光の神子 アレイシア 二の舞を舞う
少し遅刻しました。
明日は大晦日のため更新できないかも。
「感覚的に掴め、悠長に覚える時間はないぞ。」
ラナンキュラスは大鎌を構え直し、ツタモンを見据えている。
「今、俺たちは目でこの世界を見ているが、異形は目で追うよりも感覚で追え。お前らの言う≪奇跡≫と本質は変わらん。」
その言葉に違和感を覚える。
教会に教わった内容と大きく違ったからだ。
≪奇跡≫の力は神より選ばれた者が授かる尊きものであり、≪異能≫を使う邪悪な力とは相反するものだ。
その邪悪な≪異能≫と≪奇跡≫の本質が同じ………?
疑問に思う私には気づかなかったのか、ラナンキュラスは説明を続ける。
「今お前はつたや………俺の下僕を目で見、意識を集中している。その集中を多方面に散らしてみろ。」
「…ど、どうやって……?」
よく分からないのが少し恥ずかしく感じ、思わず声が小さくなる。
「奴から目を外さずに俺の持つ得物を視ろ。いいか、眼で見るんじゃない。例えば、額に自身のもう一つの目があると思い込んで視ろ。」
呆れられるか、馬鹿にされるかと思ったが、意外なことに普通に返された。
―― 目じゃなくて額に…、額に目がある…額に目……――
自分にそんな感じで言い聞かせてみると、ブワッと闇の大鎌が頭に視えた!
私が出来たことを察したのか、説明を続けながらラナンキュラスはツタモンの方に向かい始めた。
「物質として捉えるには目で見るのが早いが、≪奇跡≫だの≪異能≫だのは精神的なナニかとして感じろ。さっきみたい不意をつかれるような攻撃でも察しやすくなる。」
ラナンキュラスを追いながら、私も杖を再度強く握った。
ツタモンは始めと変わることなく、蔦の鞭で攻撃してくる。
確かに凄いスピードだし、威力も強いだろうが、ラナンキュラスが大鎌で捌いてくれた。
―― …今回だけ!今回だけだから!! ――
頼りになるだとか、そう考えてはいけない。
ラナンキュラスは敵なのだから ―――
『棘よ、深く縫い止めろ』
静かに唱えた呪文に応えるように、ラナンキュラスの周囲に一瞬闇が漂い、無数の棘を形作った。
うちの食堂の鳥肉の串焼きの串ぐらいのサイズ……いや、編み物の編み棒位のサイズだ。
それらがツタモンの蔦や身体に突き刺さって行く。
…凄い…けど……毛虫みたく見えてちょっと気持ち悪い。
「呪は唱えなくても発動することは可能だろうが、その言葉で集中力を高め、≪奇跡≫の力を無駄に分散させる事なく顕現出来る。更に何度も繰り返すことで反射的に自身の≪奇跡≫を発揮出来る。」
内心少し引いた私を気にすることなく、説明は続く。
実はサージェスさんも似たように言ってたけど…。
聖堂の偉そうな司祭様は神への感謝の言葉や偉大さを讃え、聖句を使えって言われたんだよなぁ。
最終的に「つまり、司祭様の教えた聖句を使い続けて集中力を高めろ。」と、面倒くさそうな顔でサージェスさんは締めてたけど。
ツタモンは蔦を動かそうとしたのか、蔦の付け根がひきつったように少し動いた。
しかし、棘によって地面に張り付けられてるから動けずに軽く体勢が崩れた。
「光の!!」
「分かってる!!」
呼び掛けに応え、私は聖句を唱え始めた。
『主よ!清らかなる光にて敵を討ちたまえ』
杖を高く掲げると光の弾が幾つか現れた!
けど、何故か分かった、これは通じないってことが。
杖を上から下へ振り下ろすと弾はツタモンへと飛び出し命中する。
しかし。
「光の…。」
ラナンキュラスの呆れ声に唇を噛み締める。
光の弾は全て命中したけど、全く全然効いてない。
「何で!?言われた通りにしたじゃない!!」
子供みたいに癇癪を起こしながら自己嫌悪に陥る。
聖句を唱えたけど、でも上手くいかない!
だってこの能力、神様から与えられたって実感がないもの!!
ラナンキュラスの舌打ちに情けないけど泣きそうになる。
大鎌でツタモンの蔦を集中的に攻撃し始めた。
私ももう一回と聖句を唱え始める。
『主よ、清らかな…』
聖句を唱えて、集中して……。
そんなグダグダになってしまった間にツタモンから棘がパラパラと抜け始めた。
「……え。」
違う、なんか分からないけど、違う。
棘は抜け落ちたんじゃない。
額に目、額に目と、神経を研ぎ澄まし、感覚で捉えようと集中した。
棘の色が、変わった?
目で見ても変わらないけど、なんだろう、ラナンキュラスの闇が蒼を含んだような黒だとしたら、ツタモンは赤、赤黒いといった感じ。
棘が最初はラナンキュラスの闇だったのに、ツタモンの闇色に上書きされたみたいな感じ。
小刻みにツタモンが痙攣してるかのように震えると、応えるように棘がツタモンの身体から周囲へと動いた。
―― 来るッ!! ――
私は無意識に前方へ、ラナンキュラスの方へ能力を集中させる。
ラナンキュラスもツタモンの棘乗っ取りに気づいたのか、大きく後方へ、私の直ぐ前まで飛び退いて来た。
ツタモンが爆発したと錯覚させるように、棘を四方八方へ跳ばしてきた。
『遮って!!』
私はラナンキュラスの前になんとか光の壁、とは言えない薄い膜を張った。
棘は膜に幾つか当たり、突き破ってきたけど、少し威力は落ちた気がした。
その少し威力やスピードが落ちた棘をラナンキュラスの大鎌がくるくる回って弾いていく。
『幾重に重なり阻め』
ラナンキュラスの声と共に闇色の壁が棘を遮断した。
「光の。怪我は?」
「え、あ、いや、うん!大丈夫!!」
こちらを気遣う言葉にビックリして思わず素直に答えてしまった。
普段のラナンキュラスとは思えない発言だ。
「今のお前が使った呪はただ言ってるだけなんだよ。」
「え?」
少し疲れたように言うその言葉の意味が分からず聞き返した。
「……呪は分かりやすく言えば、自分自身を奮い起たせる引き金みたいなものだ。」
「え?」
やはり分からず再度聞き返すと
「身も蓋もなく言えば、気合いを出すだけの言葉だ。」
なんとも分かりやすい答えが返ってきた。
そんな風に聖句の意味を知った私とラナンキュラスの方にツタモンが迫り来る。
棘を吐き終えた元の姿のツタモンは三度蔦を振るうが、ラナンキュラスも私も後ろに退くことで避けられた。
だけど。
避けた場所に蔦が深々と突き刺さったかと思うと何故か高速で私の方に跳んで来た。
樹木が跳んでくるなんて意外すぎるッ!
大量の蔦が私に目掛けて繰り出された。
思わず固く目を閉じた私の耳に
「アレイシアッ!!」
ラナンキュラスの声が聞こえた。




