

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お飾り媛の謀



 「この地に(わたくし)アイシャ・シェラ・シェース・チェスディートがいる限り、あなた方悪の結社の好きになどさせません!!」



 華々しく歌うように台詞が紡がれていく。

 自身と同じ亜麻色の髪の女優を眺めながらアイシャは欠伸を噛み殺す。


 「媛様、つまらなそうなお顔はお止めください。」

 アイシャの隣の席にいる女性が窘めるように囁くと、アイシャは彼女の方に視線をむけた。

 「だって、仕方ないじゃない?自分が褒め称えられるための演劇を他にどんな顔して眺めろって言うの?」

 「ねぇ?」と逆隣の一席離れた帽子を深く被る青年に視線だけを向け同意を求めるが、


 「俺だって自分が間抜けな声を上げて倒される様を見せられてどんな顔してりゃいいのか教えて欲しいですがね。」

 青年は舞台を、正確には黒いマントに黒いフードを被り、白地に赤い薔薇の模様が入ったマスカレードマスクを着けた敵役の男が大袈裟な悲鳴を上げて逃げる姿を眺めながら小さく答えた。


 その青年の顔を見てニヤリとアイシャは舞台に顔を向けたまま微笑む。

 「あら、カナンくん。だったら君が≪ラナくん≫の役を演じれば良かったじゃない?」

 疲れたような顔を浮かべて天を仰ぐように顔を舞台から背け、青年、カナンは「勘弁してくれ。」と深くため息をついた。


 ≪悪の結社≫の≪漆黒の華ラナンキュラス≫の表の姿、カナンは自身の飼い主に先の任務の顛末を報告する為、ここに足を運んだのだが…。


 ―― まさか仮の姿とは言え、自分が舞台上にいるとはな ――


 この劇場の総責任者の発案で今回の演劇の内容はある程度知っていた。

 演劇の内容は公国の媛、アイシャが≪奇跡の人≫と協力をし、≪悪の結社≫を倒すという勧善懲悪のお話だ。

 表向きは媛の威光を公国の民に知らしめるため、裏向きは教会に対しての牽制、真の目的は≪悪の結社≫の知名度を上げるためといったところだ。


 『全ての生命の母よ、世界の源よ、(よこしま)なる悪を穿ちたまえ』

 高らかな呪文の詠唱の後に水色の光の演出が入り、≪漆黒の華≫がこれまた大きな動作で上半身をのけ反らしながらバタンと倒れるのを見てカナンは半眼を向けた。


 ≪悪の結社≫の創設者であり、カナンの飼い主アイシャもまた水の≪異能≫の能力を持つ存在だ。

 本来は異端者としてカナンたち同様迫害される側なのだが、彼女は公国の民を助けるために堂々とこの能力を使い、自身もまた≪奇跡≫を使う存在だと喧伝しているのだ。


 華やかな美しい容姿に、公国の媛という肩書き、神聖さを思わせる水という≪異能≫。

 教会の上層は彼女を人気取りのために≪奇跡の人≫の称号を与え手駒にしたかっただろう。

 しかし彼女自身が先にそう公国中に喧伝した為に教会お得意の脅迫じみた勧誘は出来なくなった。

 民のために≪異能≫を使う媛を≪異能者≫だなどと糾弾すれば公国全土を敵に回しかねない。

 教会は≪奇跡≫の使い手と自身を主張する彼女をとりあえずは黙認することを選んだが、影では彼女に教会の洗礼を受けるよう強く勧めている。


 「教会も最近しつこいのよね~。≪奇跡の人≫として洗礼を受けた方が今後の公国の為にもなるって。」

 うちは政教分離だって言ってんのにとぼやくアイシャの言葉を聞き、ソッと視線を少し後ろに向ける。

 「……なるほど、それでヒヨコ達が劇場に足を運んでるって事か。」


 カナンの眼は舞台の正面の真ん中辺りの列にいる二人組を捉えていた。


 普段の教会の白を基調とした衣服とは違い、ヒヨコと称されるに相応しい、薄い黄色のワンピースにいつもの明るい茶髪を一まとめに結われている。

 劇場に来たからなのか落ち着いた赤い色のリボンが見えた。

 つい先ほど上演中にも関わらず普通に声を出して周囲から顰蹙の顔を向けられていたのを見た時は、こんな所でも間の抜けた行動は変わらないと呆れたが。


 「なるほどね、あの子があなたのお気に入りの、ね。」

 「そんな下世話なババアみたいな顔つきを高貴な身分の方がするのはどうかと思いますがね。」

 意味ありげにニヤ~ッと笑うアイシャにカナンは嫌なものを見るような失礼な視線と更に無礼な物言いで返す。


 流石の無礼千万な言葉にアイシャも軽く顔をひきつらせ、アイシャの隣からも

 「主たる媛様への貴方の発言こそどうかと思いますが。」

 顔を向けずにしかし鋭く咎める声が上がり、カナンは冷めた表情で「それは申し訳ございません。」と軽く肩を竦めた。

 アイシャは軽く頬に手を当て苦笑し、隣に座る侍女フジにいいからと軽く手を振る。


 「おしゃべりはこの辺にして、さっきの続きを聞かせてちょうだい。」

 盛り上りを見せる舞台とは逆に微妙な雰囲気となったこの場の空気を払拭すべく、アイシャは話題を元の、この間のカナン曰く≪蔦野郎≫の任務の件に戻した。



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